どこかで見た、というより、あ、あの俳優、誰々によく似てる!と笑ったり、音大生が住んでいるマンションがびっくりするほど立派だったり、豪華なAV機器があったり、消火栓の位置が高かったり、寝間着に靴下でベッドにはいるのか?と驚いたり。むきあった男女がキッチンでもやしのひげ根をとっているのをどうみるか。マエストロのまわりに男子学生が群れているところに「男の友情」っぽいものを感じるか。ごくあたりまえにながす? 異文化の露呈する瞬間をとらえる?

 「クラシック音楽」を学ぶ若者がヨーロッパから遠いアジアで、特に意識せずとも楽器を弾き、音楽大学に通う。そんな様子が恋愛とからんだかたちでTVドラマとなり、多くの人たちに楽しまれる。

 ポップ・ミュージックがあり伝統的な芸能がある。クラシックだって違和感なく音楽としてあり、真摯にとりくんでいる。この「近さ」「おなじさ」が、さっきのちょっとした細部とあいまって、おもしろさの、楽しめるものの土台として、ある。

 モーツァルトをちょっと口をあけながら弾く、韓国の〈のだめ=ネイル〉がいて、その音楽への没入を、わたし・わたしたちは「知って」いる。あ、そうだ、音楽にはこんなふうに「はいる」ことがある、とおもう。もともと異文化だったはずのクラシックをこんなふうに弾く、作曲家と 「仲良くなれる」。この共通の文化、共通の感性が、『ネイル・カンタービレ』を成りたたせる土台だ。

 「演奏に何もかも放り込むのです/その後は—いつもの幸せなベイビーに戻ればいい。ピアノの前では何も恐れなくていいのです」。

 好き嫌いではなく、文化における云々ではなく、日々いろいろなことがありいろいろなことを感じる個人が、外部にあるひとつの「作品」をとおして、何かを得、何かを発する、それがクラシック音楽であり、それをわたし・わたしたちはすでに持っているということを、このドラマをとおして気づくことだってできる。

 

チュウォン,シム・ウンギョン のだめカンタービレ~ネイル カンタービレ BOX1 エスピーオー/フジテレビ(2015)

チュウォン,シム・ウンギョン のだめカンタービレ~ネイル カンタービレ BOX2 エスピーオー/フジテレビ(2015)

原作:二ノ宮知子「のだめカンタービレ」(講談社「KC Kiss」所収)
演出:ハン・サンウ 脚本:シン・ジェウォン
音楽:イ・ジョンジン
出演:チュウォンシム・ウンギョン