アコースティック・ギターを片手に人間の多層的な感情を描き出すシンガー・ソングライターから届いた、7篇の誠実な〈ライフソング〉
見田村千晴と言えば、凛として美しく、パワフルで説得力溢れる歌声。そして20代女性のリアルな心情のもとで描かれる、〈ラヴソング〉であり〈ライフソング〉でもある、物語性に富んだ歌詞の世界。メジャー・デビュー作『ビギナーズ・ラック』で発揮された彼女の個性は、派手さはなくとも心あるリスナーに深く届く誠実なものだった。あれから半年──新たなミニ・アルバム『寝そべった夕暮れを切り裂いてバスはゆく』のリリースにあたり、彼女は何を思うのか。
「前作の“悲しくなることばかりだ”を聴いて、〈現代社会へのメッセージですね〉と言ってもらうことがあって。それはそれでいいんですけど、自分はいつも半径1メートル以内で見えることしか歌っていないので、ちょっとした違和感はありました。それもあって、今回はより自分の内面に向かった曲が多いかもしれないです」。
人生の応援歌的なイメージが強かった前回に対して、今作は繊細な気持ちの揺れを描くラヴソングが多く感じられるのも、そうした思いの表れだろう。MVが制作された“もう一度会ってはくれませんか”はその代表だ。
「大切な人がいなくなってしまったときに、〈つらくて大変なの〉って叫ぶことはできるけど、実際にはそんなエネルギーも湧かないだろうし、〈無の状態〉をどうやって言葉にするかはひとつのテーマでした。ただ、曲としては恋愛のことですけど、実は自分の家族のことだったりもするんですね。例えば亡くなったお祖父ちゃんやお祖母ちゃんのことを思い出して、〈どういう恋愛をしていたんだろう?〉って考えるんですけど、いまとなってはもう知ることはできないじゃないですか。自分の親の恋愛も、詳しいことは全然知らないし、いつ聞けなくなるかもわからない。たいていのことはリカヴァーできるけど、どうしても取り戻せないのは〈時間〉だから、時間の残酷さについて書こうと思った曲なんです」。
同様のテーマは“砂のお城”や“だいたい思ったとおり”などでも、切なすぎるほど鮮やかに描かれる。ラヴソングやライフソングの形を借りて、過去と現在、愛と孤独、共感と反抗など、多層的な感情を描き出すのが彼女は本当に上手い。見田村の歌に心動かされる人は、そこに反応してしまうのではないか。
「複雑に出来てますよね、人って。ひとつの感情じゃ伝わらないことはいっぱいあるし、それを全部拾って言葉にしたい気持ちはすごくあります。それで自分も安心するし、自分と同じような人が〈そうだよね〉と思って、ちょっと安心してくれたら嬉しいです。このアルバムは、一瞬で移り変わる見落としがちな心の揺れとか、感情の隙間を切り取った7曲だと思います」。
アコースティック・ギターと歌を真ん中に、最小限のリズムと弦楽器で構成されたサウンドは、前作に続いてプロデュースを務める松岡モトキの優れた手腕によるもの。理解ある仲間たちと共に、見田村千晴の世界は拡大され続けている。
「ヒップホップとフォークを混ぜたような“もう一度会ってはくれませんか”とか、コーラスを厚くしてみた“砂のお城”とか。新しい挑戦をいくつかしているので、今後はもっとやれることを広げていきたいなと思います。音楽的にも歌詞的にも、常識に縛られずに進んでいきたいですね」。
▼松岡モトキがプロデュース/アレンジで関わった作品
左から、蜜の2013年作『キス アンド クライ』(ユニバーサル)、中村舞子の2014年のカヴァー集『春色COVERS』(ポニーキャニオン)、黒木渚の2014年作『標本箱』(ラストラム)
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ここでは見田村千晴の作品を紹介。タワレコ主催のオーディション企画〈Knockin'on TOWER's Door〉で準グランプリを獲得した彼女は、2011年3月に初音源となるシングル“始まり”(Knock up!)をリリースし、約3か月後にはフル作『いつかのように』(同)を発表。音数を絞ったバンド・アレンジで透き通った歌声を引き立たせるというスタイルは、この時点から現在まで踏襲されています。そして、2012年に中島みゆき“ヘッドライト・テールライト”のカヴァーを含む2作目『I handle my handle』(同)を上梓すると、2013年のミニ・アルバム『ビギナーズ・ラック』(ビクター)でメジャー・デビュー。アコースティックなサウンドの中心に凛と立つパワフルな歌と感情の機微をグルーヴィーに届ける言葉で、見田村流の〈ニュー・フォーク〉を提示しました。 *編集部
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