トラディショナル・ミュージックの進化系
今年も盛況のうちに幕を閉じた富山県南砺市のワールドミュージック・フェス〈スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド〉。世界各国のアーティストが出演するなか、マリの首都バマコからやってきたのがベカオ・カンテットだ。バンドの中心人物はウム・サンガレのバックでも務めていたイブラヒマ・サー(ジェンベ)。そして、フランスはリヨンの出身で、もともとはイブラヒマの生徒だったエメリック・クロールだ。
「彼から打楽器やマリの伝統音楽に関するいろんなことを学んでいるうちに、自分たちの経験を活かした形で新しい表現を生み出せるんじゃないかと思うようになってね。イブラヒマはそれまでいろんなグループで海外公演もやってたし、僕もいろんなジャンルで音楽をやってきたから」(エメリック)
最新作『Bamako Today(バマコ・トゥデイ)』のジャケに写るメンバーはジェリンゴニやドンソンゴニといった伝統弦楽器を抱えているが、この2つの弦楽器は異なる文化的背景を持っており、合奏されることは稀。そのようにマリ各地方の伝統音楽を横断するのが彼らのスタイルだ。
「私はバマコの都会育ちなんだけど、マリの文化すべてがバマコに集約されるんだ。だから、いろんな文化を吸収することができた。地方では異なる地方出身者が競演するチャンスもほとんどないけど、バマコでは簡単なことだ」(イブラヒマ)
『Bamako Today』に収められているのは出身地やスタイルを越えた〈今のバマコの音〉だ。また、一部でゲスト・プレイヤーによるエレクトリック・ギターも入っているものの、鳴っている音のほとんどが伝統楽器で演奏されたもの。それにも関わらず、音の質感はモダン。このバランスは見事という他ない。
「音楽のアレンジメントはもちろん、ミキシングやマスタリングにもこだわってるからね。ヒップホップっぽい質感というか、マリの他のグループがやらないような音質になってると思う。ただ、このグループはヨーロッパの白人を喜ばせるために作られたわけじゃないし、民族音楽のデモンストレーションのために作った海外遠征用の出稼ぎバンドでもない。誰かにやらされているわけじゃなくて、自分たちがやりたい音楽をやってるだけなんだ」(エメリック)
イブラヒマによると「マリのラジオやテレビでも私たちの曲は流れてるんだけど、向こうではあまりコンサートをできていなくて。だから、たまにやると熱狂的に歓迎してくれる」という。彼らが奏でるのはバマコの喧噪も詰まった都市型民族音楽である。そして、その魅力は――富山や東京でも熱狂を巻き起こしたように――国も民族もやすやすと越えていくのである。