EMPIRE STATE OF MIND
【特集】深化するNYインディー
この街からはいつだってヒップでクールな音楽が聴こえてくる――トレンドの賞味期限は日に日に短くなる一方だけど、それだけはずっと変わらない事実。インディーの首都NY、その最新コレクションを覗いてみよう!
★Pt.1 アニマル・コレクティヴ『Painting With』のインタヴューはこちら
★Pt.2 ラ・ラ・ライオット『Need Your Light』のインタヴューはこちら
★Pt.3 いま聴くべきNYインディー作品のディスクガイドはこちら
★Pt.4 コラム〈NYインディーの注目レーベルを紹介!〉はこちら
SCHOOL OF SEVEN BELLS
スクール・オブ・セヴン・ベルズは、シークレット・マシーンズの一員だったベンジャミン・カーティスと、オン!エア!ライブラリー名義で活動していたアレハンドラ&クラウディアのデヘサ姉妹によって2007年に結成された。そしてプレフューズ73作品への客演を弾みに、翌2008年の初作『Alpinisms』でロック/クラブ双方のリスナーから熱烈な支持を集めることに。続く2010年の『Disconnect From Desire』の完成直後にクラウディアが脱退するも、彼らの人気に陰りが見える様子はなく……。シューゲイザーとドリーム・ポップを融合した幻想的なサウンドで、ビーチ・ハウスやワイルド・ナッシングらがブレイクしていく道筋を作った――このグループのことをそう説明しても、決して大袈裟ではないはずだ。
2012年には、少女と幽霊の物語を描いた初のコンセプト・アルバム『Ghostory』を発表。音的にも〈80sのシンセ・ポップとアンビエントを高次元でブレンドさせること〉を試み、第2章の幕開けを高らかに宣言した。が、大きな悲劇がグループを襲う。ベンジャミンが悪性リンパ腫に倒れ、2013年12月、35歳の若さでこの世を去ったのだ。ポール・バンクス(インターポール)ら多くの同業者が追悼の言葉を寄せたことからも、彼がいかに愛されてきたか窺い知れるだろう。
誰もがバンドの未来を絶望視していたなか、唯一のメンバーとなったアレハンドラはベンジャミンと録音したマテリアルを持ってLAに飛び、ベックやM83との仕事で有名なジャスティン・メルダル・ジョンセンとスタジオ入り。こうして完成したのがニュー・アルバム『SVIIB』だ。公式ホームページにはアレハンドラの言葉で〈この作品は始めから終わりまでラヴレター。それは2004年に私たちが初めて会った日からのストーリー、そしてスクール・オブ・セヴン・ベルズのストーリー〉と綴られている。彼女の繊細な歌声とベンジャミンの淡いギター・ノイズが、簡素なビート上で甘く溶け合い、まるで過去3作を凝縮したかの如き一枚に仕上がった。とりわけ感動的なのが、ジョーイ・ラモーン“I Got Knocked Down(But I'll Get Up)”のカヴァー。ベンジャミンが病院で録った最期の音源であり、同じ病で命を落とすこととなる両者の悲痛な思いや希望が、時を超えて重なっていくようだ。
事実上のラスト作品になるのは悲しいけれど、湿っぽい言葉はほどほどにしておこう。いまはただ、スクール・オブ・セヴン・ベルズが残してくれた美しく深淵な音世界に浸っていたい。 *上野功平