COLUMN

角松敏生が吹き込む、35年目の『SEA BREEZE』 ~デビュー35周年企画第1弾は名立たる演奏陣との初作をリテイク&リミックス

角松敏生が吹き込む、35年目の『SEA BREEZE』 ~デビュー35周年企画第1弾は名立たる演奏陣との初作をリテイク&リミックス

角松敏生が吹き込んだ、35年目の『SEA BREEZE』

 35年は若者を成熟した大人に変えるには十分な歳月だし、35年前の話なんてとんでもない昔話ではあるのだろうが……だとしたら、ここに広がる魅力的な青さは何だ。今年でデビュー35周年を迎える角松敏生のアニヴァーサリー企画第1弾となったのは『SEA BREEZE 2016』。彼自身の記念すべきデビュー・アルバムのリテイク&リミックスという試みである。

角松敏生 SEA BREEZE 2016 ARIOLA JAPAN(2016)

※試聴はこちら

 角松がデビューしたのは81年6月21日。シングル“YOKOHAMA Twilight Time”とアルバム『SEA BREEZE』を同時リリースするという形だった。日付的には、大滝詠一の『A LONG VACATION』が世に出たちょうど3か月後。70年代のそれとはまた異なる若者文化の盛り上がりにシンクロして、洗練された都会志向の音楽が〈シティー・ポップ〉というブランディングで広まっていた時代だ。そこに先鞭を付けた大滝や山下達郎が最前線で活躍していた時代に、角松がそれに続く存在として期待されたのも想像に難くない。小学生の頃にはっぴいえんどを聴き、そこからシュガー・ベイブサディスティックスなどをリアルタイムで追ってきたという角松にとっても、先達の感覚は自然に吸収していたものだろう。ただ、一方で、ディスコで最先端の流行にも触れていた弱冠21歳ならではの、ヘヴィーなレコード・リスナーとしての知識や感覚には先人たちともまた違うものがあったはずだ。

 そもそも大学時代に友人たちとのバンドで制作したデモ音源が認められてデビューに至った角松だったが、本人によると当時は〈歌もギター演奏もプロには程遠い〉という自覚が強かったそうで、特にデビュー作での歌唱はとても満足できるものではなかったという。また、詞曲はすべて本人の作品が採用されたものの、駆け出しの頃だけにプロデュースや編曲への関与は叶わなかった。そんなホロ苦いデビュー作に対し、〈もし当時の自分が思い通りに歌えたら……〉という35年越しのリトライを果たしたのが、今回の『SEA BREEZE 2016』というわけだ。

 今作では当時のマルチからバックトラックをそのまま採用し、自身のリード・ヴォーカル(やコーラスなど)を歌い直し、本人とエンジニアの内沼映二がリミックスを担当。村上“ポンタ”秀一(ドラムス)や斉藤ノブ(パーカッション)、今剛(ギター)、井上鑑(シンセサイザー)など名立たるプレイヤー陣の演奏はモダンな質感を帯びながらも往時の空気を届けてくれる。角松自身の意図が汲み取られなかった部分も含め、時代のノリや現場の昂揚、試行錯誤から生まれたクリエイティヴな独自性が、いままた新鮮に響くのだからおもしろい。

 そして何より歌である。初回限定盤はリマスターされた『SEA BREEZE』との2枚組仕様なのでオリジナルとの聴き比べも容易だが、本人が〈当時は力量不足だった〉と述懐するのも頷けるくらい、いまの自信に溢れた歌声は素晴らしく、初々しさと引き替えに得た技量や声の艶によって2016年のほうが若々しく聴こえてくるのも凄い。冒頭の“Dancing Shower”からしてその差は歴然だ。これはEW&Fや山下達郎の諸曲を連想する人もいそうなディスコ調ということで、現代のリスナーにこそフックになりそうな明快さが楽しい。この時点では次作『WEEKEND FLY TO THE SUN』(82年)にトム・トム84フェニックス・ホーンズを迎えることなど想像していなかっただろう。他にも時代の要請に応えたAORタッチの曲では、清水信之の編曲した昼下がりムードの“Elena”、シルキーな編曲を担う後藤次利のベースがすこぶるグルーヴィーな“Summer Babe”(最後に挿入されるサンバも粋!)も出色だが、当時のトレンドだった意匠が逞しい歌唱と新たな遊び心も加えて時代を越えてくる姿は圧巻だ。

 また、ビーチ・ボーイズ風でもGS的でもある展開にEPOが声を重ねた“Surf Break”や、松原正樹(ギター)を筆頭に林立夫(ドラムス)らPARACHUTEの面々がバックを固めたダンディーな“City Nights”は作中ではやや異色に思える曲ながら、2016年版は歌の力で新たな説得力を獲得。一方でシングル曲“YOKOHAMA Twilight Time”にはダイナミックな角松節の原石を堪能できるし、デビューのきっかけになったバラード“Still I'm In Love With You”やシンプルな“Wave”など、何度かリメイクしている名曲もオリジナルの演奏を活かして再解釈。そこで見せ場を作る鈴木茂(ギター)や後藤のように、角松がアマチュア時代から憧れてきた面々とフレッシュに〈再会〉する姿からは、表面的なカテゴライズを超えた部分で、いわゆるジャパニーズ・ポップスの正統後継者としての側面も期せずして浮かび上がってくるのではないだろうか。

 同じ写真を用いたジャケも当時の本人のイメージに合わせて色味を修正されているが、そこに吹く風の快さは変わらない。81年の美しい〈至らなさ〉も2016年の成熟した若さも、35周年という節目を爽快に彩る最初の楽しみとなることだろう。

タグ
AOR
40周年 プレイリスト
pagetop