力強いヴォーカルと多彩なサウンドで身体を踊らせて心を揺さぶる5年ぶりの新作が完成――喜界島から来たシンガー・ソングライターの美しい『Pray』は豊かな温もりに満ちている!

やることがあるからここにいる

 奄美大島の東25kmに位置する喜界島をご存じだろうか。東京から向かう場合は、まず奄美もしくは鹿児島へ、1日2便の飛行機を乗り継いでおよそ4時間、フェリーならさらに時間を要する。その距離が、島で生まれ育ったシンガー・ソングライター、Akiko Togoのニュー・アルバム『Pray』の制作において一つのドラマを生むことになるのだが、その話はのちほど。2021年の前アルバム『SUN』は、コロナ禍の混乱のなか、東京のスタジオにカンヅメになって作ったものだった。そして今回の『Pray』は本格的に東京へ拠点を移し、新たな決意の元に作り上げたアルバムだ。

 「2016年に最初の上京をした時は、2年ぐらい住ませてもらって、でも〈やっぱり島の空気を吸わないと無理かも〉となって、一度島に戻ったんですね。いずれ帰ってくる予定だったんですけど、コロナ禍もあって、結局3年ぐらい島にいて、そこで前作アルバムを作らせていただいて。でももう一度東京に戻る、という強い気持ちがあったので、前作を出した翌年に、2回目の上京をしました」。

Akiko Togo 『Pray』 Village Again(2026)

 それからおよそ4年、島と東京を行き来しながら曲作りを進めた『Pray』は、R&Bやジャズ、ゴスペルを軸にしたポップス歌手、という彼女のイメージを大きく超える野心作で、ロック、ファンク、レゲエ、サンバ、シティ・ポップなど、カラフルな楽曲がメリーゴーラウンドのようにぐるぐる回る。いずれの曲も甲乙つけがたく、大阪・福岡・東京のプロモーションスタッフに〈キー曲〉を選んでもらったところ、オーティス・レディングばりにエネルギッシュでソウルフルな“ハレルヤ”、軽やかにスウィングするジャズ・ナンバー“Dancin'”、 ヘヴィーなファンク・ロック・ナンバー“JAM”と、1曲もかぶらなかったというエピソードも、実にユニークだ。

 「“ハレルヤ”は、後半にかけてヴォーカルの圧が増していって、呪文のような〈ハレルヤ〉という言葉から背中を押すエネルギーを感じてもらえたら嬉しいです。子どもの頃に通っていたピアノ教室の先生が、教会の牧師先生の奥さんで、日曜学校で賛美歌を歌ったり、後に受洗してクリスチャンになった経緯があるので、ポップスのなかにも自然な感じでゴスペル風のメッセージを込めていけたらいいなと思うんですね。逆に“Dancin’”は、メッセージ性にこだわらず〈元気がいい曲を〉ということで作った曲です。ライヴで歌うとすごく反応が良くて、身体を動かしてリズムに乗ればモヤモヤした思いが吹き飛ぶことって確かにあるなと思います。“JAM”もライヴの時の様子を思い浮かべて、各楽器のソロ・パートを入れて、どんどん盛り上がって行けたら楽しいなというイメージですね。“JAM”の歌詞には自分でも励まされるところがあって、〈島から東京に出てきたけど、家族や友達や親戚がいる場所にいたほうが楽しく暮らせたんじゃないのかな?〉って思いがよぎる時もあるんですけど、〈いや、私は私のやることがあるから、いまここにいるんだ〉って、この歌を歌いながら自分を鼓舞しています」。

 そして、話は冒頭の〈一つのドラマ〉へと移る。アルバム制作中のある日、ヴォーカル・レコーディングをしていた彼女の元へ、突然の父の訃報が入る。いちばん早い便でも明日朝にしか島に戻れないことを知った彼女は、そのまま歌い続けることをスタッフに提案した。

 「休憩時間に電話がかかってきて、ショックと訳がわからないなかで、その後のレコーディングをスタッフの皆さんにお付き合いいただきました。いちばん明るい曲“Dancin'”も、踊りながら歌った記憶があります。ノリがなかなか出なくて、〈足踏みして歌ってみるといいかも〉とアドバイスをいただいて、いい感じになったんですよね。〈父ちゃんが亡くなったのに、踊って歌ってる私って不思議だよな〉とか思いながら。でも、父もすごく楽しみに待っていたアルバムだったので、もしかしたらレコーディングの現場にも父は来ていたんじゃないかな?と思っています。父は、私が音楽を始めた時は〈お前は声がデカいだけでヘタクソだ〉と言って、めっちゃ喧嘩していたんですけど、前のアルバム『SUN』を出したあたりから〈お前もがんばってるな〉〈このアルバムはいい〉と言って、ようやく私が歌うことを認めてくれて、〈次のアルバムも待ってるよ〉と言ってくれていたので。いまもライヴで歌う時は、父が絶対に観に来てくれているだろうなと思って歌っています」。