騒がしい時代を生きる人々に寄り添う、優しい歌声。
“彗星と街”のバイラルヒットで知られる新世代シンガーソングライター・Melの2枚目のフルアルバム『LIFE』がリリースされた。シティポップやローファイヒップホップ、ボカロ文化やネットラップなど、ここ10年のトレンドを自然体で吸収したスタイルが生み出す音楽――そのサウンドは、ふと見上げた夜空の、輝く星と〈目が合った〉時のような、温かい気持ちを抱かせる。
この若きシンガーの〈素顔〉は、旺盛な楽曲のリリース量に比べると、まだあまり表には出ていない。インタビュー現場で相対したMelの瞳は、静かに、しかし確実に、音楽への情熱で煌めいていた。
遊び感覚から生まれたバイラルヒット“彗星と街”
――Melさんがもともと、音楽に興味を持ち始めたのは、いつ頃からでしょうか。
Mel「小学6年生の頃、『Mステ』でSEKAI NO OWARIが“眠り姫”という曲をやってるのを観たのが最初ですね。もちろん、音楽っていうものがあるのはそれまでに知っていましたが(笑)、〈この曲、いい!〉と強く思ったのは、それが初めてでした。そこからいろいろ検索したりして、音楽を聴くようになりました。
自分で音楽を作り始めたのは、コロナ禍が始まったぐらいの時期ですね。高校3年生の終わりごろだったかと思います。ちょうどチルミュージックというか、そういうものが流行ってて、Rin音さんだったり、クボタカイさんだったりの曲がYouTubeのおすすめに出てきたんです。ラップだけど凄く聴きやすくて、刺激を受けました。〈自分でもやってみよう〉と。
最初はYouTubeのフリートラックを使って、本当に遊び感覚で録音していましたね。ちょっとしたカバーの動画を当時のTwitter(X)にアップしてみたら、知らない人からいいねが来たり、思ったより伸びたんです。そこから作詞作曲の面白さに目覚めて、没頭していった感じです」
――音楽活動の場は、最初からネットだったんですね。地元のライブハウスや弾き語りではなくて。
Mel「はい、ごく親しい友だちには〈実はこういうのやってる〉ってこっそり教えてたけど、周りには隠してました。それから進学して、もう少しちゃんと活動してみようと思って。それで、最初に配信したのが“usually”という曲です。
そこから2曲目に配信した曲が“彗星と街”で、これがプチバズって、その時、本格的に〈音楽をやっていきたいな〉という気持ちが芽生えました」
――”彗星と街”はいわゆるバイラルヒットで、1,000万回再生を突破したとか。アーティストとしては嬉しい反面、プレッシャーを感じることはありませんでしたか?
Mel「そうですね。過去の自分との戦いじゃないですけど、乗り越えるべき壁を自分で作っちゃったというか。ただ、最近はあまり意識してないかも知れないですね。〈またああいう曲を書かなきゃ〉みたいなことはないので。普通に、たくさんの人に聴かれて嬉しいという気持ちの方が強いです。
自分の音楽活動について、家族にもあまり言ってなかったんですよ。でも、僕の姉の旦那さんが、たまたま何かで“彗星と街”を聴いて〈あれ? これ、弟くんの声じゃない?〉って気づいて、そこから家族にバレて(笑)。他にも友達が〈(Instagram)ストーリーで皆“彗星と街”を使ってるよ!〉って教えてくれたり。僕はどちらかというと内向的だし、交友関係も広くないタイプなんです。なのに、そんな自分の耳にまでそういう情報が入って来るっていうことは、意外と広まってるのかな?と思って、嬉しかったですね」