日常のなかに溶け込み、地に足のついた音楽のあり方

2026年5月2日、長野県御代田町のMMoPという複合文化施設を会場にして初開催されたフェス〈SCRAMBLE FES 2026〉。フェスといっても、いわゆる音楽フェスとはちょっと異なる。〈SCRAMBLE FES〉が掲げるのは、〈音楽・アート・文化・食の交わりを楽しむ体験型カルチャーフェス〉だ。音楽ファンが足を運びたくなる充実したラインナップで、音楽が大きな柱のひとつでありながらも、実際に現地で体験した感覚は、アートや食といった様々なカルチャーが共存するなかに音楽がシームレスに存在している、といったものだった。まさに、〈多様な文化がスクランブルする〉というフェスのテーマがそのまま具現化した状況が目の前に出現していて、〈そっか、こういうことだったんだ!〉と驚きながら納得した。

多彩なカルチャーのなかのひとつとして音楽が並存している〈SCRAMBLE FES〉の状況を存分に楽しみながら、〈これって、音楽をことさら高尚なものとして特権視しないことなのでは?〉とも感じた。音楽好きは〈フェスに参戦する〉なんて鼻息荒く言うことがあるものの、その物々しさやハードルの高さは音楽を気軽に楽しみたい人を遠ざけてしまう。でも、〈SCRAMBLE FES〉においては、日常や暮らし、生活のなかに溶け込むような親しみやすい形で音楽が存在していた。おいしいものを食べたり飲んだり、自然のなかを歩いたりする体験の延長線上で音楽が鳴っていて、ほかのフェスにはないその感覚がひたすら心地よかった。そんな地に足のついた音楽のあり方は、子ども連れのファミリー層が多く、海外からの観光客を含む老若男女が会場に集っていたからこそ、かなり自然で最適なものだったと思う。

 

老若男女の参加者と多様な文化、自然が交差した居心地よい空間

さて、前置きはそれくらいにして、〈SCRAMBLE FES 2026〉をレポートしていこう。

開催当日は天候に恵まれ、最初から最後まで快晴。MMoPには、清々しい風が時折吹き抜けていた。若干の肌寒さは感じたが、上着なしでも過ごせる陽気で、まさに五月晴れなフェス日和の気候。実に過ごしやすかった。前日の深夜や明け方に大雨が降ったと出演者が口々に語っていたが、そんな荒れた天気が嘘のようで、太陽が〈SCRAMBLE FES〉の初開催を温かく迎えていた。

開場時間の10時。バルーンアートが来場者を導くような入口を歩いていくと、〈タイムカプセル詰めようぜ〉と書かれたコーナーと会場のマップを配るスタッフたちが目の前に現れた。「タイムカプセル、書いてみませんか?」「フェスブック、どうぞ!」と話しかけられ、文化祭的な賑やかさが感じられて楽しい。マップにはリングが付いており、会場のそこここで配られているカードをそこに足していくと、一人ひとりオリジナルのフェスブックが作れる、という仕組みになっている。右手では御代田を拠点にしていることで知られる醸造所ヤッホーブルーイングがビールを売り、左手にはフェスグッズの売店が、その横にはDJブースや複数の出店があり、無料エリアからしてすでに充実している。

有料エリアへのメインエントランスは入って右手で、リストバンドをもらって進んでいくと、おむすび、ハンバーガー、ホットドッグ、カレー、クラフトビール、コーヒーなどなど、20店が立ち並ぶフードエリアが広がっていた。おいしそうなにおいに晒されながら、〈このなかから食べたいものを1つか2つ選ぶなんて酷だな……〉と思いつつ、〈家族や友人どうしで来ていたら、シェアや交換ができたのに〉と悔やむ。

フードエリアに隣接した建物の中に軒を連ねているのは、体験を主軸にしたアート系の出展。似顔絵、アイシングクッキー、ボディペイント、コラージュ、果ては茶室まで、多種類の文化がひしめいていた。フェスといえば休憩場所に困るのが常だが、建物の中央には椅子やテーブルがたくさん並んでおり、いつでも休憩が取れるようになっている。配慮が行き届いた環境に、主催者側が会場設計へ込めた思いを感じた。

来場客は年齢層もジェンダーも幅広く、自分がこれまでに行ってきたフェスのなかでもあまり似た感じがない独特の明るい雰囲気だ。少子化社会が嘘のように多くが子ども連れや家族連れで、会場内にそこまで起伏があるわけでもないため、ベビーカーを押している人もいる。友だちどうしで来た10~20代のグループ、老夫婦、愛犬とともにフェスを楽しむ人と、とにかく多様で活気に溢れている。高校生以下は入場無料、という破格の金額設定もこの状況に貢献したのだろう。また、〈いかにもなフェスファッション〉という格好の人はほとんどおらず、近隣の住民も多いからだろうか、ラフな普段着で来ている人が多いのも印象的だった。

そんな周囲の参加者の様子を見ながら、アーティストが出演する〈ASAMA stage〉へ歩いていく。ステージの奥には、まだ雪を戴いている浅間山が曇りのない薄水色の空の下に聳えているのが見え、〈浅間山を背にアーティストが演奏する〉というこのフェスならではのロケーションの強みは一目瞭然だった。

 

〈有機的な繋がり〉を体現した、るーとものカラフルさ

そうこうしているうちに11時。開演時間になるのと同時に、るーともの2人が元気よくステージに飛び出してきた。ハンドクラップをオーディエンスに促しながら、“Surrender”を歌いはじめる。ハモりユニットならではの力強く伸びやかな歌が重なり、美しく響き渡るのを聴いて、〈ロケーションに完璧にマッチしていてすごいな〉と早くも感動に襲われた。アイコンタクトをしながら歌い交わす2人は、サビでタオルを回しはじめ、観客もそれに同調する。

キーボーディストのたいせーを紹介しつつ、「トップバッターから見に来てくれてありがとー! 初めて見に来てくれた人?」と観客に問う。「芸人みたいでしょ?」と笑いながら、るーか&おかのやともかによるお決まりの自己紹介をしたのち、「もうちょっとだけ自己紹介していい?」と言いつつ、YouTubeやTikTokといったSNSが主戦場である現代的な活動の形を説明した。

“いいじゃん”ではコール&レスポンスをおこない、2人は演者と観客の間の壁を取っ払って、その場にいる全員を巻き込んでともに音楽を楽しむ。歌い終えたあとは、「午前3時は嵐のようだったけれど、うちらは晴れ女、晴れ男だから!」と微笑んだ。ここでフェスを主催するmovelの代表取締役・河合勇樹がるーかの高校時代の友人であることも紹介。有機的な繋がりによって〈SCRAMBLE FES〉が構成されていることが感じられた。

「みんなが知ってる、歌える曲を!」と言って始まったのは、絢香 × コブクロのヒットソング“WINDING ROAD”のカバー。たいせーも加わった3人のアカペラで、男声が高音部を担いつつ、美しいハーモニーを聴かせる。Mrs. GREEN APPLE“点描の唄”、Omoinotake“幾億光年”と近年のヒット曲も歌いこなし、観客も手拍子をしたり手を振ったりシンガロングしたりと、るーともの音楽と一体になっていった。2人の歌を耳にし、足を止めて聴き入るオーディエンスが増えていく。

「みなさん、食べるものは決めてるんですか?」「カレーを食べて、ビールを飲んだら優勝!」「お茶室が気になる」「うちらもめちゃくちゃ楽しむ!」とコミュニケーションを密に取りながら、あっというまに最後の曲へ。「ラララ」とシンガロングする部分を観客と一緒に練習してから、「みなさん、一緒に歌いましょう!」と“ハローグッバイ”を披露。るーとものカラフルなステージが終わった。

ステージから目を離し、周辺を見渡すと、〈まったりゾーン〉という木陰に座れる場所でくつろいでいる人がいたり、芝生にシートを敷いている人がいたり、持参の椅子でチェアリングしている人がいたり、いくつかある横倒しに置かれた太い木をベンチ代わりに腰かけている人がいたりと、過ごし方がそれぞれ自由なのがおもしろい。ノリ方が同じになりがちな現場とは、やはりちがう空気が広がっている。〈SCRAMBLE〉とは多様性なんだな、と感じ入った。

 

一期一会を大切に柔らかい歌を響かせた、かわにしなつき

続いてステージに現れたのは、かわにしなつき。マイク片手に走って壇上に立つと、正午の鐘が鳴るのを聞いて、「めっちゃチャイム鳴ってる!」と笑いながらスタートした。ラップにも近い軽快な譜割りの歌が印象的な“理想的ガール”を、まずは披露。トラックに合わせてピアノを弾きながら歌い、かわにしらしい柔らかい歌声がじんわりと広がっていく。オーディエンスも手拍子でパフォーマンスに応えた。

一転して穏やかなバラード“どんなに好きだったとしても”を歌い上げ、「フェス日和ですね。水分補給しながらワークショップをやったり、1日を過ごしていきましょう!」とMCで語る。「どこからいらっしゃったの?」と観客に聞くと、台湾から来た者がいることに驚くかわにし。そこから続けて、「偶然がたくさん重なり合って生まれる出会いや巡り合いを大切に」とバラード“0.0004%のキセキ”を静かに歌い出した。

「立ち止まったら、振り返ったらあかんのかな?」と迷いを露わにしながら歌った新曲“一番星”は、逡巡が前に進むことにも繋がることを表現した前向きな歌。ハンドクラップが再び巻き起こる。「つらいこと、楽しいこと……みんな、それぞれの日々のなかで〈いま〉を大切に」とメッセージを伝えながら披露した“晴れ、時々風まかせ”では、軽快なリズムが弾け、明るくラストを飾った。

 

その場にいる全員を巻き込んだアフロの熱い全力ライブ

ハモりが強みなデュオ、シンガーソングライターと続いたが、3番手はラップだ。シンプルな白Tと黒いパンツのヒップホップスタイルで現れたアフロのスタート時間はちょうどお昼時で、ステージ前のオーディエンスは多くが座って飲み食いしている。

その様を見ながら、〈これはひょっとしてアウェイかも?〉なんて思ったのも束の間。「よろしくどうぞ~! 敬愛する芸人さんのために作った曲です!!」と、軽快な一声で“サンパチ”のパフォーマンスを開始。漫才師が対峙する、ソニー製のコンデンサーマイクC-38Bの愛称をタイトルに冠した曲だ。最小限のトラックが鳴るなか、アフロは熱を込め、早くもトップスピードで力を込めて言葉を連射していく。綴られるのは、お笑い芸人の生き様。オーディエンスの多くは、いつしか集中して彼の言葉に耳を傾けていた。アフロの歌に心を射貫かれたのだろう、ステージを見つめる観客数はかなり増えており、凛とした緊張感が浅間山の麓に広がった。

怒涛の発声で観客を圧倒し、「ハアハア」と息をつくアフロを目撃した〈ASAMA stage〉は、和やかな雰囲気が嘘だったかのように驚くほど静まりかえった。彼の初速から全力なパフォーマンスに、誰もが痺れたのだ。しかしアフロ自身は、「こんにちは~。アフロと申します。よろしくどうぞ~!」と明るく朗らかに挨拶。会場が地元(青木村)に近いことや、御代田は駅前の喫茶店で大きなパフェを野球部の仲間たちと食べに来る場所だった、というエピソードを語っていく。

「御代田でこんなことしてんだぜ、という気持ちで今日はやります。今年、俺は39歳。同年代に捧げます」。そう言って始まった“タメ”は、一転して同い年にまつわるエピソードをコミカルにラップした曲。“サンパチ”からの振れ幅の大きさが、またおもしろい。ビートに乗って、子どもも手を上げてパフォーマンスを見ている。

その後は、「実家は青木村っていうんですけど、周りを囲む山に〈お前はどこにも行けないんだ〉と言われているようだった」と10代の頃の閉塞感を明かし、「東京に片思いしている曲です」と天々高々の“びゅてぃほう”をスタートさせた。ピアノの音に導かれ、大都市・東京の様子とそこで生きる人々の姿を切実な声で描写するアフロ。ラストは小さな声で囁くような発声へと変わり、「2026年5月2日、〈SCRAMBLE FES〉、御代田町、あなたの日々、暮らし、すべてが……びゅうてぃほう……」と呟き、余韻をたっぷり残して終了。言葉で描かれた都市像と御代田の自然豊かな景色とのギャップがまた鮮烈で、〈すごいライブを見たな……〉という気分になった。

「次の曲は大きな声を出さないんで、仮眠でも取ってください。俺の独り言みたいな曲なんで」とステージ前方に足を下ろして腰かけ、歌いはじめたのは“ムーンリバー”。静かに、しかし真剣に言葉を発していくアフロ。歌い終えると、ライブ前にMOROHAのファンの子どもを持つ親に話しかけられたエピソードを披露した。しかし、ソロではMOROHAの曲を歌わないため、「新しい俺の歌で記憶の更新ができるといいな。次の曲、子どもでも歌えるサビがある曲だから」と言う。

「いま、恋をしてるよって、人います? 俺にだけわかるように小さく人差し指を振ってください。心を込めて捧げます!」と語って、ラストの“ロマンス”へ。アフロは歌いながらステージを降り、オーディエンスに囲まれるなか、「欲しいレコードがあるんだけども、買ってもいい?」と近くの観客にマイクを向けて話しかけたり、台の上に乗って歌ったり。サビでは「好きだ!」と声を張り上げ、オーディエンスも合わせて歌う。アフロの額の汗がキラキラと光っているのが見えた。熱気と親密さで、子どもから大人までその場にいた全員を巻き込んだアフロのライブが終わった。

 

まっすぐで深く刺さる歌を届けた砂月凜々香

次は、シンガーソングライターの砂月凜々香が〈ASAMA stage〉に登場。「楽しんでいきましょー!」と元気よくライブを始める。アコースティックギターを弾きながら1曲目に歌ったのは“サイダー”だ。軽快なモータウン系ビートが弾けるなか、砂月は「手拍子いけますか? そのまま続けて!」と煽り、観客も手拍子でノる。

「ありがとー! まだまだ楽しんでいけますかー? タオルを振って、立って聴いてもらえたら嬉しいです!」と明るく盛り上げていき、そのままロックナンバー“START DASH★”へ。目元のラインストーンが太陽の光を反射し、キラキラ輝いているのが見えた。ステージを大きく使って左右に移動しながら、かなり大きな声量で歌い上げる砂月。「いくよー! みんな真似して! うしろも!」と、サビではタオル回しを求めた。

MCでは「福岡県出身のシンガーソングライター、砂月凜々香です。初めて長野県で歌います。遠征自体もあんまりしたことがないんです。1曲でも足を止めて聴いてもらえたら嬉しいです。有名なものを食べて帰りたいな! お蕎麦がホテルの朝食で出たんですよ~」と語ったあと、バラードの“フタツナイアイ”をスタートさせて空気を変えた。曲の途中でビートがインし、壮大さが増していく。続く“シオン”も切ないバラードで、マイクスタンドに手を添え、切々と歌う砂月の美声が、御代田の木々の間と澄んだ空気に染み渡っていった。

最後は、9年間の歌手活動を振り返りながら、ワンマンライブツアーの開催を告知。「また次のライブでお会いしましょー!」と言い、アコギを手にアッパーな“いつか”で締め。観客もビートに手拍子で応えた。歌い終えると、「今日は本当にありがとうございました!」と明るく去っていく。まっすぐで深く刺さる声の持ち主だな、という感想が湧いてきた。

 

温かい親しみやすさと笑いで魅了した天々高々のエンタメ精神

〈ASAMA stage〉のライブも、そろそろ後半戦へ。次のライブが始まる前に、自家製ソーセージを使ったPork SandwichesのホットドッグとKERR COFFEEのフルーティなスペシャルティコーヒーで休憩。丸太に腰かけ、自然のなかでおいしいものを食べる体験は、東京ではなかなか味わえないもので、贅沢な時間を堪能した。イベント棟を覗いてみると、ボディペイント体験ができるBASHICO BodyPaintのブースに子どもたちの長蛇の列ができていて驚いた。

〈ASAMA stage〉に戻ると、もう天々高々の開演時間になっていた。「天々高々です! よろしくどうぞ~!」とあふちゃん(アフロ)が挨拶すると、あいちゃん(ヒグチアイ)がピアノを弾きはじめる。開幕の“YG”は、プロ野球の巨人の熱狂的ファンである男子に恋する女子の歌。「野球バカ」とヒグチアイが伸びやかな声でフックを歌う。ピアノのリズムも旋律も、どこか童謡のようだ。あふちゃんは、曲の締めに野球中継を真似て、高橋由伸がホームランを打つ様を実況。観客は後方までぎっしりで、幼い子どもたちも天々高々のユーモアと親しみやすい音に魅了されているようだった。

ピアノのキラキラした高音のリフレインが印象的な“がたんごとん”では、あふちゃんとあいちゃんが息子と母を演じ、演劇的なやりとりも聴かせる。2両編成のローカル電車を描写していくあふちゃんの言葉から、御代田駅まで実際に乗ってきた、しなの鉄道の車両の様子を思い出す。その後、「我々の音楽はゆったり聴くのがちょうどいいと思うんで!」と言ってから、長野出身の2人組であることをアピールした。「でも、私の地元は長野市、シティなんで……」と言うあいちゃんに、「おっ、喧嘩するか?」と応戦するあふちゃん。タワーレコード上田店でのエピソードも披露しつつ、「えこひいきしてほしいんで!」と長野県民に訴えかけた。

続く“おわりなきおかわり”では、2人暮らしのカップルの料理や食を巡る関係性を丁寧かつ繊細に描写していった。かと思えば、中間部で「ここでタイムスリップ! いざ、石器時代へ!」の一声で時を遡り、原始人の一家の食事情をラップ。あふちゃんの「とったどー!」という叫びが〈ASAMA stage〉に響き渡った。

あふちゃんが「るーともさんが有名曲をやって盛り上げていたんで、パクろうと思います!」と笑いを誘うと、あいちゃんのピアノは聴き馴染みのあるメロディを奏ではじめた。披露したのはなんと、徳永英明“壊れかけのRadio”の独自すぎるカバー。見事に歌い上げるあいちゃんの声に耳を傾けつつ、オリジナルな解釈が加わった名曲の妙にしみじみと聴き入った。

時刻は15時過ぎ。少し日が傾き、心地よい風がそよぐ。いつのまにかステージ上のライトが点灯していることに気づいた。シンコペーションを聴かせたピアノが印象的な“やったぜべいべー”は、笑いに満ちたある夫婦の物語。アフロらしい細かく緻密な描写で、オチの付け方も見事。観客も手拍子で歌の世界に加わった。

盛り上げ上手な天々高々のパフォーマンスも、あっというまにラストナンバー。「みんなでユニゾンで歌えるところがあるんで、練習しましょう!」「あふちゃん、お客さん役やってもらっていい?」「(大声で)ゴクゴクー!」「もうちょっとあっさりで大丈夫だから(笑)」なんてやりとりから、“5959”のサビをオーディエンス全員参加で合唱。大声で歌う子どもが現れ、「すごいキッズだ!」とあふちゃんもびっくり。「〈野球部〉出しちゃっていいっすか? 腹から声を出すときは、立って出すんです! これは音楽じゃなくて体育なんで!」と、観客をさらに煽る。

加えて、サプライズも用意されていた。「なんと、ヤッホーブルーイングさんがビールを提供してくれます!」とあふちゃん。呼び込んだスタッフに法被を着せられ、「〈癒着〉の瞬間です」と笑いを誘った。「よなよなエールバージョンで、“5959”!」と言って始まった“5959”のパフォーマンス中、あふちゃんとスタッフはよなよなエール缶型のバッグから空き缶を配って回る。空き缶はブースでよなよなエールと交換できるという(「キッズはみすず飴」とのこと)。「ゴクゴクー!」の部分ではその場にいた全員の声が揃い、ここまでで一番の盛り上がりが生まれた。

「〈SCRAMBLE FES〉、最高だー! お集まりいただいたみなさんに、たくさんいいことがありますようにー!」と元気よく去っていくあふちゃん&あいちゃん。MOROHAのヘビーさやシリアスさとは対極にあるエンターテインメント精神で、老若男女を虜にした天々高々だった。

 

セクシーなボーカルで初見の観客も〈一目惚れ〉させた舟津真翔

日の傾きがまたちょっと進んだ16時。トリから2番目、舟津真翔(ふなつまなと)のライブがスタートした。デニムジャケットにジーンズ姿の舟津。抱えているサンバースト系のアコースティックギターが、そのスタイリングにぴったり似合っている。

「〈SCRAMBLE FES〉、ゆったりした雰囲気のなかで歌えることが嬉しいです!」と言ってから、“君は運命の人”を披露。切なげな歌声で恋愛の風景を描く様が見事だ。サビの高音部分では、少々掠れた個性的な声の質感が実に魅力的だった。「こんにちは! 座ってもいいですよ! 空気がおいしいですね~。嫌なことは忘れて、一緒に手を上げたり、自由に楽しみましょう!」と、〈SCRAMBLE FES〉ならではのリラクシンな楽しみ方を提案する。

ギターを置いた舟津が次に歌いはじめたのは、打って変わってR&Bの“プレイリスト”。ステージを左右に行き来する舟津を見ていたら、推しを応援するうちわを振っている熱いファンがそばにいることに気づく。グルーヴのなかで映えるセクシーな歌声を聴きながら、〈これはメロメロになるわ……〉なんて心の中で呟いた。「次の曲は“つないだ手”といって、大人も子どもも関係なく、性別も関係なく、人と人の繋がりを大事にしたいと思って作った曲です」との紹介から、優しいバラードを温かく、しかし力強く歌い上げた。

再びギターを手にした舟津は、「弾き語りで、やる予定じゃなかった曲を歌いたいと思います。会場や長野の雰囲気から、やりたいなって思ったカバー曲を持ってきました。あまりライブで歌わない曲ですけど、ここにいる人のことだけを思って……」と、高音弦を爪弾きはじめる。斉藤和義の名曲“歌うたいのバラッド”だ。サビ以降は演奏がアルペジオからコードストロークへと切り替わって盛り上がり、舟津ならではの切なげな歌声がじんわりと聴き手の胸に沁み渡る。

「最後は僕の代表曲! たくさんのひとに出会わせてくれて、いろんな場所に連れて行ってくれた曲です。この曲がなければ、ここ長野にも来られていなかったと思います。一緒に歌ってください!」と舟津。オーディエンスがハンドクラップを曲に添えるなか、ヒットしたラブソング“一目惚れ”を丁寧に歌い上げた。真摯でひたむきな歌いっぷりに、まさに〈一目惚れ〉した初見の観客も多かったはずだ。

 

タフなシンガー曽我部恵一の突き抜けるような魂の歌

ヘッドライナー、すなわちトリは、サニーデイ・サービスの曽我部恵一によるソロセット。まずは曽我部恵一BAND時代の名曲“キラキラ!”。アッパーでパンキッシュな曲を、アコースティックギターを掻き鳴らして伸びやかなシャウトとともに歌い上げる。オーディエンスは大きな歓声と拍手で、このタフなシンガーを熱く迎え入れた。

「素敵なお店がいっぱい出店しているね。おいしいカレー屋さんも。僕、地方に行くと、おいしいコーヒー豆を探すのが趣味なんですよ」というMCから、「世界中の誰も作っていない〈コンビニのコーヒー〉についての曲です」という導入を経て、サニーデイ・サービスの傑作『いいね!』から“コンビニのコーヒー”を披露。個人的に大好きな曲なので、心が躍った。歌の展開とともに、ギタープレイも次第にコードストロークやミュートなどを駆使しつつ激しさを増し、テンポが上がっていく。最終的に曽我部は〈魂の叫び〉と呼びたい咆哮を放ち、浅間山に届かんばかりの声が森のなかを突き抜けていった。本当にすごいシンガーである。

「桜並木を犬と散歩しているときに思いついた曲」という“桜 super love”は、サニーデイ・サービスの2010年代における活動を代表するクラシックだ。優しいギターのコードストロークから穏やかに歌いはじめる曽我部。バンドでの演奏とはまた異なる、落ち着いたセンチメントが滲むように広がっていく。そして、「昨日、宿で夜の空を見ていたら綺麗で、子どもと来たかったなって。今日はお子さんたちもたくさん来ていますね」と、長女が生まれたときに作った曲“おとなになんかならないで”をゆったりと語るように歌い出す。

続けて、激しくギターを掻き鳴らすサニーデイ・サービス“春の風”で空気は一変した。だんだんと走っていくテンポに追いつかんとばかりに、オーディエンスも手拍子で応答。隣で見ていた、英語を話す外国人のグループらしい若者たちが、「ベイベ~」と曽我部に合わせて歌い、「He’s good!」とノっていたのが印象に残っている。

「僕、サニーデイ・サービスというバンドをやっているんです。自己紹介が遅れました(笑)。……あっ、アフロ、お疲れ!」と、ライブを見ているアフロに声をかける。次に演奏したのは、再び曽我部恵一BAND時代の“魔法のバスに乗って”。ヒップホップのビートやラップのフロウを取り入れた名曲を、歌とギターだけでリズミカルに披露する曽我部。そこで生まれたアコースティックなグルーヴは、夕方を迎えつつある〈SCRAMBLE FES〉のチルなムードにバッチリ合っていた。

そして、いよいよ最後の曲へ。「来年もやるんだったら、一晩中やらして! 6時間くらいだったらできるよ!」と曽我部。「ラ~ラララララ~ラ~ラ~ラ~」と、お馴染みのあのメロディが曽我部の口から飛び出した。「“青春狂走曲”!」と曽我部が叫ぶやいなや、観客の盛り上がりは最高潮を迎える。「そんなこと考えると楽しくなるんです」の「なるんです」の部分を引き伸ばして繰り返す、曽我部恵一BANDのライブでよくやっていたあのパフォーマンスを挟んで、「1、2、3、4!」でサビに雪崩れ込んでいく。「聴かしてくれ、みんな!」と観客を煽り、シンガロングはこの日最大音量に達した。

 

曽我部恵一 × アフロ、この日この場所だけの〈SCRAMBLE〉

「サンキュー!」と短い挨拶でライブを終えてステージを降りた曽我部に、客席からアフロが「ソカさ~ん、ワンモアー!」とアンコールを求める。オーディエンスも同調し、曽我部は再び壇上に戻ってきた。「じゃあ、アフロ、フリースタイルしてよ!」と呼び込まれたアフロは、嬉しそうな表情でステージに駆け上がっていった。マイクが手配され、予定されていなかったアンコールのパフォーマンスの準備が進む。この即興的で幸せな時間が生まれたのも、〈SCRAMBLE FES〉だからこそ。

「イヤなこととか 気にしないなんて……」。曽我部がゆったりと歌いはじめたのは、ラヴァーズロックの“LOVE-SICK”だ。「夕暮れがやって来て」というラインを歌いながら、ちょうど夕暮れどきになった空を楽しそうに眺める曽我部。そこにアフロが加わり、フリースタイルラップで言葉を連ねていく。「曽我部恵一! 〈SCRAMBLE FES〉! 長野、けっこういい場所じゃねーか!」とラップしたのち、「Say Sokabe! Say SCRAMBLE! 騒げ!」と観客とコール&レスポンスを重ねた。曽我部とアフロの自由な〈SCRAMBLE〉のあり様を見ながら、〈ああ、これは今日この日、この場所でしか聴けないものなんだな〉と感慨深くなり、こみ上げてくるものがあった。「Everything’s gonna be alright」。まさに、これからもいいことしか起こらない予感を充満させ、2人は〈ASAMA stage〉を去った。マジカルなハプニングを巻き起こし、終幕した〈SCRAMBLE FES 2026〉。〈大団円〉と呼ぶのがふさわしい、見事なラストシーンだったと思う。

〈SCRAMBLE FES〉、初開催にして大成功だったと1日を過ごして思った。そして〈SCRAMBLE FES〉は、来年からも続いていく。音楽ジャンルが混ざり合い、アートや食といった様々な文化が交差し、参加者を含めて多様性が心地よく存在した場と空気は、これから御代田の地でどんなふうに育っていくのだろうか? 地域の活性化という点でも、どんな貢献をしていくのだろうか? この先もまだまだ見ていたい、と強く思わせられたフェスだった。

 


SETLIST
■るーとも
1. Surrender
2. いいじゃん
3. WINDING ROAD
4. 点描の唄
5. 幾億光年
6. ハローグッバイ

■かわにしなつき
1. 理想的ガール
2. どんなに好きだったとしても
3. 0.0004%のキセキ
4. 愛してるのひと言
5. 一番星
6. 晴れ、時々風まかせ

■アフロ
1. サンパチ
2. タメ
3. びゅてぃほう
4. ムーンリバー
5. ロマンス

■砂月凜々香
1. サイダー
2. START DASH★
3. フタツナイアイ
4. シオン
5. いつか

■天々高々
1. YG
2. がたんごとん
3. おわりなきおかわり
4. 壊れかけのRadio
5. やったぜべいべー
6. 5959

■舟津真翔
1. 君は運命の人
2. プレイリスト
3. つないだ手
4. 歌うたいのバラッド
5. 一目惚れ

■曽我部恵一
1. キラキラ!
2. コンビニのコーヒー
3. 桜 super love
4. おとなになんかならないで
5. 春の風
6. 魔法のバスに乗って
7. 青春狂走曲

ENCORE
1. LOVE-SICK