シティポップ、ボカロ(ボーカロイド)、R&B、レゲエ……。よく耳にするあの音楽ジャンル名って、実際はどんな音楽を指しているの? そんな疑問に答え、音楽を一歩踏み込んで知ってもらうため、タワーレコードの音楽ガイドメディアMikikiが新連載〈音楽ジャンル再入門〉をスタートさせました。
第4回は、初心者でもわかるジャズ入門。ジャズの歴史や魅力、世界的な人気を誇る理由、代表的なサブジャンルや名曲・名演などをしっかりと紹介。これを読めば、音楽を聴くことがもっと楽しくなるはず!
ジャズとは?
19世紀末にアメリカ南部のルイジアナ州ニューオーリンズで生まれたジャズ。アフリカ系アメリカ人たちの音楽的ルーツとヨーロッパの音楽が融合した、多様で自由度の高い音楽ジャンルだ。
その最大の魅力は、〈アドリブ〉と呼ばれる即興演奏と、〈スウィング〉と呼ばれる活き活きとしたリズム。あらかじめ決められたメロディや楽譜をなぞるだけでなく、演奏者がその場の空気感や仲間との掛け合いのなかで、リアルタイムに自分らしいメロディを紡ぎ出していく。同じ曲であっても、演奏する人やその日の気分によってまったく違う姿を見せるのがジャズの面白さだ。
ジャズが生まれた背景と歴史
南北戦争後、さまざまな人種や文化が入り交じるニューオーリンズでジャズの歴史は始まった。アフリカから渡ってきた人々が厳しい労働のなかで歌ったブルースやワークソング、教会で響くゴスペル。それらの深い情感と独特の音階が、西洋音楽の楽器や理論と巡り合うことで新たなサウンドが作り出されたのだ。
20世紀に入ると、ジャズは人種や地域を越えて広がり、ダンスミュージックとして全米で大流行する。その後、時代とともにアドリブの技法やリズムを進化させながら、ロックやヒップホップ、R&B、映画音楽など、ほかの音楽ジャンルにも多大な影響を与えてきた。
ジャズが与えた文化的な影響
ジャズは音楽の枠を超え、ファッションや文学、絵画のような芸術など、20世紀の文化全体に革命をもたらした。特に禁酒法時代と重なる1920年代は〈ジャズエイジ〉と呼ばれ、地下のモグリ酒場を中心に若者文化が開花。F・スコット・フィッツジェラルドの小説「グレート・ギャツビー」に描かれたように、従来の価値観を打ち破る自由なライフスタイルの牽引役となった。人種差別に対する社会的なメッセージやファッション、言葉遣いに至るまで、ジャズは現代のポップカルチャーの礎を築いた。
ジャズと人種の関係
ジャズは黒人文化の誇りである一方、厳しい人種差別の現実と背中合わせでもあった。黒人が演奏していたにもかかわらず、黒人客の入場を拒んだクラブが存在するなどの隔離や制約を強いられながら、黒人と白人の共演、聴衆の拡大は人種の壁を崩す先駆けとなった。単なる娯楽を超え、公民権運動にも少なからず関わり、ジャズミュージシャンが芸術家としての自由と権利を訴える場として、社会を変える強い力になったのだ。ドラマーのマックス・ローチによる抗議のアルバム『We Insist!』、公民権運動に直接的に参加したシンガーのニーナ・シモンらは、その代表格。
ジャズの人気が高い理由は?
ジャズが時代を超えて人々を惹きつけてやまない理由は、完成された楽譜をなぞるのではなく、〈その瞬間だけの音楽〉を生み出すからだ。プレイヤー同士が音で即興の対話を繰り広げるアドリブには、互いの音に反応し合い、失敗すらも次の展開へと昇華させる緊張感と自由さがある。静寂に染み入るトランペットの音色も、感情を爆発させるピアノの躍動も、すべてはその場限りのドキュメンタリーだと言える。正解のない世界で個性をぶつけ合い、聴き手とともにその一度きりの空間を作り上げる、人間くさいドラマこそが、ジャズの本質的な魅力と言えるだろう。
また、ジャズはアメリカから世界各国に広がり、グローバルに音楽的な影響を及ぼした事実も大きい。ロックに先駆ける20世紀前半、各地のローカルな音楽はジャズの音楽性や様式をさまざまな形で取り入れていった。そして、大衆音楽やダンスミュージックとして始まりながら、次第に高尚な芸術音楽としても鑑賞・評価されてきた側面もある。〈大人が聴く音楽〉〈夜の音楽〉といった一面的なイメージで語られることもあるが、その背景には深い歴史と多面性がある。
そんなジャズは、やはり聴き心地のよさと洗練された演奏・音楽性も魅力のひとつであり、BGMとして消費されてきた部分はなくもない。演奏の繊細な機微へ真剣に向き合うことが可能だが、シーンやムードに合った音楽として生活・日常に密接した聴き方もできる。誰もがどこかで、いろいろな場面で耳にしたことがある普遍性も、ジャズの強みだと言えるだろう。
ジャズでよく使用される楽器
ジャズの主役は、演奏者たちと彼らがプレイする楽器だ。合奏・アンサンブルでも、独奏・ソロでも、プレイヤーの個性が楽器を通して表現されるのがジャズである。ここでは、そんな重要な要素である楽器の代表例を取り上げよう。
サックス(アルト/テナー)
人間の声に近い豊かな表現力を持ち、メロディを担う主役として華やかに演奏を牽引する木管楽器。甘いバラードから激しいアドリブまでこなすジャズの花形楽器だ。アルトとテナーが大多数だが、ジョン・コルトレーンやウェイン・ショーターが演奏したソプラノも用いられる。フュージョンでは、サックス奏者が電子楽器のウインドシンセサイザーを使うこともある。
トランペット
力強く華やかで煌びやかな高音で、楽曲の表情を決定づける金管楽器。弱音器(ミュート)を取りつけることで、哀愁漂うしっとりとした独特の音色を響かせることも得意とする。また、曲調に応じて、トランペット奏者は甘く温かい音色のフリューゲルホルンに持ち替えることもある。
クラリネット
ニューオーリンズ/ディキシーランドジャズやスウィングジャズの時代においては、特にソロで主役を張った木管楽器。木管ならではの温かくまろやかな低音から、伸びやかで軽快な高音まで幅広い音域を誇り、クラシカルでノスタルジックな気品と華やかさを添えることができる。
ピアノ
和音で曲の骨組みを支えつつ、華やかなソロもこなす万能楽器。打楽器的な力強いリズムと美しい旋律で、バンドのハーモニーに深い奥行きを与える。ピアニスト、ベーシスト、ドラマーによるピアノトリオは、ジャズの代表的な編成だ(ちなみに、ピアノのような和音を奏でる楽器が入らない編成は〈コードレス〉と呼ばれることもある)。
ウッドベース(コントラバス)
低音とリズムの土台を支える大黒柱。指で弦を弾く独特の奏法で歩くように低音を刻み続け(ウォーキングベース)、ジャズ特有のスウィング感を生み出す。アンプや電気楽器を用いるようになったフュージョンの時代に入ると、ロックやファンクの影響を受け、エレキベースも一般化した。
ドラム
テンポを保つだけでなく、曲の展開や熱量を自在に操る司令塔。スティックや金属製のブラシを使い分け、サウンドに多彩な表情と躍動感を与える。なお、4分音符を基本単位にした4ビートが、ジャズのリズムパターンとしては有名。
パーカッション
熱気あふれるラテンジャズやフュージョンで欠かせないのが打楽器。コンガやボンゴ、ティンバレスなどが用いられことが多い。ドラムセットとは異なる複雑でエキゾチックなリズムを生み出し、演奏に独特のうねりと情熱的なグルーヴを注入する存在だ。
ギター
ピアノのように和音で伴奏を支えつつ、軽快なソロフレーズも奏でるプレイヤー。温かみのある太い音色で、バンド演奏に心地よいスウィング感と彩りを添える。アコースティックギターの時代はリズム楽器だったが、ジプシージャズの代表格であるジャンゴ・ラインハルトがソロ演奏を開拓。チャーリー・クリスチャンらによってエレキギターが導入されてからは、管楽器に負けない音量と表現力を得て、バンドの主役としての地位を確立した。
トロンボーン
スライド管を使って音高を滑らかに変化させる独特の演奏スタイルが特徴。太く温かい中低音でメロディを包み込み、金管アンサンブルに重厚な深みをもたらす。
フルート
管楽器のなかでも軽やかで澄んだ美しい高音が魅力。ラテンジャズやモダンジャズにおいて、涼しげで洗練されたアクセントや華やかなソロパートを担う。
オルガン
ソウルジャズやジャズファンクで絶大な存在感を放つ鍵盤楽器。グルーヴ感あふれる独特の持続音と力強い低音で、泥臭くエネルギッシュな熱気を生み出す。もっとも有名な楽器は、電気楽器のハモンドオルガン。
ビブラフォン
金属製の音板をマレット(バチ)で叩く鍵盤打楽器。回転するファンによるビブラートと幻想的かつ透明感あふれる響きで、楽曲にクールでモダンな彩りを与える。
ジャズの歴史や種類・サブジャンルと代表的なミュージシャン
時代とともに進化を重ねてきたジャズには、多様なサブジャンルが存在する。ここからは代表的なスタイルとその特徴、そしてジャズ史を彩る名演奏家たちを紹介しよう。
ニューオーリンズジャズ/ディキシーランドジャズ
20世紀初頭に誕生したジャズ最古のスタイル。管楽器群が同時にメロディを重ね合わせる集団即興演奏と、マーチングバンド譲りの陽気な2拍子のリズムが最大の特徴だ。もともとは黒人ミュージシャンを中心にニューオーリンズで発展したものを〈ニューオーリンズジャズ〉、そのスタイルを模倣した白人バンドによる演奏や派生スタイルを主に〈ディキシーランドジャズ〉と呼んだ。
代表的なプレイヤーは、トランペットの華やかなソロ演奏と温かい歌声でジャズを世界的な娯楽へと押し上げたルイ・アームストロング。〈サッチモ〉の愛称で知られる彼の明るくノスタルジックなサウンドは、いまなおジャズの原点として愛されている。
スウィングジャズ
1930年代に大流行した、大人数の大型楽団(ビッグバンド)による絢爛豪華なダンスミュージック。それまでの少人数演奏から一変し、アレンジされた完璧な合奏と、身体が自然と動き出すような心地よい4拍子のうねり(スウィングリズム)で全米を熱狂させた。
代表格は、気品ある大衆音楽を作り上げた巨匠デューク・エリントン(ピアノ)や、〈スウィングの王様〉と称され人種混成バンドを率いたベニー・グッドマン(クラリネット)、グレン・ミラー(トロンボーン)、カウント・ベイシー(ピアノ)など。洗練された管楽器のアンサンブルと華やかなエンターテインメント性は、ジャズが商業的にもっとも黄金期を迎えた時期の象徴だと言えよう。
ビッグバンドとラージアンサンブルの関係
ビッグバンドは、サックスやトランペットなど大勢の管楽器を揃え、緻密なアレンジとともにダイナミックな合奏を繰り広げる楽団のこと。かつては大衆向けのダンス音楽だったが、やがて作曲家や編曲家の独創的な世界観を表現する現代のオーケストラへと進化を遂げた。
そのパイオニアが、絵の具を混ぜ合わせるように色彩豊かな音色を生み出し、マイルス・デイヴィスと多くの名盤を生んだ編曲家ギル・エヴァンスだ。その緻密なサウンドの美学は、グラミー賞に輝く現代ジャズの最高峰マリア・シュナイダーへと継承され、現在は〈ラージアンサンブル〉というスタイルで呼ばれることも多い。さらに、日本人作曲家の挾間美帆が世界的なオーケストラを率い、ラージアンサンブルジャズの最前線を切り拓いている。
ジャズボーカル
ジャズバンドをバックに声を楽器のように自在に操り、深い情念やスリルあふれるアドリブを聴かせるスタイル。ボーカルジャズ、ジャズシンギングとも呼ばれる。歌詞のストーリーを表現するだけでなく、声で楽器の音を模倣して即興のメロディを紡ぐスキャットや、独特のリズム感で楽曲をドラマティックに彩る。
代表的な存在は、トランペット奏者にして、しゃがれ声と陽気なスキャットでジャズボーカリストとしても礎を築いたルイ・アームストロングや、甘く洗練された歌声で大衆を魅了したフランク・シナトラ。また、女性ジャズボーカリストの御三家として、圧倒的な技術を誇るエラ・フィッツジェラルド、情感に満ちた歌声で人気を博したビリー・ホリデイ、そしてオペラ歌手並みの広音域を誇るサラ・ヴォーンが有名だ。近年のノラ・ジョーンズやグレッチェン・パーラト、サマラ・ジョイに至るまで、長い歴史と人気を誇るジャンルだ。
ビバップ
1940年代半ば、スウィングの商業主義に不満を抱いたミュージシャンたちが深夜のジャムセッションから生み出したモダンジャズの原点。BGMではなく、複雑なコード進行と超高速のテンポにのせて、テクニカルで自由な即興演奏を競い合う〈芸術音楽〉へとジャズを昇華させた。
代表格は、神業的なフレーズで即興の概念を変えたアルトサックス奏者のチャーリー・パーカーや、トランペット奏者のディジー・ガレスピー、〈ピアノのチャーリー・パーカー〉の異名をとるバド・パウエルなど。さらに、不協和音を巧みに操り独特の不揃いなリズムと奇妙で美しいメロディを生み出したピアニストのセロニアス・モンクだ。彼らの挑戦は、その後のジャズの基盤となった。
モダンジャズとは?
モダンジャズとは、1940年代半ばのビバップ登場から1960年代にかけて、芸術的進化を極めた時期のジャズの総称。それまでの大衆的な娯楽のためのダンス音楽から一転し、演奏者個人の高度な技術や緻密に形成された理論、内面的な感情を表現する〈聴くための本格的な芸術音楽〉へと変貌を遂げた。即興のスリルと洗練された構成美が融合し、数々の歴史的名盤やコンセプチュアルな作品が生み出された時代でもある。
その中心には常に〈ジャズの帝王〉ことマイルス・デイヴィスが君臨し、サックス奏者のジョン・コルトレーンやピアニストのビル・エヴァンスらとともに、いまなお語り継がれるモダンジャズの黄金時代を築き上げた。
ハードバップとは?
モダンジャズの一種。1950年代半ば、ビバップの複雑な演奏技術を受け継ぎつつ、ブルースやゴスペルの熱いフィーリングを融合させて誕生したスタイル。過度に難解になりすぎた即興演奏を整理し、親しみやすいメロディと情熱的で力強いリズムを加えることで、大衆的な人気を獲得した。
代表格は、ダイナミックなドラムプレイでバンドを強力に牽引したアート・ブレイキーや、輝かしい音色と卓越した表現力で天才と称されたトランペットのクリフォード・ブラウン、名盤『Cool Struttin’』で有名なピアニストのソニー・クラークなど。彼らが放つ情熱と親しみやすさを兼ね備えたサウンドは、現在に至るまでジャズの王道として愛され続けている。
ジャズと映画音楽の関係
1950年代以降、ジャズは映画の雰囲気を決定づける劇伴として欠かせない存在になる。従来のクラシック的なオーケストラに代わり、都会の孤独やサスペンスフルな心理描写、大人の哀愁を表現するのに、ジャズのモダンな響きは最適だった。
ピアニストのデューク・ジョーダンはフランス映画「危険な関係」のテーマ曲として“危険な関係のブルース(No Problem)”を生んだほか、「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」などで知られる巨匠ミシェル・ルグランはジャズと映画音楽を融合させた象徴的な存在だ。さらに、同じくフランス映画「死刑台のエレベーター」ではマイルス・デイヴィスが映像を見ながら即興で演奏するなど、ジャズと映画はお互いを高め合う、切っても切り離せない存在になっている。
ラテンジャズ
ラテンジャズは、文字どおりラテン音楽の要素を取り入れたジャズのこと。打楽器を中心にした、アフロキューバンと呼ばれるアフリカ系キューバ音楽やブラジル音楽の複雑なリズムと、ジャズの和声(和音の進行、ハーモニー)や即興演奏が融合したサブジャンルだ。
歴史的には、1940年代にディジー・ガレスピーがキューバ系打楽器奏者マチートやチノ・ポゾらを起用したことで開花し、いまに至るまで進化を続け、ジャズの定番スタイルになっている。パーカッションの折り重なりにより、思わず踊り出したくなるような躍動感あふれるビート、そして情熱的かつ高度なホーンセクションのアンサンブルが、最大の魅力だ。
代表的なミュージシャンは、ディジー・ガレスピー、ティト・プエンテ(ティンバレス/ビブラフォン)、モンゴ・サンタマリア(コンガ)、エディ・パルミエリ(ピアノ)、チューチョ・バルデース(ピアノ)などが挙げられる。
ジャズとボサノバの関係
ボサノバは、1950年代末のブラジル・リオデジャネイロでサンバにジャズの要素を取り入れて生まれたジャンル。1960年代初頭にジャズプレイヤーたちがボサノバに接近し、〈ジャズボッサ〉が流行、ブーム化した。ボサノバの代表的な作曲家であるアントニオ・カルロス・ジョビンの曲がジャズの重要なレパートリーとして定着したように、その美しいメロディや特徴的で軽快なリズムはジャズに少なからぬ影響を及ぼした。
代表的な例では、テナーサックス奏者のスタン・ゲッツが、〈ボサノバの父〉ことジョアン・ジルベルトと共演したアルバム『Getz/Gilberto』が挙げられる。
ジャズはその原点からして混血的だが、上記の南米の音楽やブラジル音楽など、いろいろな地域やジャンルの要素と融合することで発展していった音楽なのだ。
クールジャズ
クールジャズは、ビバップのアンチテーゼとして誕生したスタイルだ。1940年代後半、ビバップは過熱化を極め、テンポの速さや演奏の激しさを追求するあまり、過激化していった。その反動で、熱量よりも知的で抑制の効いたトーン、クラシック音楽から影響を受けた高度な編曲(アレンジ)、室内楽のような洗練されたアンサンブルを志向したのがクールジャズだった。
出発点は、マイルス・デイヴィスが1949年に録音したアルバム『クールの誕生(Birth Of The Cool)』だとされている。都会的な感覚を宿し、静けさを秘めたクールなサウンドは、演奏面でも編曲面でもその後のジャズの発展に多大な影響を与えた。
代表的なミュージシャンには、マイルス・デイヴィス、ジェリー・マリガン(バリトンサックス)、レニー・トリスターノ(ピアノ)らがいる。
ウエストコーストジャズ
ウエストコーストジャズは、名前のとおりアメリカ西海岸(主にロサンゼルス周辺)を中心に、1950年代に発展したスタイル。南部で始まり、北部・東部で発展したジャズだったが、ここで舞台は西部に移った。
白人ミュージシャンが多く関わったこと、映画やテレビの音楽に携わっていたスタジオミュージシャンの演奏が軸だったことも有名だ。クールジャズの抑制されたトーンをベースにしつつ、彼らの緻密かつ明快な編曲技術やプレイが活きた演奏は、まさに西海岸のカラッと晴れた気候を思わせる軽快さ、明るさ、洗練を備えていた。音楽的には、対位法を取り入れたアンサンブルも特徴のひとつ。
代表的なミュージシャンは、チェット・ベイカー(トランペット/ボーカル)、アート・ペッパー(アルトサックス)、シェリー・マン(ドラムス)、デイヴ・ブルーベック(ピアノ)、ポール・デスモンド(アルトサックス)など。
モードジャズ
モードジャズ(モーダルジャズ)は、1950年代末にマイルス・デイヴィスなどが確立した、革新的な演奏技法を中心にしたサブジャンル。その音楽性の説明は、少々複雑になる。
それ以前のジャズは、コード進行(和音の流れや移り変わり)にもとづいて、各演奏者が即興演奏をおこなっていた。モードジャズは、その手法から脱却し、〈モード〉と呼ばれる特定の旋律の音階(スケール)をベースにしている。たとえば、ハ長調(Cメジャー)の〈ドリアンモード〉では、D-E-F-G-A-B-C-D(レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・レ)の音階で演奏するといったように。それによってコードの縛りが減り、プレイヤーが奏でるメロディの自由度が劇的に向上。独特の浮遊感や瞑想的な緊張感が生まれるのが、モードジャズの特徴だ。
マイルスの傑作『Kind Of Blue』で完成され、その後のジャズの基盤になった。代表的なミュージシャンは、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンス、ハービー・ハンコック(ピアノ)など。
フリージャズ
アバンギャルド(前衛)ジャズとも言われるフリージャズは、ここまでの歴史的な流れを断ち切った、かなり革新的なムーブメントだ。登場したのは、1950年代末から1960年代にかけて。伝統的なコード進行や調性(〈ハ長調〉など、主音を中心にした音楽的な秩序)、定形のリズム、明確なメロディといったものをすべて打ち破ったのがフリージャズだった。
フリージャズでは、過去の約束事を撤廃し、プレイヤーの即興性や感情の爆発が極限まで追求された。自由であることが重視され、集団即興によって時に混沌を極めたサウンドは、当時の黒人解放運動とも連動し、表現の自由の象徴としても機能した。
代表的なミュージシャンには、その名も『Free Jazz』というアルバムを発表した先駆者オーネット・コールマン(アルトサックス)をはじめ、セシル・テイラー(ピアノ)、アルバート・アイラー(テナーサックス)、後期のジョン・コルトレーンなどが挙げられる。
フュージョン
フュージョンは、端的に言えばエレクトリック(電化した)ジャズのこと。1960年代末、ロックやソウル/ファンクといったポップミュージックの要素が融合して誕生したのがこのジャンルで、そのため〈クロスオーバー〉とも呼ばれる。
ジャズはアコースティックな音楽だったが、フュージョンはエレキギターやエレクトリックピアノ、シンセサイザー、エレキベースといった電気楽器を積極的に導入した。4ビートを中心にしていたリズムからも変化し、8ビートや16ビートの力強いパターンが主流になった。
先駆者はやはりマイルス・デイヴィスで、1980年代にかけて大ブームになり、日本でも盛り上がり、近年は〈Jフュージョン〉と呼ばれるような人気プレイヤー/バンド(ギタリストの高中正義、カシオペアら)を生んだ。代表的な存在は、ウェザー・リポート、チック・コリア(ピアノ)のバンドであるリターン・トゥ・フォーエヴァー、ハービー・ハンコックらが挙げられる。
スムースジャズとは?
フュージョンの台頭以降、1980年代にかけてイージーリスニング/BGM的に聴き心地のよいエレクトリックなジャズが人気を博した。そういった音楽が、スムース(スムーズ)ジャズと言われるようになる。
スムースジャズでは、ポップスやソウル/R&Bの要素を取り入れたポップで美しいメロディ、洗練された心地よいリズムやメロウさが重視された。つまり、従来のジャズにおける、即興のソロによる暑苦しい個性のぶつかり合いとは正反対の音楽だと言うこともできる。そのため、ラジオでの頻繁なオンエアやBGMとしての重用によって広く親しまれ、ジャズの一般化とイメージ形成にも一役買った。一方で、シリアスなジャズを志向する演奏家やファンとの溝を深めた面もある。
代表格には、グローヴァー・ワシントンJr.(アルトサックス)、ケニー・G(ソプラノサックス)、デヴィッド・サンボーン(アルトサックス)らが挙げられる。
ECMのジャズ
ジャズレーベルといえばニューヨークの名門ブルーノートが有名だが、ジャズの変革期にヨーロッパから現れたECMは、ひとつのジャンルを形成していると言っていいだろう。
1969年にマンフレート・アイヒャーがドイツで設立した、インディペンデントな(独立系の)レーベルのECM。〈沈黙に次に美しい音〉というコンセプトが有名で、ハードバップのようなアメリカの伝統的なジャズからは一線を画した、透明感あふれるサウンドが特徴的。特殊な録り方や音響によって静寂を重視し、残響美を追求した〈ECMサウンド〉は広く知られている。音楽的にはクラシックや現代音楽、民族音楽の要素を取り入れてきたことも有名。また、ジャケットのアートワークも個性的だ。
その徹底された美学によってファンを世界規模で増やし、ピアニストのキース・ジャレットやギタリストのパット・メセニー、サックス奏者のヤン・ガルバレクなどを輩出。ジャズの新たな魅力、別の側面を創出したレーベルだと言えよう。
1980年代のジャズ(新伝承派とスティーヴ・コールマンのM-Base)
1970年代までに、あらかたのサブジャンルや様式は出尽くしたとされるジャズ。しかし、それ以降はどうだろう? 1980年代のジャズ界では、主にふたつの潮流が生まれた。
そのうちのひとつは、ブランフォード・マルサリス(テナーサックス)の弟ウィントン・マルサリス(トランペット)らが牽引した〈新伝承派〉。電化したジャズやフュージョンに異を唱え、ビバップ/ハードバップといったアコースティックジャズの伝統と技術をストイックに再評価した動きだ。
他方、もうひとつの動きとして、サックス奏者スティーヴ・コールマンが提唱した〈M-Base〉が挙げられる。その特徴は、即興性を重視し、アフリカなどの非西洋音楽から影響を受けた複雑な変拍子とファンク的なリズム構造。高度な数学的理論を取り入れたことでも知られており、それによって新たな即興の方法を開発したのがM-Base一派だ。
伝統回帰と先鋭化という二極化が進んだ1980年代は、現在のコンテンポラリージャズの基礎を築いた重要な時期だった。
1990~2000年代のジャズ
1990年代から2000年代にかけては、伝統を継承したプレイヤーがいた一方、多様なジャンルとの高度なクロスオーバーが試みられた時代でもあった。
たとえば、ジョシュア・レッドマン(テナーサックス)やケニー・ギャレット(アルトサックス)、ブラッド・メルドー(ピアノ)らは、圧倒的な演奏技術を駆使して、ロックやポップスの曲をレパートリーに入れつつ、現代的なアコースティックジャズを進化させた。その一方で、70年代から活動するジョン・ゾーンは、パンクや前衛音楽を呑み込んだアバンギャルドなアプローチでジャズを拡張。また、先日亡くなったカサンドラ・ウィルソンはブルースやフォークの伝統に回帰しつつ、深みのある歌唱でジャズボーカルの表現を拡大した。
2000年代には、トランペッターのロイ・ハーグローヴが自身のグループ、RHファクターでR&B/ネオソウルやヒップホップとジャズを高度に融合させた。また、2002年にリリースされたノラ・ジョーンズのデビュー作『Come Away With Me』が世界中で爆発的ヒットを記録した影響も大きい。
ジャンルの境目が曖昧になり、多極化し、ミュージシャンがそれぞれに独自の美学を押し進めた時代が1990~2000年代だった。
ジャズとヒップホップの関係
ジャズとヒップホップの関係が深まったのも1990年代以降の特徴だ。1980年代にヒップホップシーンで始まったジャズのレコードからのサンプリング(楽曲の一部の引用や再構築)が洗練されていき、その代表的なグループであるア・トライブ・コールド・クエストはベテランベーシストのロン・カーターと共演。また、グールー(ギャング・スター)はアルバム『Jazzmatazz』のシリーズでジャズの演奏をバックにラップした。マイルス・デイヴィスも1992年の遺作『Doo-Bop』でヒップホップを大々的に取り入れている。
ジャズと電子音楽、ダンス/クラブミュージックの関係
イギリスでは以前からジャズのレコードをかけて踊る文化があったが、1980〜1990年代のロンドンではその流れがアシッドジャズに発展した。2000年代に入ると、ヨーロッパでは電子音楽やダンス/クラブミュージックを取り入れたニュージャズ(フューチャージャズ)が盛り上がり、フランスのサン・ジェルマンやドイツのジャザノヴァが活躍、日本でもクラブジャズが人気を博した。さらに、2000年代後半にはフライング・ロータスが登場、ヒップホップのビートや電子音楽とジャズの即興性を融合させ、先鋭的な音楽を生み出した。
2010~2020年代のジャズ
2010年代以降のジャズは、ここまでに挙げたジャンルの融合を推し進め、新たなプレイヤーが多数登場し、進化を続けている。ピアニストのロバート・グラスパーは、グラミー賞を受賞した『Black Radio』でネオソウルやヒップホップを大胆に取り入れ、ジャズの可能性を拡張した。サックス奏者のカマシ・ワシントンは、ビッグバンドやスピリチュアルジャズの伝統を現代的によみがえらせた。ベーシストのエスペランサ・スポルディングは、巧みな演奏と歌唱、ジャンル越境性と高い作曲能力で優れた作品を多数作り上げている。さらに、多数の楽器を習得して多重録音し、微分音(マイクロトーン)や高度な音楽理論を操るジェイコブ・コリアー、ニューオーリンズをルーツに持つジョン・バティステらも活躍。
2020年代には、コロナ禍で生演奏というジャズのアイデンティティが奪われることもあったが、より多様化と発展が進んでいる。トランペット奏者アンブローズ・アキンムシーレ、サックス奏者イマニュエル・ウィルキンス、ビブラフォン奏者ジョエル・ロスなどがその筆頭だ。
ジャンルのより広範なクロスオーバーがあり、アフリカ文化などの伝統への回帰と新たな形への再構築があり、演奏技術のさらなる向上と音楽理論の深化もある現在。ジャズは若いリスナー層も開拓しつつ、前に進みつづけている。
ジャズの名曲・名演20選
それでは、具体的な曲を聴いてジャズを体験しよう。ジャズの歴史において、時代を超えて愛され続ける名曲・名演を20曲厳選した。各曲の注目ポイントや聴きどころをまとめた。ジャズ初心者からヘビーリスナーまでが楽しめる、必聴の20曲を楽しんでほしい。
Benny Goodman & His Orchestra “Sing, Sing, Sing”(1936年)
ルイ・プリマが作曲し、プリマの率いるニューオーリンズ・ギャングによって録音された1曲だが、このベニー・グッドマン楽団のカバーによって一躍有名となった。ベニーのクラリネットによる軽快なメロディ、ジーン・クルーパによる躍動感あふれるドラムソロなど、スウィングジャズを代表するスタンダードナンバー(ジャズのレパートリーとして多くのミュージシャンが繰り返し演奏し、知名度が高い定番曲)として知られている。日本では映画「スウィングガールズ」の劇中にて取り上げられた。
Billie Holiday “Strange Fruit”(1939年)
ユダヤ人教師のエイベル・ミーアポル(ルイス・アレン名義)が手がけた、ビリー・ホリデイの痛切な歌声で世界に衝撃を与えた名曲。タイトルの〈奇妙な果実〉とは、白人の人種差別によって虐殺された黒人の遺体が木に吊り下げられた様子を例えたもの。のちに公民権運動やブラック・ライヴズ・マター運動で取り上げられ、歴史的なプロテストソングとして認知されている。
Duke Ellington “Take The “A” Train”(1941年)
1939年にデューク・エリントンが自身の楽団のピアニスト、ビリー・ストレイホーンに依頼して制作したジャズの定番曲。〈“A” Train〉とは、ニューヨークのハーレムへと向かう急行の地下鉄のこと。弾むようなスウィングのリズムと都会的で洗練されたメロディが心地よく、日本でも“A列車で行こう”の邦題でデューク・エイセスや美空ひばりらがカバーしている。
Dizzy Gillespie & Charlie Parker “A Night In Tunisia”(1945年)
1942年にディジー・ガレスピー(トランペット)がピアニストのフランク・パパレリと共作した、モダンジャズの幕開けを象徴する名曲。2000年に発掘され、5年後の2005年に正規リリースされたニューヨークはタウン・ホール公演でのパフォーマンスは、若きガレスピーとチャーリー・パーカー(アルトサックス)によるソロの応酬が聴きどころ。ビバップ黎明期の凄まじい熱量とスリリングな緊迫感を味わうことができる名演だ。
Thelonious Monk “’Round Midnight”(1947年)
〈世界で最も録音されたジャズナンバー〉としても知られるセロニアス・モンクの代表曲のひとつ。曲名は“’Round About Midnight”とされることもある。曲自体は長らく存在していたが、1947年に初めて録音されて以降、モンク自身も含め数多くのミュージシャンたちによってレコーディングされ、魅惑的なメロディと革新的なコード進行でスタンダードとして定着。1986年にはこの曲と同名の音楽映画「ラウンド・ミッドナイト」が公開され、劇中ではハービー・ハンコックのアレンジ版を聴くことができる。
Chet Baker “My Funny Valentine”(1954年)
リチャード・ロジャース作曲のミュージカル曲のカバー。すでにトランペット奏者として名を馳せていたチェット・ベイカーがボーカリストの才能を開花させた曲で、その中性的な声質と合わせて、1950年代のウエストコーストジャズを象徴するヒットナンバーとなった。フランク・シナトラやマイルス・デイヴィスなどもこの曲を取り上げているが、ベイカー版が特に人気。
Sonny Rollins “St. Thomas”(1956年)
モダンジャズを代表するナンバー。曲のタイトルはソニー・ロリンズの母親の出身地であるアメリカ領ヴァージン諸島にある島名に由来していて、現地に伝わる伝統的なカリプソの民謡をベースに作曲された。ロリンズの軽快なテナーサックスに加え、曲後半のスウィング調のドラムなど、各楽器の見せ場が設けられたスタンダード曲として、いまも多くのプレイヤーがカバーしている。
Art Blakey & The Jazz Messengers “Moanin’”(1958年)
アート・ブレイキー率いるジャズ・メッセンジャーズが1958年に発表したアルバムの表題曲。ピアニストのボビー・ティモンズが作曲を手がけ、ゴスペルのコール&レスポンス(掛け合い)の構造が曲の随所に採用されている。1961年におこなわれた初来日公演でも演奏され、これをきっかけに日本でもファンキージャズのブームが巻き起こった。
Miles Davis “So What”(1959年)
モダンジャズ屈指の名盤『Kind Of Blue』の収録曲で、ジョン・コルトレーン(サックス)、ビル・エヴァンス(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)らが演奏メンバーとして名を連ねたモードジャズを代表する1曲。ヒップホップやR&Bの楽曲でサンプリングネタとして多用されているほか、マイルスが確立させたモードの手法はピンク・フロイドなどのジャズ以外のミュージシャンにも大きな影響を与えた。
Dave Brubeck Quartet “Take Five”(1959年)
デイヴ・ブルーベック率いるカルテットのメンバーだったアルトサックス奏者のポール・デスモンドが作曲した、当時のジャズシーンでは異例の5/4拍子を採用したナンバー。この曲が収録された『Time Out』はジャズアルバムとして初めてミリオンセラーを記録し、シングルカットされた“Take Five”もジャズのインスト曲では初めて100万枚以上を売り上げた。
John Coltrane “My Favorite Things”(1961年)
ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の劇中歌のカバーで、いまではジャズのスタンダードとして定着している。ソプラノサックスを大々的にフィーチャーし、モードジャズの手法を取り入れた長尺の即興が特徴で、その圧倒的なスケール感でシーンに衝撃を与えた。ジョン・コルトレーンが晩年までコンサートで演奏し続けた愛奏曲でもある。
Bill Evans Trio “Waltz For Debby”(1962年)
ビル・エヴァンスが、幼かった自身の姪デビイに捧げた曲。〈ピアノトリオの金字塔〉とも称される同名アルバムに収録された音源は、1961年にニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードでおこなわれたライブのもので、スコット・ラファロ(ベース)、ポール・モチアン(ドラムス)との豊かなインタープレイが光る名演としても知られている。ジョン・マクラフリンや渡辺香津美らがカバーしたほか、トニー・ベネットとビルの共演作『Tony Bennett & Bill Evans Album』でも取り上げられた。
Herbie Hancock “Chameleon”(1973年)
1972年に発売されたアナログシンセサイザー、ARPオデッセイを導入したハービー・ハンコックの傑作アルバム『Head Hunters』の収録曲。ARPオデッセイによるファンキーなベースラインを筆頭に、ジャズファンクやクロスオーバーを先取りしたこの曲はシングルカットもされ、大ヒットを記録した。シンプルなコード進行、わかりやすい展開の楽曲であるため、今もセッションの定番曲としてプレイされている。
Weather Report “Birdland”(1977年)
ジャズフュージョン史における重要アルバム『Heavy Whether』のオープニング曲。ジャコ・パストリアス(ベース)、ジョー・ザヴィヌル(シンセサイザー)、ウェイン・ショーター(サックス)が在籍した黄金期のアンサンブルを堪能できるナンバーで、曲名はチャーリー・パーカーの愛称(バード)にちなんで名づけられたニューヨークのジャズクラブに由来している。マンハッタン・トランスファーやクインシー・ジョーンズらがカバーした。
Keith Jarret Trio “All The Things You Are”(1983年)
スタンダードの名曲を取り上げた『Standards, Vol. 1』に収録された、キース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック(ベース)、ジャック・ディジョネット(ドラムス)によるスリリングなインタープレイを楽しめる1曲。演奏中のキースの唸り声やスキャットがそのまま記録されていて、スタジオ録音でありながらライブのような熱気を感じることができる。
Pat Metheny Group “Last Train Home”(1987年)
グラミー賞に輝いたアルバム『Still Life (Talking)』に収録された、パット・メセニー・グループの代表曲。走る列車の車輪の音を模したポール・ワーティコによるドラムのブラシ演奏のほか、メセニーが奏でるノスタルジックなシタールギターなど、1980年代後半のコンテンポラリージャズを象徴する曲としてヒットした。2015年にはテレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」のエンディングテーマ曲に起用された。
Brad Mehldau “Blackbird”(1997年)
ロックバンドのレディオヘッドの曲を取り上げるなど、ジャズのレパートリーを広げたブラッド・メルドー。これはビートルズ(ポール・マッカートニー)の名曲をピアノトリオで再解釈したもので、原曲の繊細なメロディを美しく奏でつつ、変拍子を取り入れた巧みなリズムと、独立した左手の対位法的な演奏によって、知的かつリリカルな音楽世界を展開している。ポップスと現代ジャズが奇跡的なバランスで融合した、メルドーの才能が光る名演だ。
Norah Jones “Don’t Know Why”(2002年)
ノラ・ジョーンズの世界的な大ヒット作『Come Away With Me』は、アメリカ同時多発テロ事件後の米国を癒したともされる名盤。その象徴的な名曲がこれだ。ジャズをベースに、フォークなどのアメリカーナの要素を取り入れた素朴で温かみのあるサウンドが特徴です。ノラのスモーキーで心地よい歌い口は、聴く人の心へ静かに語りかけるような魅力があり、唯一無二の響きを持っている。
Roy Hargrove “Strasbourg / St. Denis”(2008年)
トランペット奏者ロイ・ハーグローヴは、前述したRHファクターを率いて革命を起こしたことでも有名。一方、アコースティックなカルテットによるアルバム『Earfood』に収録されたこの名曲は、キャッチーで一度聴いたら忘れられないファンキーなホーンのメロディとベースラインが印象的で、セッションの定番としても広まっている。作曲家ロイの手腕と演奏の魅力が詰まった、2000年代ジャズの名演だ。
Robert Glasper Experiment feat. Erykah Badu “Afro Blue”(2012年)
2010年代以降の新世代ジャズを決定づけたロバート・グラスパーの名盤『Black Radio』の象徴的な一曲。モンゴ・サンタマリア作曲、ジョン・コルトレーンの演奏でも有名なスタンダード曲を、ネオソウルの女王エリカ・バドゥを歌唱で大胆に再定義している。ヒップホップやネオソウルのビート感覚を備えたクリス・デイヴによるドラムプレイ、グラスパーのピアノとフェンダー・ローズ(エレクトリックピアノ)の深みを湛えた響きが融合した重要な演奏だ。
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まとめ
ジャズは、19世紀末のニューオーリンズで生まれ、1917年に最初のレコードが録音された。100年以上の歴史と伝統を持つこの音楽は、目覚ましい発展を遂げ、世界に飛び火し、大きな文化的影響を及ぼした、20世紀を象徴する最大のジャンルのひとつだ。さまざまなサブジャンルを生んで多様化したが、伝統への回帰も繰り返しており、振り子状に動きながら2026年現在も進化しつづけている。
ジャズの根幹には、〈演奏家が楽器を奏でる〉というとても人間くさい営みがある。発想力や独自性が問われる即興演奏も、複数の楽器が折り重なったアンサンブルの生の響きも、AIが全盛の現代にこそ大きな意味を持つはずだ。だからこそ、ジャズはいまも多くの聴き手を惹きつけ、新しいリスナーが増えていっている。そんな歴史性と現代的な意義を持つ、熱い文化に触れるきっかけにこの記事がなれたら幸いだ。