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空間や環境を音で表現することへの挑戦

――なるほど。そういった福岡の自然豊かな地域、また生活風景が本作の出発点になっていますが、特に音へ変換したかった場所、時間帯、光、風、匂いのようなものはありましたか。

「空間や環境音をフィールドレコーディングしたものもアルバムに入れてはいるのですが、それを音でどう表現するかが、自分の中のテーマのひとつだったんです。ポピュラリティのあるポップミュージックとは異なる形で、サウンドデザイン、サウンドアートとして、できるだけ探ってみたいなという思いがあって。

例えば“Sagani / 砂蟹”は、砂浜で見かける蟹から着想した曲なのですが、身近に海があるので、夕方とかに散歩しているとよく見るんですね。他にも小さな生き物や鳥など、さまざまな生物がいて、そういった生物や海、風、夕日など、それらをどうやって音で表現しようかなと考えて制作していました。

また、1曲目の“Shikijitsu / 式日”は結婚式をもとにした曲で、福岡で挙げた結婚式の空気感を、音として残したいと思いました」

――ちなみに、福岡に移住された決め手やきっかけは、やはり海の景色とか、自然環境だったのでしょうか。

「コロナ禍で〈東京にいること〉について色々考えさせられたんです。それと、妻(佐々木恵梨)が北九州出身ということもありました。あとは、彼女の家族の体調が良くなかったのもあって、〈福岡に行こうか〉となりました」

 

カセットの不完全で生きた音こそ美しい

――本作では、フィールドレコーディング、アナログシンセ、エフェクトペダル、ギター、ストリングス、声が、テープに織り込まれるように現れては溶けていく感触が、とても幻想的に響きました。音を〈配置する〉というより〈滲ませる〉ために、どのような空間設計を意識しましたか。

「これは目的を持って挑戦したことなんですけど、音を少しぼやかしながら、遠すぎず近すぎず、何かを振り返る〈追憶〉を音で表現し、それをベッドルームの環境で作ろうと思っていました。カセットテープで音を作るのって凄く難しくて、やっぱりアナログですし、想像した結果にならないんですよね、良くも悪くも」

――DAWで、いくらでも編集できるというものでは全くないわけですからね。

「そうなんですよね。テープループって知っていますか? カセットからテープを引き出して、ひとつの輪っかにするんですよ。で、それを録音すると、要は音がループするんですよね。今回はそれを多用しています。だから音作りに入る時に、工作から入ってるんですね」

――そのようにカセットテープが録音媒体ではなく、音を揺らし変化させる楽器のように扱われている点が印象的です。ノイズ、歪み、揺らぎ、ざらつきを、どの時点で作品の手触りとして受け入れるのでしょうか。今のお話を受けると、〈最初から〉ということになるのでしょうか。

「そうですね。曲によっては意識的に〈よし、これはテープの揺らぎを使おう!〉というものもあるし、〈これいいな〉って思ったループの音を結果的に採用するパターンもありますし。

〈ノイズ〉が〈生きている〉ように個人的には感じていて。そういう〈不安定で完璧じゃないこと〉が美しい、みたいな思いが自分の中にあるんです。個人的に、このプロジェクト(TyBO)では、それを〈人の不完全さ〉みたいなものとして捉えて、不安定で完璧じゃない音をそのまま採用したりもしています。

カセットテープで音を作ると大体、想像通りにいかなくて。それがいいというか、計算してもその通りに行かない面白さとか、その不安定さが美しいなって、個人的に感じるんですよね。

〈整っていくこと〉をゴールにしすぎると危険かもしれない、とも思っています。〈人間的なエラー〉があるからこそ、その人のユニークさとか個性があるのだと思います。すべてを整える必要はないのではないか、ということも、僕がアナログギアを使う時のひとつのテーマとして考えていますね」