MONOBRIGHT桃野陽介golfSLEEPERS FILMで活動する関根卓史が始動させた新ユニット=Hocoriが、ファースト・ミニ・アルバム『Hocori』をリリース。片やひねくれポップ・バンド、片や〈エレクトリックハレーショングループ〉を自称するユニットという、毛色の異なるバックボーンを持つふたり。彼らが生み出したのは、80年代初頭のダンス・ミュージックを想起させるプリミティヴなドラム・マシンやシンセのサウンドと桃野が紡ぐメロディーと歌の組み合わせが、都会的な夜の香りと少しの懐かしさ、そして瑞々しさを同時に感じさせるポップスだ。

Hocori Hocori Conbini(2015)

※“God Vibration”のiTunesはこちら

 

想像していなかったものが出来上がる

桃野「バンドで活動していくなかで、きっかけがあれば打ち込みのような違うフィールドのサウンドで歌ってみたいな、という思いがあったんです。関根さんと知り会って話をしていくうちに〈一緒に曲を作ってみようか〉ってなって」

そうしてスタートしたHocoriのサウンドの方向性は、ふたりで作業を重ねていくうちに、徐々に固まっていく。

桃野「関根さんとは最近のアーティストだとクローメオという共通点を見つけたりして。そのあたりから〈ちょっとオトナな〉とか〈ディスコ〉みたいなワードが出てきて、そこにフォーカスしたサウンドにしようか、と」

関根「いろいろな要素を入れたいけど、なにかひとつだけには寄せたくなかったんです。イメージだけを共有するというか。例えば桃野くんの好きなトッド・ラングレンは、僕もブルー・アイド・ソウル的な面ですごく好きだったんで、Hocoriでもメロディーの扱い方とかコード感を意識したり」

【参考動画】クローメオの2014年作『White Women』収録曲“Jealous (I Ain't With It)”

 

【参考動画】トッド・ラングレンの72年のシングル“Hello It's Me”

 

桃野「golfのサウンドの肌触りが好きだったんです。僕にはどうしても作れないような音で。自分がロックというものにこだわっているからなのか、デモで打ち込みっぽいものを作ってもそうはならなくて。音像を操るような感じがうらやましいな、と思いました」

関根「僕はリズム・マシンの音がガッツリ出ているような、80年代の頭くらいのクラシックなダンス・ミュージックも好きで、影響を受けてます。今回、僕のなかでBPMは119、リズム・マシンはほぼTR-808とDMXのクラップ、バッキングのシンセはオーバーハイムとプロフェット、みたいなやんわりとした決め事を設けていて。その方が、Hocoriのサウンドがひとつの作品としてうまくまとまるかな、と思って決め打ちしました。BPMも最初はもっとバラけてたけど、ここが気持ちいいな、というところでまとめて。曲調はいろいろあるけど、サウンドとBPMで調和が取れていると思います。ちなみにマスタリングの前はインナー・シティーをよく聴いてました」

【参考動画】インナー・シティーの88年のシングル“Good Life”

 

楽曲制作は、「ひとつは僕からトラックを渡して、そこに桃野くんがフィードバックして、また僕が戻して、というのを繰り返して形にしていく。もうひとつは桃野くんがもともと作っていたデモ音源をもらって、僕が〈面白い〉と思った部分を極端に取り上げて元の曲をぶっ壊す、みたいな」(関根)という、ふたつの方法が取られたという。

関根「Hocoriの曲にはお互いの持っている要素が必ず入るように、と強く思っていました。桃野くんだけのものにも、自分だけのものにもしないように。自分たちの手癖で作っても一緒にやる意味がないから。例えば“Tenkeiteki Na Smoothie”は桃野くんが作ったデモがあった曲で、ぜんぜん違う展開だったんですけど、僕が〈面白いな〉と思った部分をサビにしてまるっきり作り変えました」

桃野「“Tenkeiteki Na Smoothie”は一番〈壊され〉ました。僕は〈Aメロ/Bメロ/サビ〉みないたベタな曲を作るクセがあって、関根さんにはそこを気にせずアレンジしてほしいなと思って渡したら、アレンジどころか元の曲のAメロしか残らなかった(笑)。でも、そこが面白かったんです。さらにトム・トム・クラブのようなパーカッシヴな感じを採り入れたり、自分とは違う目線で捉えてもらえて、元の曲の跡形もないアレンジが帰ってきたりするのもHocoriのいいところですね」

関根「逆に、僕の作ったトラックに桃野くんがメロディーを乗せるという作り方の曲は、僕には思いつかないようなものが無理やりぶっ込まれる。その違和感が面白かったです。想像していなかったものが出来上がるから」

桃野「そのやりとりが面白かったです。〈こう歌ってみたけど、どう変えてくるのかな?〉みたいな部分が」

関根「そうやって作っていって、いろいろなサウンドの要素をちりばめているけど、何にも似ていないものができたな、と思いました」

『Hocori』に収められているナンバーは、男女の恋愛(と性愛)をテーマにしたものがほとんど。golfの右田惠美による清涼感溢れる女性ヴォーカルと桃野の掛け合いも、楽曲に広がりを与えている。

桃野「テーマが恋愛なのは、MONOBRIGHTとは真逆なことをやりたいという思いが強かったせいかな。MONOBRIGHTってけっこう〈少年感〉みたいなのがあるけど、年齢と共に私生活とのギャップも出てきて(笑)。年相応の世界観の歌を歌ってみたくて、自分の日常にある題材はやっぱり恋愛かなと」

 

 

楽しい音楽だから、もっと楽しくしたい

桃野の歌い方やメロディーについてもさまざまなチャンレジが行われ、歌謡曲というワードが出るほどポピュラリティーを意識しつつ、サウンドと一体になったときに生み出されるオリジナリティーを重視したという。

桃野「やさしく、あまり熱を帯びすぎないようにという気持ちもあったけど、〈ソウルフルに歌いたい〉という意識があって、あまり聴いてこなかったワム!を聴いてみたりしました。テーマは恋愛だし、もっとプレイボーイにならなきゃって(笑)。80sもののヴォーカルのなかでも、関根さんのサウンドが出してくるいい空気感を壊すような歌を意識したというか」

【参考動画】ワム!の84年のシングル“Wake Me Up Before You Go-Go”

 

関根「ヴォーカルは、レコーディングの時も一緒にディレクションしながらやったもんね。いろいろな歌い方を試して。そのあたりにMONOBRIGHTと違うトライがあったんじゃないかな」

桃野「関根さんのおかげもあって曲に合わせた歌い方ができたかな、と。あと〈tofubeatsにおける森高千里になりたい〉という思いが頭をよぎったりしましたね。歌謡目線での自分のヴォーカルと言うか。もともと歌謡曲が好きっていうのもあるんですけど」

関根「テクノ歌謡とかディープ・ハウス歌謡みたいな?」

桃野福富幸宏がプロデュースした細川ふみえの“スキスキスー”とか、トラックだけ聴くとものすごくハイセンスじゃないですか。それを小西康陽さんが手掛けた歌メロと歌詞がちゃんとぶっ壊しているところが好きで……そんなイメージもありました」

【参考動画】森高千里をフィーチャーしたtofubeatsの2013年のシングル“Don't Stop The Music”

 

【参考動画】細川ふみえの92年のシングル“スキスキスー”

 

関根「飾られるようなものじゃなく、いい意味で消費されるような音楽、というイメージですね」

桃野「〈アートでございます〉みたいな音楽やっているミュージシャンも、代表的な人たちはやっぱりポップじゃないですか。そういうポップな要素は重要だと思って」

個性派アパレル・ブランドの〈ユキヒーロープロレス〉とコラボレートし、同ブランドのポップアップショップ限定盤『Tag』をリリースするなど、Hocoriを中心とする〈楽しさ〉の渦は大きなうねりを見せている。

桃野「ユキヒーロープロレスとのコラボは、デザイナーの手嶋幸弘さんに音を気に入ってもらって実現したものです。もともと、楽しい音楽だから楽しいクリエイターの方とコラボしてもっと楽しくできたらな、と考えていたので。幸弘さんも違和感の人というか、どんなオシャレなものにもプロレスのマスクをぶっ込んだりするじゃないですか。そんな面白さとHocoriの音楽がハマったんだと思います」

関根「コラボ盤の『Tag』に収録している〈Tag Mix〉は、相手がユキヒーロープロレスさんなんで、グルーヴの強さを押し出して音像をファットにしました。マスタリングも『Hocori』とは別で、マスクを被っているマッチョなイメージに揃えた感じ」

 

ユニットとして今後の活動はもちろん、桃野と関根それぞれの動きにも注目していく必要がありそうだ。

桃野「Hocoriをやっていくなかでお互いに吸収したものがあると思うので、それをMONOBRIGHTに持ち帰ったとき、その気配が絶対入ってくるな、と。その結果、全部がもっと面白くなって……当たり前のことですけど、音楽がもっと楽しめたらいいな」。

 

 

★Hocoriの〈FUJI ROCK FESTIVAL '15〉出演が決定! 初日の7月24日(金)、フジロックでもっとも空に近いステージ〈DAY DREAMING '15〉で13:00からパフォーマンスを披露!!
http://www.fujirockfestival.com/news/pickup02.html