Photo By ViVi Koharu

五条院凌が初の本格オリジナルピアノソロアルバム『Oh Rose』を2026年9月9日(水)にリリース。本作は教会コンサートなどを通じて発表してきた〈薔薇シリーズ〉の曲など完全新録曲を含む全12曲が収録された作品で、ピアニストとしてのみならず作曲家としての五条院の現在地が刻まれている。

また収録曲“メデューサの愛した薔薇”のミュージックビデオも公開された。MVは森の中でピアノを奏でる五条院の姿を映し、現実と神話の境界を漂う幻想的な世界を描いた映像が彼女の情熱的な〈薔薇〉の世界を表現。悲劇の女性であり、現代では力強い女性像の象徴ともされるメデューサを巡る音楽は映像化によってより妖しく鮮烈な物語性を帯びている。

さらに9月5日(土)には神奈川・横浜のはまぎんホール ヴィアマーレでコンサート〈Ryo Gojoin First Hall Concert of 2026 The Final Bloom of Her Church Concert Series 静寂に咲く、薔薇の旋律〉が開催される。録音作品からも十分に伝わる情念や音のうねりがホールの空気と聴衆の呼吸を取り込み、アルバムの世界をステージ上で立体的に立ち上げる瞬間を目撃できるまたとない機会だ。

今回はそんな話題ずくめな五条院の新作の全曲について音楽ジャーナリスト池田卓夫にレビューしてもらった。 *Mikiki編集部

五条院凌 『Oh Rose』 Piano Beat Music Castle/apart.RECORDS(2026)

 

津軽の女性の情念と西洋ピアノ音楽のハイブリッド

ピアニストの五条院凌、初の本格オリジナルピアノソロアルバム『Oh Rose』を聴いて最初に思ったのは、ラテンを思わせる熱い音のうねりの根底で燃え盛る日本、それも五条院の故郷である津軽(青森県)の女性に際立つ情念の炎だった。コンサートと連動して展開してきた自作曲の〈薔薇シリーズ〉がベースのアルバムだが、花の色は絶対に燃え上がるような赤だと確信させる。

先ずはAIに〈津軽の女性の情念とは、何ですか?〉と尋ねてみた。

1)厳しい風土:雪と寒さが厳しい津軽の冬は、女性の秘めた熱い恋心を強調する背景となります。

2)津軽三味線の音色:哀愁と激しさが入り交じる音色は、女の心の叫びそのものとされます。

3)耐え忍ぶ強さ:悲しい運命に負けず、奥底に強い意志を秘めて生きる姿が特徴です。

――ちょっと演歌っぽい気もするが、五条院凌の音楽のルーツを紐解く手がかりとして、けっこう的を射たアンサーだと思う。

 

ショパンからボサノバ、民謡、ジャズの要素も取り入れた〈薔薇〉の世界

1曲目、アルバムタイトルとなった“Oh Rose”は聴き手をいきなり、大人の夜へと誘う。ダンスクラブで男女が肉体を密着させて踊るタンゴの世界だ。ハチャトゥリアンのバレエ音楽“仮面舞踏会”のワルツを思わせるところもある。楽曲の構造は3部形式(A→B→A)。中間部にはショパンを思わせる響きが現れる。

続く“メデューサの愛した薔薇”もラテンのボサノバ風。音の足取りはポップで、どこかTVコマーシャルの音楽を思わせる。ギリシャ神話のメデューサは怪物に姿を変えられてしまった悲劇の女性だが、現代ではフェミニズムの象徴ともなり、力強い女性のイメージも担う。

高速道路を孤独に疾走する情景を描いた“FLASH”のメカニックで打楽器的な音はスポーティ、どこかにプロコフィエフのエコーが潜む。“Dance of the Knights〜騎士たちの踊り〜”の軽妙で細かなタッチの連打は一瞬、リムスキー=コルサコフの“クマバチは飛ぶ”を思わせるが次第に熱を帯び、最後は宴の後のように、一抹の淋しさが漂う。しんみりとした気分は次の“孤高の惑星 Ambient Piano solo ver.”に引き継がれるが、時間の経過とともに日本の王朝風の雅(みやび)や民謡の力強いリズム、ジャズピアノ風のフレーズも現れ、あらゆる意味での〈古典〉を踏まえた一角を形成する。