混沌とした被害者意識を抜け出して、自身の思い描く不確かな希望へ──
〈第3変態期〉に突入したバンドの2年半を封じた12の精鋭たち

「いまの僕は〈第3変態期〉だと思うんです。今回のアルバムはメジャーに移籍してからの2年半を網羅しているんですけれども、音だけじゃなくて、その間に生まれた自分の音楽への気持ちの変化もすべて含まれた作品になったと思います」(松本明人、ヴォーカル/ギター)。

 ソングライターの松本を中心に、人間が抱く混沌とした感情を、ときに激しい、ときに鬱々としたギター・サウンドで紡いできた真空ホロウ。セルフ・タイトルが冠された待望の初フル作『真空ホロウ』は、バンドと共に歩いてきた代表曲と新曲で構成。「全部がリード曲で即戦力」(松本)な12曲が収録されている。

真空ホロウ 真空ホロウ エピック(2015)

 「曲順や曲数はかなり悩みましたね。自分たちとしては入れたいけど、その1曲があることでアルバム一枚がつまらなくなってしまわないように、〈人が聴いてどう思うか?〉ということを大事に考えました」(村田智史、ベース)。

 スリーピースのバンド・アンサンブルを基盤としながら、本作では新機軸も導入。彼らを形成するファクターのひとつである昭和歌謡のテイストと、閉ざされた現代社会のひとコマを切り取った歌詞の取り合わせが言わば〈平成歌謡〉な“Tokyo Blue bug”や、3人が共通してフェイヴァリットに挙げるトゥールをイメージしたという深淵なミディアム“こどものくに”、また、初めてプロデューサーを起用した“MAGIC”では4つ打ちが採用されていたりと、随所で驚かされつつも、どことなく濁った、半透明な音像が心地良い。

 

 「昔はライヴ中にじっと聴いている人が多かったんですけど、最近は〈もっと楽しみたい〉という雰囲気を感じるというか、身体を動かす人が多くなってきて。じゃあどういうビートにすれば気持ちいいのかなっていうのは、かなり試行錯誤してますね」(大貫朋也、ドラムス)。 

 そうした精鋭のなかから彼らがリード曲に選んだのは“回想列車”。かつてアンプラグド・ヴァージョンとして発表したものを、温かみのあるバンド・サウンドにリアレンジしている。

 「それまでの僕は、少なからず被害者意識みたいなものがあって、誰かから言葉を投げ付けられて、そこで生まれた傷とか疑念とか劣等感から曲を書くことが多かったんです。ただ、“回想列車”に関しては、言葉を投げてくるその人の感情そのものをどうにか汲み取れないかと思って書いた曲で。ライヴでもエグいぐらいに良い反応が返ってくるんですけども、ちょっと失礼な話ではあるんですが(苦笑)、そういう反応に僕はちょっと恐怖心があるし、信頼し切れない自分がいて。でもきっと、それを超えたときに、僕が思い描いているなにかしらの希望というものに一歩近付くんだろうなと……そういう曲が作れたらいいなと思って、いまは日々リハビリをしている感じです(笑)」(松本)。