日本の俊英たちが「ロッシーニ没後150年記念」で総力戦を展開

 ロッシーニの音楽は日本人の肌に合っている。軽妙洒脱。ブッファ(喜劇)はもちろんのこと、セリア(正歌劇、たいがい悲劇)においても“くどくない”情感が聴き手を温かく包み込む。ドイツ派がバイロイト詣に出かけるころ、イタリア派は生地ペーザロのロッシーニ・フェスティバルに参集する。歌う側に回っても、ワーグナーやヴェリズモオペラの強靭な声よりはイタリア語の細やかなニュアンス、装飾歌唱の精確なテクニックが重視されるので、日本人歌手の美点を生かしやすい。事実、ペーザロでは、故アルベルト・ゼッダ教授の発掘した若い日本人歌手たちが活躍する。

 東京文化会館が11月17日、小ホールで主催する〈ジョアキーノ・ロッシーニ没後150年記念 レクチャーコンサート『ロッシーニの魅力再発見!』〉では東京音楽コンクール出身者を中心に、ロッシーニを得意とする歌手7人がそろい、同コンクールや大阪国際音楽コンクールの上位入賞者を集めた器楽アンサンブル、日本にイタリアオペラを広めたパイオニア・藤原義江の孫に当たる藤原藍子のピアノと共演。多数の解説書も執筆している水谷彰良・日本ロッシーニ協会会長の解説を交え、声楽と器楽と2つの分野の名作をたっぷりと鑑賞できる。ホワイエにはロッシーニの直筆書簡や写真、風刺画なども展示する。

 歌手ではベテランの天羽明惠(ソプラノ)が“隊長”格。テノールの渡辺康もイタリアの舞台経験が豊富だ。東京音楽コンクールの入賞者では富岡明子(メゾソプラノ)が第1回3位、高橋華子(同)が第8回2位、小堀勇介(テノール)が第16回2位、日本を許点とするロシア人バリトンのヴィタリ・ユシュマノフが第14回2位の実績を持つ。小堀はペーザロにも出演、ベルカントテノールの新星と目されている。水谷が監修するだけに、アリアの歌合戦ではなく、三重唱や六重唱も楽しめる選曲だ。

 器楽もヴァイオリンの岸本萌乃加が第9回の弦楽部門1位、コントラバスの白井菜々子が第13回の同3位、クラリネットのアレッサンドロ・ベヴェラリが第15回の木管部門1位、ピアノの西村翔太郎が第14回のピアノ部門2位。さらに大阪国際音楽コンクールの入賞者も2人いて、ヴァイオリンの山田香子が第15回2位(最高位)、チェロのピーティ田代櫻が第4回2位という成果を収めている。ロッシーニの器楽曲は声楽に負けず劣らずの旋律美やユーモアだけでなく、パガニーニとの接点がもたらした超絶技巧の仕掛けにも事欠かない。オペラに比べ余りにも不当な知名度、演奏頻度に甘んじてきたが、日本の新しい世代の名手たちの競演により、新たな輝きを獲得することだろう。

 


LIVE INFORMATION

Music Program TOKYO シャイニング・シリーズVol.3 ジョアキーノ・ロッシーニ没後150年記念 レクチャーコンサート「ロッシーニの魅力再発見!」
○11/17(土)14:30開場/15:00開演
会場:東京文化会館 小ホール
出演:岸本萌乃加、山田香子(vn)ピーティ田代櫻(vc)白井菜々子(cb)アレッサンドロ・ベヴェラリ(cl)西村翔太郎(p)天羽明惠(S)富岡明子、高橋華子(MS)小堀勇介、渡辺康(T)ヴィタリ・ユシュマノフ、市川宥一郎(Br)藤原藍子(p)
解説:水谷彰良(日本ロッシーニ協会会長)

【曲目】ロッシーニ:
弦楽のための6つの四重奏ソナタより 第1番 ト長調
チェロとコントラバスのための二重奏曲 ニ長調より 第3楽章
クラリネットとピアノのための幻想曲
パガニーニへの一言
ロマンティックなひき肉
オペラ『マオメット2世』より「心配ありません 卑しい愛情には」
オペラ『湖の女』より 三重唱
オペラ『チェネレントラ』より 六重唱 他
www.t-bunka.jp/stage/host_10847.html