EMPIRE STATE OF MIND
【特集】深化するNYインディー
この街からはいつだってヒップでクールな音楽が聴こえてくる――トレンドの賞味期限は日に日に短くなる一方だけど、それだけはずっと変わらない事実。インディーの首都NY、その最新コレクションを覗いてみよう!

★Pt.1 アニマル・コレクティヴ『Painting With』のインタヴューはこちら
★Pt.2 ラ・ラ・ライオット『Need Your Light』のインタヴューはこちら

★Pt.4 コラム〈NYインディーの注目レーベルを紹介!〉はこちら
★Pt.5 スクール・オブ・セヴン・ベルズ、ダイヴ、チェアリフトについてのコラムはこちら

 


SNAP'N STYLE!!
いまNYを聴くべき理由

 なぜいまNYなの?――そんな声も聴こえてきそうですが……。〈テムズ・ビート〉や〈ニューレイヴ〉といったハイプ的なムーヴメントが、皮肉にもUKロックの勢いを抑制する結果となり、それらと入れ替わるかたちでMGMTグリズリー・ベアらがブレイクしたのは2007~2008年のこと。確かに、当時のように〈NY産だからどうこう〉みたいな騒がれ方は、目にしなくなりました。

 でも、思い出してみてください。例えば人々の耳がLAへ向かうきっかけになったアリエル・ピンク。そもそも彼の才能にいち早く気付き、アルバム・リリースを手助けしたのはエイヴィ・テアでしたよね。また、ナイト・ジュエルなどのイメージからLAのレーベルと思われがちなメキシカン・サマーだって、拠点はNYにあり、OPNが主宰するソフトウェアの親会社だったりも。2008年の設立時に彼らがキャプチャード・トラックスとオフィス・シェアしていたことは、いまや伝説でしょうか。そのメキシカン・サマーが手塩にかけて育てたベスト・コーストや、ブルックリン生まれのドラムスを起点とするサーフ・ポップの流れが、バーガー周りのガレージ・ブームに繋がっていくことも特筆すべきトピックです。

 では、昨今のカナダ人気は? はい、それもカギを握るのはNY。マック・デマルコがキャプチャードに、ホームシェイクが姉妹レーベルのシンダーリンに所属して……だけじゃなく、フォクシーズ・イン・フィクション名義でも知られるトロント出身のウォーレン・ヒルデブランドがこの街に移住し、オーキッド・テープスを立ち上げ、フォッグ・レイクアレックスGの紹介に、オーウェン・パレット絡みのリイシューなど、草の根的な活動を行ってきたからこそ、現在の状況が生まれた、なんて見方も可能でしょう。

 つまり何が言いたいかって!? インディーのトレンドを動かしているのはいまも変わらずNYだ、ということ。そして、アニコレラ・ラ・ライオットに続き、イェイセイヤーの新作も間近に控えるタイミングだからこそ、改めて同シーンに注目すべきだ、ということです。 *山西絵美

 

聴くべき作品はこんなにある! NYインディー・ディスクガイド

PANDA BEAR Crosswords EP Domino(2015)

変態動物軍団の首領が新作『Painting With』に先駆けて放ったこのソロEPは、『Merriweather Post Pavilion』の続きを描いたような極彩色の歌ものテクノだ。パン周辺やアルカら新世代のテクスチャーも意識しながら、本隊の“Brother Spot”ばりのキラー曲“No Mans Land”などを投入。 *ヌーディーマン

 

SKYLAR SPENCE Prom King Carpark/HOSTESS(2015)

セイント・ペプシ名義でネット周辺を騒然とさせた後、スカイラー・スペンスに改名し、本作で現実世界へ飛び出した逸材。70年代のディスコファンクブギーを、シティー・ポップのフィルターを通したかのような軽やかさで鳴らす最高の一枚だ。ちなみにリリース元のカーパークも最初はNYでスタート。 *青木

 

COMPUTER MAGIC Davos Channel 9/Tugboat(2015)

オタクなキャラも日本のインディー・ファンにハマり、いち早く我が国でブレイクした電子美女の初作です。デビュー時のチェアリフトカルツらと共鳴する部分もありつつ、こちらはもっとダイレクトに80sな音を求め、コスプレ感覚でYMOディーヴォらを咀嚼。 *中井

 

AIR WAVES Parting Glances Western Vinyl(2015)

ダン・ディーコンがお気に入りに挙げ、注目されるようになったニコールさん。フォーク色の濃いほのぼのとした楽曲は人を惹きつける魔力があるのか、クリスタル・スティルズアヴァ・ルナの面々がゲストで、ウッズジャーヴィスがプロデュースで参加。NYのキレ者たちを癒すオアシスみたいな一枚です。 *中井

 

HERE WE GO MAGIC Be Small Secretly Canadian/HOSTESS(2015)

ナイジェル・ゴドリッチのプロデュースによる出世作から3年のスパンで登場した最新作。ダーティ・プロジェクターズやグリズリー・ベアのようなバロック・ロックをコンパクトにして、アダルトなシンセでコーティングしたら、ドナルド・フェイゲンに近付くのか! これが成熟したNYインディーの模範解答! *保坂

 

SUNFLOWER BEAN Human Ceremony Fat Possum/HOSTESS(2016)

ファッション業界とも深く繋がっている、見た目もスタイリッシュな男女3人組。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを手本にしたと思しきサイケ感覚と、疾走感のあるガレージ・ロックの融合を図ったこのデビュー作は、UKでも絶賛されそうな兆し。もしかしたらストロークスみたいな化け方をするかも。 *中井

 

WET Don't You Columbia(2016)

ネオン・ゴールドからのEPで脚光を浴びてコロムビア入り……という、パッション・ピットと同じ出世街道を歩んでいる男女デュオ。チェアリフトのパトリックもプロデュースに関与したこの初アルバムでは、ライに夏の気怠さを纏わせたような、ポスト・チルウェイヴな空気感でリスナーを蕩けさせます。 *中井

 

POP. 1280 Paradise Sacred Bones(2016)

キャバレー・ヴォルテールの遺伝子をCBGBで培養し、インダストリアル再燃にも油を注いだ4人組の新作。なお、デヴィッド・リンチジョン・カーペンターの音楽作品をはじめ、ダークなカタログを積み上げてきたNY暗黒ロックの牙城、セイクレッド・ボーンズは来年に早くも10周年を迎える。 *ヌーディーマン 

 

THE PRETTIOTS Funs Cool Rough Trade(2016)

ラフ・トレードからアルバム・デビューを飾った女性バンド。センシティヴな歌メロとチルなウクレレが紡ぐガーリーな音世界は、同じブルックリン出身のオ・ルヴォワール・シモーヌ先輩を思い出させるものです。ソニック・ユースとも仲良しな写真家/映像作家のリチャード・カーンによるPVも激オシャレ! *中井

 

ONEOHTRIX POINT NEVER Garden Of Delete Warp/BEAT(2015)

〈ネット時代の現代音楽〉な感覚を蔓延させた鬼才が、ポップスと対峙した最新作。NINからクリス・ブラウンまで透けて見える闇鍋市はアニコレ『Merriweather Post Pavilion』の躁モードと重なるし、逆に“FloriDada”のPVは完全にOPN以降な感じで……NYの音楽生態を語るうえで欠かせない一枚。 *ヌーディーマン

 

SMALL BLACK Best Blues Jagjaguwar(2015)

トロ・イ・モワウォッシュト・アウトと並んでチルウェイヴの普及に大きく貢献した彼らは、サイケ化したり、音沙汰がなかったりする盟友を尻目に現在も当初のスタイルをひたすら追求していて、その頑固な感じがカッコイイ。ニコラス・ヴァーンズと組んだ本作でも、浮遊感のある黄昏シンセはもちろん健在! *保坂

 

ST. LUCIA Matter Columbia(2016)

南アフリカからこの街に移住してきた男性シンガー・ソングライターの2作目は、パッション・ピット仕事でお馴染みのクリス・ゼーンによるプロデュース。フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド“Relax”ばりの突き抜け方が素晴らしく、〈NYインディー界からミーカの強敵が登場!〉なんて書いてみたくなります。 *中井

 

BOB MOSES Days Gone By Domino(2015)

共にヴァンクーヴァー出身のトム・ハウイージミー・ヴァランスがNYで偶然再会し、本ユニットを結成。そしてブルックリンの地下を騒がすシザー&スレッドからのEPが話題を呼んで、昨年にドミノ入りを果たしている。XXテック・ハウス化したような伏し目がちのサウンドで、都市生活の孤独を表現。 *青木