ビリー・ホリデイの生誕100周年を祝し、当代きっての女性ジャズ歌手がトリビュート盤をリリースした。彼女によるレディ・デイのカヴァーというと96年の“Strange Fruit”を思い出すが、今回の再演版はそこでの暗さに妖艶さと慈悲深さが加わっていて、スケールの大きい表現が魅力的。で、そうした傾向はどの曲においても確認でき、成熟した歌唱に圧倒される。プロデュースはニック・ケイヴ仕事で有名なニック・ローネイ。ゲストのTボーン・バーネットやニック・ジナー(ヤー・ヤー・ヤーズ)らが紡ぐエモーショナルな演奏によって、主役の蒼い囁きが生々しく立体的に聴こえてくる点も見逃せない。白眉はヴァン・ダイク・パークスが弦アレンジを手掛けた、まろやかな“You Go To My Head”。
Nu Jazz、R&B、Hip Hopとは一線を引くかのようなそのスタンスに、俗世との関わりをたったかのような禁欲を感じるここ数年のカサンドラだ。数年前のブルーノート東京のライヴは素晴らしい内容だったと聞いて、この新譜が楽しみだった。変わらぬカサンドラ・トーンが歌い込むのはビリー・ホリデイ。弦も加えたアンサンブルや、バンドと様々に“レディ・デイ”を歌い上げる。かつてのクレイグ・ストリートの“ストレンジ・フルーツ”とは、だいぶ距離を置く内容だが、ジャズ、ブルース歌手の彼女を満喫できる。