MOROHAのアフロとヒグチアイ――清濁併せ持つ感情を炙り出す作家性でも共振してきた同じ地元の2人がユニットを結成!! サニーサイドな生活の瞬間が描かれたアルバム『祝祭日』を貫く新しいアングルとは?

あるのは遊び心だけ

 MOROHAのMC、アフロとソロ・アーティストとして活動してきたヒグチアイによるユニット、天々高々が初となるアルバム『祝祭日』をリリースした。アルバム冒頭、“やったぜべいべー -日曜日 ver.-”の一音目が鳴った瞬間、何かが一気に明るくなるような感覚と共に、〈あの2人がこれを?〉と驚かされる。Sundayカミデのアレンジによるホーンが華やかに鳴り響くサウンドのなかで歌われるのは、ひとりの父親の、ごく普通の人生の物語だ。サビで繰り返される〈やったぜべいべー〉はその人生を丸ごと肯定する言葉だろう。そんなオープニング・トラックは、天々高々というユニットが描こうとしているものを高らかに宣言している。

天々高々 『祝祭日』 ポニーキャニオン(2026)

 2020年にアフロがヒグチに“シャボン玉”という楽曲の歌詞を提供したことをきっかけに共同での曲作りをスタートした2人。一緒にやり始めた理由を、アフロは「(ヒグチは)地元・長野の後輩だったんで、〈後輩には擦り寄らないぞ〉っていうダサい尖りもあったんです(笑)。でも、〈自分のこと〉を体重を乗せて歌うっていう意味ではすごく近いところにいると思ったし、それぞれのソロで見せていない面を音楽にできないかって思ったところで、たぶん共振したんじゃないかな」と語る。そうして始まった天々高々の活動。まったく異なるバックグラウンドを持つ2人によるコラボレーションは、どちらにとっても新鮮なものだったという。

 「いままではたぶん、お互い〈こういう感情を書きたい〉という創作だったと思うんです。でも天々高々ではもっとリズムっぽいものとか漠然としたもの、言葉遊びみたいなもので歌詞を書こうとしていて。何かを書きたいというよりは〈これで遊びたい〉っていうところから出来ることが多い。そっちにあまり慣れてないんで、どんどんどんどん感情を書こうっていう手癖が出てくるんですけど(笑)、そういうときは〈遊び心が一回溜まるまで待とう〉と。できれば天々高々は、遊び心ばっかりで作っていける場所であってほしい」(ヒグチ)。

 「1人でやってると100自分の責任なんだけど、2人でやると20ぐらいになる瞬間があって。だからもっと勝手にやっていいって思えるんです。音楽は背負わなくていいものなんだな、って」とヒグチが語る通り、『祝祭日』に収められた10曲はとても自由だ。

 大の巨人ファンである男をその恋人の視点から描く“YG”に、幸せな2人暮らしの食卓の風景が突然、石器時代にタイムスリップする“おわりなきおかわり”。どの曲も、スタジオに入って2本のマイクと鍵盤1台で無邪気にセッションしたまんまみたいな軽やかさを纏ったサウンドで、歌詞は「感動させようという気持ちが皆無なんで」とアフロが口にするように、一見メッセージや意味を排除しているように見える。“30歳”はヒグチが弾むようなピアノの弾き語りで30歳の恋を歌う曲だが、これはアフロによれば「俺のなかでは広瀬香美の“ロマンスの神様”的な一曲」だという。アルバムのなかではひときわ強い口調で歌われる“青春”ですら、「女の人が歌っているのに〈俺様〉って一人称で歌うところにおもしろさがある」とヒグチは言う。意味がない(と2人が言う)〈遊び〉の部分が、これまでの彼らの作家性でもあった、メッセージや思想を塊で投げつけるような音楽とは違う手触りを、曲たちに与えているのだ。

 「“青春”は歌詞も投げっぱなしだもん。サビで〈今だけ 言い訳 いいんだぜ〉と言ってるけど、でも別に何のアドバイスもしてくれない。でもそれがすごくいい作り方なんだよな。ラップの情報量がすごく多いから、サビはメロディーと響きに振り切っちゃってもちょうどいいバランスになる」(アフロ)。

 

出し物なんです

 そんな天々高々の個性を象徴するような曲が、アフロいわく「手癖が出ました。〈しまった〉って思った」という“なんども”だ。アフロのラップは言葉数も多く、まさにリスナーが慣れ親しんだ彼の〈スタイル〉を感じさせるが、ヒグチによるシンプルなピアノ・リフとヴォーカルが、まったく違う景色を浮かび上がらせる。DVに酒にギャンブル、クスリ……とてもシリアスなテーマを扱った歌詞にもかかわらず、どこか軽やかな風が吹いているように聴こえてくる理由を、ヒグチは「ラップを録るとき、〈熱入れないで、大きい声を出しすぎないで〉とお願いしたんです。この内容を主観で言われても辛いだけだから、そういう物語があったんだよぐらいの感じでって」と説明する。

 “びゅてぃほう”もこの2人ならではの曲だろう。ピアノの上で、東京で暮らす市井の人々の生活に〈すげぇなぁ……〉と優しく強い眼差しを向けるアフロの言葉。これも、このユニットでなかったら違う温度を帯びたものになっていたかもしれない。「俺が歌うと怒りも含まれちゃうような気がするけど、アイちゃんのメロディーにはそういう要素がない。〈みんなよくやってるよね〉っていう感じを表現できる」とアフロ。その言葉に、ヒグチはこう返す。「どっちかっていうと私は俯瞰側の声で、あなたはとても主観側の声をしてるから。そういう自分の声でよかったなって、いま初めて思えた」。主観に潜りすぎることなく俯瞰した視点で、ある意味、無責任に言葉とメロディーを紡ぐ。それは彼らにとって初の試みで、だからこそ、このアルバムはこんなにも楽しげなムードが伝わるものになったのだ。

 その〈楽しげなムード〉をアフロは〈きげんのよさ〉という言葉にしてくれた。「相手を威圧するんじゃなくて、きげんよく、きげんのいい角度で人生を歌ってみようよ、って。脳みそは一緒でも〈きげん〉は変わるから、それによって決断も変わってくる。それぐらいのものでいい」とアフロは付け加える。

 言うまでもなく〈きげんよく〉いようと思ったのはそういられない時期を過ごしてきたからだ。「お互いに暗闇を覗きすぎたっていうか。ちょっとこれはやばい、日の光の下にもう帰ろうって」と、このユニットが始まった理由を語るアフロ。彼は2024年にMOROHAの活動休止という〈挫折〉を味わい、「それも笑い飛ばしていくしかない」と腹を決めた。一方、ヒグチも10年を超えるキャリアのなかで浮き沈みを経験し、上をめざし続けることへの疑問を感じ、「そうじゃない自分の道をちゃんと用意しておきたいって思いはじめて」いた。そんな2人が期せずして辿り着いた転換点で鉢合わせして生まれたのがこのアルバム。『祝祭日』というタイトルが示すように、ことさら煽り立てずとも、〈きげんよく〉暮らしていく日々のなかに特別に光る瞬間があるのだと、この音と声は物語っている。そしてそれは、この2人だからこそ歌えるものだ。

 これまで〈FUJI ROCK〉をはじめ全国各地のフェスやイヴェントにも出演してきた彼ら。そのライヴをヒグチは〈出し物〉と表現した。「音楽を高尚にしすぎてしまっていた」と反省を口にするアフロも「出し物っていいね。そう、出し物なんです」と同調する。目の前にいる人の胸ぐらを掴むようなものではない、いつの間にかそこにあって、たまたまそれに触れた人をちょっと幸せな気分にしてくれる、そんな音楽。インタヴューの最後、「北海道のフェスで初めて天々高々を観て、そのあとライヴに来てくれた年配の夫婦がいた」という話をヒグチは嬉しそうに語ってくれた。そんな在り方こそ、このユニットのめざすものなのだろう。ヴァラエティー豊かなこのアルバムには、人生のさまざまなシーンや感情が、まるでスクラップブックのように刻まれている。だからこそ、その間口はとても広い。

 「(天々高々の音楽は)ヒグチアイやMOROHAより曲の幅もテーマも広くて、人によって好きになってくれる曲も違う。だからこのアルバムを通して、自分でこの曲たちのなかから好きなところを選んで聴きに来てくれる人が増えていくといいな」(ヒグチ)。 *小川智宏

Sundayカミデが共同プロデュースした奇妙礼太郎の2023年作『奇妙礼太郎』(ビクター)

 

凛とした眼差しで歌を紡いできたヒグチアイ

 平成元年に香川で生まれ、長野で育ったヒグチアイ。2歳からピアノを弾いている彼女は、18歳のときにシンガー・ソングライターとして活動を始めた。セルフ・プロデュースの2015年作『全員優勝』などが話題を集めるなか、2016年の『百六十度』でメジャー・デビュー。生きることの明暗いずれもを包み込むような歌が、幅広いリスナーに届いている。

 なかでも、アニメ「進撃の巨人 The Final Season Part 2」のエンディング・テーマとなった“悪魔の子”は大きな支持を獲得。同曲を収録した2022年作『最悪最愛』、続く2024年作『未成線上』とリリースを重ね、最新作は2025年の『私宝主義』。THE CHARM PARKら複数のプロデューサーを招いたこのアルバムでは、多彩な表情を見せていた。また、同作で“花束”を編曲した倉品翔がメンバーに名を連ねるGOOD BYE APRILは“ニュアンスで伝えて”でヒグチをフィーチャー。それ以外にもfox capture planとのコラボ“偶然の一致”など近年は客演仕事も印象深い。また、香取慎吾らへ楽曲提供を行いつつ、〈樋口愛〉名義でアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」に使われた楽曲の作詞を多く手掛けている。 *田中亮太

ヒグチアイの作品と参加作を一部紹介。
左から、2015年作『全員優勝』(ビクターミュージックアーツ)、2022年作『最悪最愛』、2024年作『未成線上』(共にポニーキャニオン)、2025年作『私宝主義』(ポニーキャニオン)、GOOD BYE APRILの2024年作『HEARTDUST』(PANAM)、fox capture planの2025年作『RESONANCE』(CapturisM.)

 

さまざまなフォームでリアルを運んできたアフロ

 昭和63年生まれ、長野県小県郡青木村出身のアフロ。高校生活まで野球に励んでいた彼は、社会人生活を経て、2008年にギタリストのUKとMOROHAを結成した。2010年に曽我部恵一が主宰するROSEからファースト・アルバム『MOROHA』をリリース。体液が迸るかのような生々しさを帯びたラップは、多種多様な聴き手の魂を震わせている。

 MOROHAとしては、2018年に『MOROHA BEST 〜十年再録〜』でメジャー進出。2022年には日本武道館公演を成功させるも、2023年の『MOROHA V』を経て、2024年12月に活動を休止した。なお、パッケージで入手できる現時点での最後の楽曲は『さだまさしデビュー50周年記念トリビュート みんなのさだ』収録の“新約「償い」”。さだの名曲への独創的なアンサーとして話題を集めた。

 MOROHAの活動休止後は、イヤホンズなどに歌詞提供を行いつつ、映画「さよなら ほやマン」やTVドラマ「シナントロープ」に出演し、その演技も好評。また、著書「俺のがヤバイ」「東京失格」を刊行するなど文筆家としても活動しており、さまざまなアプローチで表現に勤しんでいる。 *田中亮太

アフロの参加作を一部紹介。
左から、MOROHAの2010年作『MOROHA』(ROSE)、2018年作『MOROHA BEST~十年再録~』、2023年作『MOROHA V』(共にユニバーサル)、2023年のトリビュート盤『さだまさしデビュー50周年記念トリビュート』(Colourful)、イヤホンズの2024年作『手紙』(EVIL LINE)、2025年の書籍「俺のがヤバイ 増補新版」(筑摩書房)