歌謡曲やシティポップ、J-POPのサウンドを高度な演奏スキルや独自のセンスで支えてきたスタジオミュージシャンやセッションプレイヤーたち。Mikikiの新連載〈職人プレイヤー匠の技〉ではそんな優れた技術を持つ音楽家を、日本人を中心に紹介します。記念すべき初回に取り上げるのはギタリストの今剛さん。 *Mikiki編集部
PANTA & HAL、PARACHUTEからスタジオミュージシャンへ――今剛のキャリア
今剛(読み:こんつよし)は1958年生まれ、北海道・釧路出身のギタリスト。「PERFECT BLUE」や「パプリカ」といった名作の数々で知られるアニメ監督・今敏(2010年に死去)が実の弟でることも知られている。
日本でエレキブームを巻き起こしたザ・ベンチャーズの影響を受け、小学校5年生でギターを始めた今。その後、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルといったブリティッシュハードロックからオールマン・ブラザーズ・バンドなどのサザンロックへ、さらにカントリーにハマっていったという。
弱冠15歳でプロを目指して上京。1977年、頭脳警察の解散後にPANTAが結成したPANTA & HALに加入(当時18歳)し、スタジオミュージシャンとしての活動も始めるが、1979年にPANTA & HALを脱退した。
同じ1979年には、林立夫(ドラムス)、斉藤ノヴ(パーカッション)、マイク・ダン(ベース)、松原正樹(ギター)、安藤芳彦(キーボード)、小林泉美(キーボード)とともにフュージョンバンドのPARACHUTEを結成。TOTOやエアプレイといったアメリカのAORバンドの影響下で、若手のスタジオミュージシャンが一堂に会したスーパーグループとして注目を集めた。PARACHUTEはその後、小林が脱退して井上鑑(キーボード)が加入、4枚のアルバムを残し、1982年に活動休止した。また、この時期、1980年に林がプロデュースした1stソロアルバム『STUDIO CAT』を発表している(なお、次作『2nd ALBUM』をリリースしたのは2009年)。


1980年代以降は、数々のヒット曲のレコーディングや大物シンガーのライブで活躍するようになる。寺尾聰、井上陽水、矢沢永吉、中島みゆき、松田聖子、角松敏生、松任谷由実、渡辺美里、さだまさし、CHAGE and ASKA、徳永英明、吉川晃司、今井美樹、佐藤竹善、布袋寅泰、SMAP、河村隆一、福山雅治、宇多田ヒカル、絢香、YUIなどなど、今が支えたアーティストは枚挙に暇がない。シティポップでは杏里、伊東ゆかり、国分友里恵、二名敦子、カルロス・トシキ、アイドル歌謡では河合奈保子、荻野目洋子、浅香唯などのレコードにも参加している。
フォーストコールのセッションプレイヤーとして活躍してきた多数の仕事はもちろん、日本産フュージョンの黎明期における活動もJフュージョン再評価のいま振り返っておきたいところ。有名なのは上記のPARACHUTEやソロ作だが、今は林と難波正司(キーボード)、浦田恵司(シンセサイザー)、西松一博(ボーカル)からなるAragonでも一時的に活動していた。
Aragonは、1985年に唯一のアルバム『Aragon』と同作の録音過程を記録した『The Studio Works - The Birth of Aragon』を残している。ニューエイジ志向やワールドミュージックの要素が融合したAragonの音楽は〈ポストシティポップ的な感性〉〈日本のスティーリー・ダン〉と評され、独自のサウンドは現在の耳で聴いても新鮮だ。また、斎藤のリーダーバンド、NOBU CAINEにも第二期メンバーとして1990年に参加している。
歌に寄り添う感情表現と職人的かつ多彩なプレイ――ギタリスト今剛の魅力
ギタリストとしての今の魅力は、圧倒的なテクニックとエネルギッシュな演奏だろう。正確無比なピッチや職人芸的なタイム感を備えており、強いピッキングによる個性的なカッティングはパワフルなグルーヴを生む(ちなみに、ブラックミュージックはあまり聴いていなかったとか)。
また、感情表現が豊かで、バッキングやオブリガートで歌に寄り添うプレイが魅力だ。ダイナミックなチョーキングや振れ幅の広いビブラートを駆使した演奏は、主役級のメロディックさで歌うように響く。スライドギターも操り、新鮮なフレージングが多く、表現力が非常に高いことも強みだろう。
音色に関しては、当初はコンプレッサーとオーバードライブのコンパクトエフェクターのみのシンプルな足元だったが、その後、ラックシステムに移行(現在はFractal Audio Systemsとのこと)。「工夫して新しいサウンドを作るのがおもしろかった」とインタビューで語っており、80年代以降の演奏では特徴的なコーラスの使用などが聴け、さまざまな音色を試している。そんな魅惑的な演奏や音色の探求が、スタジオ作品や井上陽水、角松敏生、宇多田ヒカルのステージにおける素晴らしいプレイにつながっていったのだ。
宇多田ヒカル、エヴァ、松田聖子、井上陽水、寺尾聰……今剛の名曲・名演7選
ここからは、今が残してきた無数の演奏のなかから、選りすぐりの名演7曲を紹介しよう。
PANTA & HAL “マラッカ”(1979年)
鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースした名盤『マラッカ』のオープニングナンバー。当初のPANTA & HALは今と佐藤宣彦のギタリスト2人体制、かつフュージョン志向でもあった。この曲ではサンバのリズムにのって、軽快なカッティングと歪んだリードギターが踊っている。中盤以降、ギター2本による熱いソロの応酬は必聴。
今剛 “AGATHA”(1980年)

1stソロアルバムに収録された代表曲。ファンキーで軽快なインストゥルメンタルで、全編にわたって伸びやかで艶やかなソロを聴かせ、多彩なプレイで最後まで聴かせ切る。〈サビ〉と呼ぶべき一度聴いたら忘れられないメロディは、今の歌心をよく表している。
寺尾聰 “ルビーの指環”(1981年)
シティポップおよび日本のAORの大名曲だが、スタジオミュージシャンとしての今の代名詞と呼ぶべき名演でもある。ギターソロこそないが、イントロの哀愁漂うプレイや寺尾の歌と掛け合うリードギター、グルーヴィなリズムギターのコンビネーションを聴けば、この曲が今のギターなくして成立しないことがよくわかるはず。洗練された演奏でありつつ、歪んだ音色に粗野な響きもある点がまさにダンディズム。
松田聖子 “夏の扉”(1981年)
松田聖子の曲での今のプレイといえば、爽快に駆け抜けるこの曲か“チェリーブラッサム”だろう。ジェイ・グレイドン譲りのディストーションサウンドは、歪んでいながらも抜けがよくて爽やか。印象的な音色で伸びやかに歌うギターソロは間奏に出てくるが、特に2回目のソロは難易度が高く、歌番組のバックバンドが演奏を失敗したり編曲を変えて省略されたりした、という逸話が残る。
井上陽水 “カミナリと風”(1994年)
今が井上陽水のバンドメンバーを長く務めていることは有名だ。この曲はドラマ「夢みる頃を過ぎても」の挿入歌で、井上陽水初の両A面シングルとして“移動電話”とともにリリースされた。ここでは今がアコースティックギターも弾いており、6/8拍子の切ないロッカバラードを彩っている。冒頭からエレキギターが影の主役としてバンドの演奏全体を支えているが、歌やゲイリー・バーナクルのテナーサックスと掛け合う主張しすぎないオブリガートの見事さに真骨頂を感じる。
宇多田ヒカル “Automatic”(1998年)
言わずと知れた90年代末を象徴するJ-POPの大ヒット曲も、今の名演のひとつ。絶妙なタイミングで差し込まれるオブリガートやカッティングはさりげないが、R&Bのグルーヴを巧みに生んでいる。後半ではディストーションがかけられたソロがスキャットと言葉を交わすように掛け合いを聴かせ、今らしいプレイを堪能できる。今はその後も宇多田の録音やライブをギターで支えた。
鷺巣詩郎 “Early Morning from Tokyo~EM20_alterna01~EM20_alterna03~EM20_alterna04(おまけメドレー)”(2017年)
今は鷺巣詩郎とも頻繁に仕事をしており、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズや「彼氏彼女の事情」といった庵野秀明監督アニメの劇伴にも参加している。ライブアルバム『シン・ゴジラ対エヴァンゲリオン交響楽』の一幕であるこの演奏は、“EM20_alterna01”から今のヘビーなカッティングや饒舌なプレイでギターが暴れており、今が主役を張った名演。ちなみに、この公演をきっかけに始まったのが山木秀夫、高橋洋子らとのバンド、HERMITだ。また、アニメ関連では名作「AKIRA」のサウンドトラックへの参加も知られている。
参考記事
ギタリスト 今 剛 氏が語る OB.1 & blueSky レビュー https://www.hotone.jp/blog/1114
今剛、伝説の1stソロ作『STUDIO CAT』(80年)を語る https://www.rittor-music.co.jp/pickup/detail/13935/






