少しダークでメランコリック…一度聴いたら忘れられない愛らしい歌声

 ジェシカ・プラットは、アコースティック・ギター(主にガット・ギター)を爪弾きながら自作曲を歌うサンフランシスコ出身のシンガー・ソングライター。その弾き語りスタイル自体はありきたりだが、もし彼女が路上で歌っていたとしたら、その前を素通りすることはできないだろう。というのも、彼女の愛らしい歌声はジョアンナ・ニューサムブロッサム・ディアリーを掛け合わせたような感じで、一度聴いたら忘れられない。しかも彼女が紡ぎ出す音世界は、どこかしら白昼夢のようでもある。ジェシカはヴァン・ダイク・パークスの名盤『ソング・サイクル』が好きとのことだが、以下の発言は彼女自身の音楽にも当てはまる。

 「あのアルバムを初めて聴いたのは20歳くらいの時で、惹かれた理由はたくさんあるけど、甘くて風変りで夢見心地な要素があるから。ヴァン・ダイク・パークスはエキセントリックで、浮世離れした人のような歌声の持ち主。そんな人が愉快で機知に富んだ歌詞を歌っているのだから、すぐに好きになった。私が自分も作ってみたいと夢想している音楽とよく似ているし」

JESSICA PRATT On Your Own Love Again Drag City/コアポート(2015)

 『オン・ユア・オウン・ラヴ・アゲイン』は、基本的にはジェシカ一人によって作られている。しかも多重録音の手法が用いられているものの、ほぼ歌とギターのみといったシンプルな作りだ。

 「それほど深く考えて決断したわけじゃないけど、私は自分の音楽がどんな風に聞こえて欲しいのかということが分かっていたし、一人で音楽を作ることに心地良さを感じていたので、必然的にこうなった。私は未だにスタジオの中に自分以外の人がいると、リラックスできないの」

 音作りはシンプルだが、ハーモニーは複雑である。ジョニ・ミッチェルニック・ドレイクデヴィッド・クロスビーペンタングルなどを連想させる不思議なハーモニーが、大きな聴きどころだ。

 「あなたが名前を挙げてくれた人たちはすべて私に強い影響を及ぼしている。私にとってハーモニーは、常に聴きたいと求めているものであり、自分で歌いたいものでもある。子供の頃はカーター・ファミリーやアフリカのコーラスも含めて、本当に色々な音楽を聴いていた。私は、自分の音楽はこれまで聴いてきたすべてのものから成り立っていると思う」

 ジェシカの音楽は陰鬱ではないが、ほの暗く、美しい憂愁を含んでいる。そして、もの淋しさが後を引く。

 「私が好んで聴く音楽、しかも深いところで心が通じると感じる音楽は、必ずと言っていいほど少しダークなものを含んでいる。私の音楽からそれを汲み取ってくれるなんて、すごく嬉しいわ」