舞台と映画のいいとこ取りで観られる〈ゲキ × シネ〉「蒼の乱」

 劇団☆新感線は、1公演で10万人以上の観客を動員する日本有数の劇団だ。ここ数年は、東京・大阪と50回以上の公演スケジュールが組まれているのにも拘らず、チケットは即日完売である。

 何がそんなに人気なのか。演目は、時代活劇「いのうえ歌舞伎」や生バンドを入れたミュージカル「R」シリーズなど数タイプあるが、一貫しているのはエンターテイメント性だろう。

 まず物語に小難しさがない。喜劇だ悲劇だと方向性はあっても、1本の中には喜怒哀楽すべてが詰まっている。賑やかな「R」シリーズは、さながら音楽ライヴ、観客も最後には総立ちになるし、重厚な物語を紡ぐ「いのうえ歌舞伎」シリーズであっても、手に汗握るチャンバラがあり、しょうもないギャグまでぶっこんでくれるサービス精神に溢れている。

 演劇を観る人観ない人。世の中には2種類の人間がいるが、観ない人の9割は食わず嫌いなのではないだろうか。そんな人ほど新感線の舞台を薦めたい。ダイナミックな物語に加え、歌にダンスに立ち回り、舞台の上で今まさにそれらが繰り広げられていることに熱くならない人などいないと思う。

 演劇好きとしては「映画を観に行く気軽さでとにかく1回、行ってみればいいのに」と言いたいところだが、それが叶わないのが生の舞台でもある。

 しかし、新感線には秘密兵器がある。舞台を映画館のスクリーンに載せる〈ゲキ×シネ〉だ。舞台を映像で見ても、同じ興奮は味わえない。けれども生の舞台ではよく見えなかった役者の表情がつぶさに映しだされている。作りものではない汗が流れる様を見られる。ある部分では、舞台を超える良さもある。だから舞台を観た人も楽しめるし、舞台を観ていない人は、舞台のニュアンスを味見しながら、他の映画と同じ感覚でストーリーに酔えばいい。

 新感線が、舞台と映画のいいとこ取りを目指し作り上げた〈ゲキ × シネ〉。2015年、結成35周年を迎える新感線が繰り出してきたのは、劇団とも馴染みの深い女優・天海祐希を主演に据えた2作品「蒼の乱」と「阿修羅城の瞳」だ。