北海道出身、新世代のシンガーソングライター、Mel。その歌声は、洪水のようなタイムラインの中に紛れる名前のない感情を、繊細な手つきで掬い上げる。“彗星と街”のバイラルヒットで人気に火がつき、ドラマとのタイアップ、フェスへの出演など、SNSでの話題に留まらず、確実に活動の幅を広げている。
新たなリリースである『After』は、〈過去と未来のあいだに揺れる「余韻」〉をテーマとした6曲入りのEPだ。歌とソングライティングはもちろん、今回はMel自らが全曲のアレンジも手掛けている。そんなEPができるまでの過程を、Melに尋ねた。語り口は慎ましく冷静ながら、曲作りの話となると静かに熱が帯びる姿が、印象に残った。
〈ペンとノート〉で乗り越えたスランプ
――今回はEP全体を通して〈余韻〉がひとつのテーマになっているとか。
「そうですね、作業し終わった朝や、自分のこれまでを振り返る瞬間など、ふとした時にポツンと出てくる感情というか。そういった感情を描くことが、ひとつのコンセプトになっていますね」
――たしかに、以前インタビューしたアルバム『LIFE』の時よりも、やや内省的な印象を受けました。
「前作は、自分以外の他者だったり、自分が今生きている世界だったりについての曲が多かったと思うんです。それよりも前の、ごく初期のころに作っていた曲は、もっと内省的な曲が多かった気がします。そういう曲を、今もう一度作ったらどうなるだろう、という気持ちはありました。まだまだ、言語化できない部分もありますが、思考の整理みたいな面もありますね」
――以前の作風で、今の自分を俯瞰するような。
「そうですね」
――それから、今回は初の、全曲Melさん自身によるアレンジだそうで。それによって、〈今の「Melらしさ」〉のようなものがより出ている気がしました。
「はい、もちろん人にアレンジしてもらうのもいいんですけど、自分がアレンジした曲は〈純度〉があるように思います。一番届きやすいというか、説得力のある内容になるんじゃないかと」
――全曲のアレンジというのは、作業的に大変ではありませんでしたか?
「作品全体を自分でアレンジするのは、前からやりたかったことだったので、実現して嬉しかったですね。なので、大変というよりは、とにかく楽しかったと思います。好き勝手やらせてもらえました(笑)。
それに、セルフアレンジではあるものの、いろいろな人からアドバイスはもらいました。以前“Week”という曲をアレンジしてもらったRenさん(BLACK BERRY TIMES)にも、おすすめのピアノの音源を教えてもらったり。スタッフの皆さんにもいろいろ助けてもらったし、振り返って考えてみると、いろんな人のサポートのおかげで、楽しくできたんだと思います。
ただ、悩む場面もありました。作詞も一回、スランプになって。何を書けばいいのかわからなくなっちゃって……」
――どのようにして、スランプから脱却しましたか?
「いつもiPhoneのメモに歌詞を書いているんですけど、そうじゃなくて、ペンとノートを買ってみたんです。ファンレターとか、人から貰う手紙でも、やっぱり手書きだと、同じ内容でも、温度感が違うと前から思ってて。歌詞も、ノートに手で書くと〈あ、これは自分の言葉じゃないな〉っていう判断が、すごくしやすくなったんですよ。それで作業が進むようになりましたね」
――そのノートを、制作の記録みたいに公開したら面白そうですね。自筆原稿的な。
「いやー、なぐり書きみたいな、間違えたらグシャグシャっと消してるようなノートなんで(笑)。だから、ノートに書いた上で満足のいく内容になってから、清書みたいにスマホに保存して、って感じですね」
素直に楽しんで作った結果できた曲
――では、EPから1曲ずつ紹介していただければと思います。まずは1曲目の“Moonlight”。イントロのスキャットがキャッチーですが、歌詞はどういった内容でしょうか?
「この曲の歌詞に出てくる〈君〉は、もう1人の自分というか、自分の中にある、素直になれない部分との対話ですね。心のどこかで嘘をついている状態が苦しくて〈忘れてしまえば〉と思うんですけど、2番、3番と曲が進む中で、最終的にはそんな自分も受け入れてあげたらいいんじゃないかっていう、そんな歌ですね」
――1曲の中で、心の揺れが変化していくんですね。“レイトショー”はどうでしょうか? ハネたリズムのラップがいいですね。
「もともと音楽活動を始めるきっかけとして、Rin音さんやクボタカイさんのようなラッパーの影響があったんですけど、改めてラップをやってみよう、と思った曲ですね。アルバムを作る上での〈自分らしさ〉を頭で考えることを一旦忘れて、ただ自分に素直に楽しんで作った結果、こういう曲ができたって感じですね」
――ラップのスキルについて、以前の自分と比べて変化は感じましたか?
「テンポよく韻を踏みつつ、自分の考えていることも乗せて……という両立が、以前はすごく難しくて。テンポを優先すると、歌詞に意味を持たせづらくなっちゃってたんですけど、今はわりと両方ができるようになってきた気がします」
――“Twilight”は、ちょっと懐かしいJ-POPっぽさがありますね。転調前のブレイクで秒針の音だけになるアレンジに、ハッとしました。こういう仕掛けはポップで面白いですね。
「ありがとうございます」
――アレンジの引き出しみたいなものは、意識していますか?
「自分の中にはあったけど出してなかったインプットがあって、それを出してる、という感じですね。この秒針のアイディアも、何かリファレンスがあるわけではないですね」
僕はこう思ってて、君もこう思ってるなら、こういう風にしない?
――既存の曲を参考にしたり、新たに研究したりしたというよりは、ストックしていたものを出していると。続いては“サーカス”という曲ですね。
「この曲は、1番は自分のことばかり歌ってますけど、2番になると、その歌を聴いてくれている人たちがいる、という展開ですね」
――『LIFE』収録の“To me”も、ファンに向けた曲でしたが、この曲も、アイディアとしては近いですね。
「そうかもしれません。〈僕はこう思ってて、君もこう思ってるなら、こういう風にしない?〉と、人に提案しているような歌ですね」
――“氷菓”は、久石譲とか、映画音楽的な雰囲気があります。以前の“サマーメイド”の時とはまた違う雰囲気の、夏の曲ですね。
「今回のEPは、夏の前にはリリースしたいなと思ってました。そこで、一足先にこういう夏の曲を入れておいて、季節感とともに聴いてもらえればと」
――〈かなわない〉というフレーズが2回出てくるけど、漢字が微妙に違うのも面白いですね。8月の終わりの〈日本の夏〉という雰囲気で、縦書きの歌詞字幕が似合いそうですね。
「確かに、そんなイメージですね(笑)。今回のEPの収録曲を見た時に、バラードが1曲欲しいなと思って。aikoさんの“KissHug”っていう曲があって、その曲がすごく好きなんですよ。ピアノのイントロで始まる曲なんですけど、自分なりにああいう曲を作ってみようと思ってできた曲ですね」
――最後の“夜のリズム”は、アコギ1本のシンプルなアレンジですね。
「これはEP制作の最後の最後に、振り返った時に出てきた言葉をそのまま歌にしていますね。『After』というEPのタイトルもそうですが、ここまで曲を作ってきたことの余韻みたいなものを、最後に表せたらいいなと思ったので。〈書いては消して〉みたいなことはせず、日記みたいに自然と出てきた言葉を綴っています」
――推敲していない、そのままの歌詞なんですね。
「冬の深夜の3~4時くらいの、除雪機の音だけが聞こえる、本当に歌詞のままの状況で作った曲です。その時の空間みたいなものを共有できたらなと思いました」
もっと高みを目指したい
――EP全体を通して〈Mel 100%〉の作品になった感じですね。次作は逆に全曲コラボみたいな作品になったりすると、ギャップがあって面白いかもしれませんね。
「そういうのもアリですね(笑)」
――ライブも定期的にやられていますよね。東京でやるライブと、地元である札幌でやるライブ、どちらがやりやすいですか?
「うーん、札幌の方が安心感はあるかもしれませんね。最近は家族や友達も観に来てくれたり。あと、自分が以前はお客さんとして遊びに行っていたイベントに出演することになって、友達も喜んでくれてました。
やっぱり、ライブは積極的にやっていきたいですね。東京や札幌はもちろんですが、他の土地にも行きたいです。大阪でライブをした時が印象に残ってますね。リアクションをダイレクトに表してくれるお客さんが多い雰囲気でした」
――『After』の曲は、すでにライブでもやられていますか?
「“Moonlight”なんかは、今年のライブでもうやっていますね。6月以降のライブでもEPの曲はやっていくつもりです! ライブは頑張りたいし、とにかくもっと音楽活動で〈高み〉を目指したいですね」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年5月8日(金)
TRACKLIST
1. Moonlight
2. レイトショー
3. Twilight
4. サーカス
5. 氷菓
6. 夜のリズム
作詞:Mel/作曲:Mel/編曲:Mel
PROFILE: Mel
〈チルなビートと優しい声で言葉を紡ぐ次世代チル系シンガー〉として2020年に音楽活動を開始。2021年1月にリリースをした2ndシングル“彗星と街”は、Spotifyのバイラルチャートに入り、ストリーミング総再生回数1,000万回突破のヒット曲となった。2024年、自身初の1stデジタルアルバム『ノンフィクション』をリリース。収録曲“コヨイノウタ”はTVドラマ「恋をするなら二度目が上等」のOP主題歌に、続く配信シングル“東京ナイトロンリー”はTVドラマ「25時、赤坂で」のED主題歌に抜擢されるなど、話題を広げている。
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