日常のなかに溶け込み、地に足のついた音楽のあり方

2026年5月2日、長野県御代田町のMMoPという複合文化施設を会場にして初開催されたフェス〈SCRAMBLE FES 2026〉。フェスといっても、いわゆる音楽フェスとはちょっと異なる。〈SCRAMBLE FES〉が掲げるのは、〈音楽・アート・文化・食の交わりを楽しむ体験型カルチャーフェス〉だ。音楽ファンが足を運びたくなる充実したラインナップで、音楽が大きな柱のひとつでありながらも、実際に現地で体験した感覚は、アートや食といった様々なカルチャーが共存するなかに音楽がシームレスに存在している、といったものだった。まさに、〈多様な文化がスクランブルする〉というフェスのテーマがそのまま具現化した状況が目の前に出現していて、〈そっか、こういうことだったんだ!〉と驚きながら納得した。

多彩なカルチャーのなかのひとつとして音楽が並存している〈SCRAMBLE FES〉の状況を存分に楽しみながら、〈これって、音楽をことさら高尚なものとして特権視しないことなのでは?〉とも感じた。音楽好きは〈フェスに参戦する〉なんて鼻息荒く言うことがあるものの、その物々しさやハードルの高さは音楽を気軽に楽しみたい人を遠ざけてしまう。でも、〈SCRAMBLE FES〉においては、日常や暮らし、生活のなかに溶け込むような親しみやすい形で音楽が存在していた。おいしいものを食べたり飲んだり、自然のなかを歩いたりする体験の延長線上で音楽が鳴っていて、ほかのフェスにはないその感覚がひたすら心地よかった。そんな地に足のついた音楽のあり方は、子ども連れのファミリー層が多く、海外からの観光客を含む老若男女が会場に集っていたからこそ、かなり自然で最適なものだったと思う。

 

老若男女の参加者と多様な文化、自然が交差した居心地よい空間

さて、前置きはそれくらいにして、〈SCRAMBLE FES 2026〉をレポートしていこう。

開催当日は天候に恵まれ、最初から最後まで快晴。MMoPには、清々しい風が時折吹き抜けていた。若干の肌寒さは感じたが、上着なしでも過ごせる陽気で、まさに五月晴れなフェス日和の気候。実に過ごしやすかった。前日の深夜や明け方に大雨が降ったと出演者が口々に語っていたが、そんな荒れた天気が嘘のようで、太陽が〈SCRAMBLE FES〉の初開催を温かく迎えていた。

開場時間の10時。バルーンアートが来場者を導くような入口を歩いていくと、〈タイムカプセル詰めようぜ〉と書かれたコーナーと会場のマップを配るスタッフたちが目の前に現れた。「タイムカプセル、書いてみませんか?」「フェスブック、どうぞ!」と話しかけられ、文化祭的な賑やかさが感じられて楽しい。マップにはリングが付いており、会場のそこここで配られているカードをそこに足していくと、一人ひとりオリジナルのフェスブックが作れる、という仕組みになっている。右手では御代田を拠点にしていることで知られる醸造所ヤッホーブルーイングがビールを売り、左手にはフェスグッズの売店が、その横にはDJブースや複数の出店があり、無料エリアからしてすでに充実している。

有料エリアへのメインエントランスは入って右手で、リストバンドをもらって進んでいくと、おむすび、ハンバーガー、ホットドッグ、カレー、クラフトビール、コーヒーなどなど、20店が立ち並ぶフードエリアが広がっていた。おいしそうなにおいに晒されながら、〈このなかから食べたいものを1つか2つ選ぶなんて酷だな……〉と思いつつ、〈家族や友人どうしで来ていたら、シェアや交換ができたのに〉と悔やむ。

フードエリアに隣接した建物の中に軒を連ねているのは、体験を主軸にしたアート系の出展。似顔絵、アイシングクッキー、ボディペイント、コラージュ、果ては茶室まで、多種類の文化がひしめいていた。フェスといえば休憩場所に困るのが常だが、建物の中央には椅子やテーブルがたくさん並んでおり、いつでも休憩が取れるようになっている。配慮が行き届いた環境に、主催者側が会場設計へ込めた思いを感じた。

来場客は年齢層もジェンダーも幅広く、自分がこれまでに行ってきたフェスのなかでもあまり似た感じがない独特の明るい雰囲気だ。少子化社会が嘘のように多くが子ども連れや家族連れで、会場内にそこまで起伏があるわけでもないため、ベビーカーを押している人もいる。友だちどうしで来た10~20代のグループ、老夫婦、愛犬とともにフェスを楽しむ人と、とにかく多様で活気に溢れている。高校生以下は入場無料、という破格の金額設定もこの状況に貢献したのだろう。また、〈いかにもなフェスファッション〉という格好の人はほとんどおらず、近隣の住民も多いからだろうか、ラフな普段着で来ている人が多いのも印象的だった。

そんな周囲の参加者の様子を見ながら、アーティストが出演する〈ASAMA stage〉へ歩いていく。ステージの奥には、まだ雪を戴いている浅間山が曇りのない薄水色の空の下に聳えているのが見え、〈浅間山を背にアーティストが演奏する〉というこのフェスならではのロケーションの強みは一目瞭然だった。