Last Note.のニュー・アルバム『ミカグラ学園組曲』は、ボカロ・カルチャーの広がりを改めて知らしめる作品である。同名の楽曲シリーズがスタートしたのは2012年。“セツナトリップ”“恋愛勇者”などのエモーショナルなバンド・サウンドを基調としたボカロ曲によって、ニコニコ動画を中心に高い支持を得ていたLast Note.のふたりが、「自分たちのオリジナルのキャラクターでPVを作りたい」(Last Note.)というコンセプトのもと、最初の楽曲“放課後ストライド”を投稿したのがきっかけだ。

 「それまでは(ボーカロイドの)GUMIや(初音)ミクをPVに登場させていたんですけど、どうしてもボカロのキャラのイメージが強くなってしまう。それなら、オリジナルのキャラクターでPVを作れば、まっさらな状態で楽曲に入ってきてくれるんじゃないかと思ったんですよね。まず〈舞台は文系の部活しかない学園〉〈異能バトルの要素を入れる〉という設定を作るところから始めたんですけど、制作を進めているうちに作り込みたくなって、キャラクターもどんどん増えて。もともと女の子のキャラクターが好きだし、〈どんなキャラにしようかな〉って考えているときがいちばん楽しいんですよね(笑)」(Last Note.)。

Last Note. 『ミカグラ学園組曲』 ソニー(2015)

 キャラクターが揃い、ストーリーが広がっていくたびに楽曲も増加。さらにLast Note.みずから〈ミカグラ学園〉をノベライズしたことで(“放課後ストライド”のPVをニコニコ動画にアップした当日に、複数の出版社からオファーが届いたという)、その世界観はさらに深みを増した。

 「もともと文章を書くのが好きだし、せっかく声をかけてもらったんだから、小説にも挑戦してみようかな、と。書いている途中は大変だったんですけど、途中で〈キャラクターが勝手に動き出す〉という状態も経験できたし、僕自身、〈ミカグラ学園〉の世界が広がった手応えがあって」(Last Note.)。

 「主人公の一宮エルナと他のキャラクターの絡みのなかで曲のイメージが生まれることが多いので、小説によってキャラクターのことがさらに深く掘り下げられたのは大きいですね。例えば〈九頭竜京摩って怖い人かと思ってたけど、そうでもないな〉って気付いたことで、アレンジのテイストが変わってきたり」(T)。

 その結果、『ミカグラ学園組曲』の音楽性は飛躍的に広がっていった。従来はギター・サウンドを軸にしたロック・ナンバーを得意としていた彼らだが、和テイストのメロディーが印象的なミディアム“花吹雪リフレクト”、4つ打ちのリズムとチップ・チューン風のピコピコ・サウンドを融合させた“不条理ルーレット”など、新機軸というべき楽曲が加わっているのだ。

 「“花吹雪リフレクト”は湊川(貞松)先輩というキャラのオットリした性格から出来た曲ですね(笑)。〈ミカグラ学園〉の世界観を意識しながらLast Note.らしい曲を作る、っていうのはけっこう大変なんですけどね」(T)。

 「でも〈ミカグラ学園〉じゃないと作れなかった曲は確実にあって。そういう意味では、Last Note.の音楽にも良い影響があると思います」(Last Note.)。

 2013年7月にコミック版の連載がスタート。さらに2014年12月にはTVアニメ化も発表されるなど、本格的なメディアミックスへと繋がった『ミカグラ学園組曲』。PVに登場させるオリジナルのキャラを作ることから始まったこのプロジェクトは、ボカロ発のエンターテインメントしてさらに大きな展開を見せることになりそうだ。

 「まさかここまで話が大きくなるとは思ってなかったですけどね(笑)。ユーザーの方から〈このキャラクターが好き〉という声をもらったり、新しいキャラクターを考えてイラストを投稿してくれる人もいたりして、いろんな楽しみ方をしてくれてるのも嬉しくて。次の作品のアイデアもあるんですけど、もう少し〈ミカグラ学園〉の世界を広げてみたいなと思っています」(Last Note.)。

 

Last Note.
Last Note.(作詞/作曲/Twitterやブロマガ諸々)とLast Note. T(作曲/編曲)から成る2人組。ニコニコ動画への楽曲投稿により活動を開始し、現在までにアップロードした全17曲のボーカロイド・ナンバーがもれなく殿堂入りを果たしている。2012年末、“放課後ストライド”の発表を機にひとつの世界観を共有する楽曲シリーズ〈ミカグラ学園組曲〉を始動。音楽を主体としながらも、小説やコミックに続いてTVアニメ化も決定するなど、メディアミックスが進んでいる。その間に多くのコンピにも参加しており、2013年には初の単独一般流通作品『セツナコード』を上梓。このたび先述のシリーズをまとめたニュー・アルバム『ミカグラ学園組曲』(ソニー)をリリース。