何かを証明するために闘う必要はないし……というか働いてさえいなくたって大丈夫! 初のソロ・アルバム『無職覚醒』を完成させた男が明かす、自由で無責任な現在の胸中
友達と遊びながら
〈無職〉になってから約1年半。その間、エッセイ本「東京失格」「俺のがヤバイ 増補新版」を出したり、ヒグチアイとのユニット・天々高々をスタートさせたり、さまざまな活動を展開してきたアフロが、ついに初のソロ・アルバムを完成させた。7月29日にリリースされる同作のタイトルは『無職覚醒』。どう〈覚醒〉しているのかは実際に作品を聴いていただくとして、本人も「一生懸命作りました」と笑顔だ。
2024年12月にMOROHAが活動休止した当時の心境を〈三⼗半ば 地に落ちたラッパー/⼈⽣捧げた夢が砕けた〉と率直に綴った“ギンギラ”から今作は幕を開ける。その“ギンギラ”を手掛けた、あらかじめ決められた恋人たちへの池永正⼆をはじめ、天々高々の相方でもあるヒグチアイ、MY FIRST STORYのNob、SUPER BEAVERの渋谷龍太のソロ名義〈澁谷逆太郎〉など、さまざまなアーティストが参加。多様なアーティストが集ったぶんだけ音楽的なヴァリエーションも広がっている。
ヒグチのピアノの上で漫才師のお笑いに懸ける思いを〈面白きゃ売れる〉というフレーズと共に吐き出す“サンパチ”、Nobのヘヴィーでシリアスなトラックにヤンキーの生き様を歌ったリリックが映える“花と木刀”、夜の静まり返る空気のようなメロウなサウンドが心地良いTOSHIKI HAYASHI(%C)による“呼吸の間”に、GuruConnect(skillkills)制作の跳ね回るリズムの上で三重出身のラッパーJEVAとマイクを交わす“俺たちのダンス”。ストレートなヒップホップからポエトリー・リーディングにマッチする抽象的なサウンドまで、今作から聴こえてくる音はとてもカラフルで自由だ。
そして今作に〈参加〉しているのはアーティストやミュージシャンだけではない。かつてアフロが映画「さよなら ほやマン」で共演した俳優・津田寛治の主演映画「津田寛治に撮休はない」を観て勝手に書いたというインスパイア・ソング“津田寛治”や、プロボクサーの藤田炎村を題材にした“ワンツー”も、いわば津田や藤田との出会いがなければ生まれなかった曲だ。そう、このアルバムのなかには彼がこれまで関わってきたたくさんの他者が存在している。そうやって多くの人と交わりながら作っていったというプロセスこそが今作の魅力の根源なのだ。
「友達と遊びながら曲を作るのが、始めたてのときみたいに楽しかった」とアフロ。「曲を作ることを言い訳に、それこそ(“ムーンリバー”を作った)skillkillsのビートさとしさんは山口県に拠点があるんですけど、そこまで行って一緒に寝泊まりして、夜な夜な飲みに出かけたりとか。〈こんなんでいいのかな〉って思ったけど、始めたときなんてだいたいそういう感じだったわけだから。それをいまになってまたやれたのはすごくよかったし、そういう作り方じゃないと出せない素直な言葉とかが出てきてるんじゃないかな」。
シリアスにならないように
音が変われば言葉も大きく変わる。確かに今作でアフロが書くリリックには、MOROHAでは見せていなかった彼が投影されているように思う。そんな〈素直な言葉〉が形になったひとつの例が、アルバムの10曲目に収められた“POETRY DREAM”だ。この曲は2011年に逝去したポエトリー・ラッパーの不可思議/Wonderboyに向けて書かれたもの。アフロと彼はお互いに切磋琢磨し合うライバルであり友人だった。彼がこの世を去ってから15年が経ったいまになって、この曲を書いた理由はなんなのだろう。
「衝動で書きたくなかったんです。あと、その頃は自分も世に出るのに必死だった手前、もしリリースしたら〈死を利用した〉みたいな気持ちも残る気がして。また、彼の存在を知らない人からしたら、意味が掴めない曲は作りたくなかった。MOROHAは厳しいバンドだったので。ただソロになって、そういうこだわりから解放された気がします」。
でも……と彼は言葉を続けた。「俺はこれが天国に届くとは思ってないです。音楽はやっぱり残された人のためにあるから。だからこれを聴いたときに、いちばん近かった人たち、それこそ彼のご家族の方とかが嫌な思いをしなきゃいいなと思って、久しぶりに連絡したりとかはしました」。
15年前に喪った友のことも、ある意味で重くなく曲にできるようになった――そんな心境の変化が、もしかしたらソロになったアフロという人を象徴しているのかもしれない。「つまりね、バック・イン・ザ・デイを始めちゃったんですよ。〈あの頃〉の曲なんて作ってたまるかって思ってたけど、いよいよそういうふうになってきました。いいのか悪いのかわかんないです、これは」と彼は笑うが、それも含めて、MOROHAではやらなかったこと、やれなかったことも曲にすることができているのがいまのアフロなのだ。アルバムのラスト、〈強い⼈ってのは強くなった⼈だ/強くならざるを得ない⽇々を⽣きてきた⼈だ〉というラインが突き刺さる“じんせい”も、そんなアフロの生き方を明るく照らし出す曲。説教臭くならないように曲名をひらがなにしたというこの曲で、彼はMOROHAの曲名であり、自身の代名詞でもある〈俺のがヤバイ〉というフレーズを引用しながら〈かつてとは違う 新たな思い/俺だけじゃない お前もヤバイ〉と綴る。そんなことができたのも、彼を貫いていた頑なさがいい意味でほぐれた結果なのかもしれない。現在アフロはどんなスタンスで音楽と向き合っているのか。そんな質問に彼はこう返した。
「やりたくて一生懸命やってる状態がベスト。そのうえで責任感とどうやって距離を取るかなんです。一生懸命の楽しさよりも責任感が勝っちゃったときに、たぶん一気につまんなくなっちゃう。だからずっと無責任にしようと思ってるし、言葉もあんまり重くしたくない。あまりにもシリアスにならないようにしてるのが、いまの俺のバランスの取り方かもしれないです」 *小川智宏
天々高々の2026年作『祝祭日』(ポニーキャニオン)
MOROHAの作品。
左から、2010年作『MOROHA』、2013年作『MOROHA II』(共にROSE)、2016年作『MOROHA III』(YAVAY YAYVA)、2019年作『MOROHA IV』、2023年作『MOROHA V』(共にユニバーサル)
『無職覚醒』でアフロとYY GAYAGAYA遊んだ仲間たちを紹介!!
『無職覚醒』には総勢11名のミュージシャンが客演や楽曲提供で参加。現在は天々高々として共に活動しているシンガー・ソングライター/ピアニストのヒグチアイを除くと、とりわけ親交の深さを知られているのはSUPER BEAVERの渋谷龍太こと澁谷逆太郎だろう。2020年にお互いのソロ楽曲に参加し合うなど、アフロにとっては盟友といえる存在だ。なお、澁谷のその楽曲“magic”も本作の“checkered fire”と同様、MOP of HEADのGeorgeが制作に携わっている。また、池永正二が率いるダブ・バンド=あらかじめ決められた恋人たちへ、ビートさとしとGuruConnectを擁するskillkillsはMOROHA時代から、共演や対バンを重ねてきた仲。なかでもビートさとしは、アフロが2025年12月に開催した自主企画〈再就職〉でもドラムを演奏していたことが記憶に新しい。なお、Nobがベースを務めるMY FIRST STORYには、MOROHAの片割れであるUKが過去に客演している。
その一方、三重・四日市を拠点に活動するラッパーのJEVA、東京のDJ/ビートメイカーであるTOSHIKI HAYASHI(%C)、長野・信濃町で暮らすトラックメイカーの観音クリエイション、東京から滋賀・彦根に移住したトラックメイカーのYusuke Saint Laurentなど、ヒップホップ~ビート・ミュージック周りの面々がいずれも初顔合わせであることは興味深い。ちなみに観音クリエイションは不可思議/wonderboyへの楽曲提供などでも知られており、そのことから故人を扱った“POETRY DREAM”に加わった背景も想像できよう。いずれにせよ、立ち位置の違う才人たちによる多彩な音作りの下、アフロはかつてないほど軽やかに言葉を紡いでいる。ラッパー/ヴォーカリストとしてのさまざまな表情を世に見せることができた転機の作品が、『無職覚醒』なのだ。 *田中亮太
左から、ヒグチアイの2025年作『私宝主義』(ポニーキャニオン)、SUPER BEAVERの2026年作『人生』(ソニー)、MOP of HEADの2019年作『maverick』(コドモメンタルINC.)、曽我部恵一 VS あらかじめ決められた恋人たちへの2024年作『HAZARD OF DUB』(ROSE)、GuruConnectの2023年の7インチ『Heaven feat. Gotch/Affordance feat. Daoko』(only in dreams)、skillkillsのベスト盤『THE BEST』(ILLGENIC)、MY FIRST STORYの2017年のミニ・アルバム『ALL LEAD TRACKS』(INTACT)、JEVAの2020年作『そして、伊藤純』(Jet City People)、TOSHIKI HAYASHI(%C)の2025年の7インチ“Naminokoe”(Insense Music Works)、観音クリエイションの2026年作『しなのまち - Spring Tapes』(MOZ)、Yusuke Saint Laurentの2025年のカセットテープ『everyday』(Jazcrafts)
