Photo by 月楠

イヴァン・リンスの新たな魅力を引き出すアレンジ力

 ブラジル産のポップスを意味するMPB界の大御所、イヴァン・リンス。70年代から現在に至るまで、数多くのヒット曲を生み出してきたが、クインシー・ジョーンズ、デイヴ・グルーシン、リー・リトナーをはじめとするアメリカのアーチストに高く評価され知名度を上げたことから、ジャズ・フュージョン畑のアーティストとして認識している人も多いだろう。そんなイヴァンの全てを愛してやまないアレンジャー/楽団リーダーの八木美楠子が、自ら率いるビッグバンドの3作目として実にユニークなビックプロジェクトを完遂した。

 なんと収録した全曲でイヴァン本人がヴォーカルとして参加し、さらにテオ・リマ(ドラムス、彼もまたブラジル屈指のグルーヴ・マスターだが)や共同プロデューサーでもあるネマ・アントゥネス(ベース)など、イヴァンのレギュラーバンドのメンバー達がレコーディングに参加した、まさに日伯合作とも言うべきアルバムになった。

Banda Mandacarinho 『Banda Mandacarinho convida Ivan Lins』 Mandacaru music(2026)

 そもそも多国籍メンバーを擁してMPBをレパートリーの中心に置いてきた彼らのサウンドには独特のグルーヴが宿るのだが、そこにブラジル側のリズム隊が加わることで、さらに輝きを増している。それには八木のアレンジ力が大きなパワーを与えていたことは言うまでもない。イヴァンの楽曲を深く理解すると共に、バンドメンバーを活かし方も熟知しているからこそのアレンジは聴いていて楽しいだけでなく、イヴァンの歌声とバンドのハーモニー、そしてリズムの三者が織りなす万華鏡模様にも似た重なり合いが楽しめる。

 ところで収録曲を眺めていて気がついたのだけど、本作では80年代以前の曲はほんの数曲で、大半は比較的新しい作品から選ばれている。そういったことからもイヴァンにとってこの作品への参加が、ただのゲストとしての意識ではないように推測される。そこまでの姿勢を引き出したのは、繰り返すが八木のアレンジ力によるところが大きいだろう。