過去の自分と向き合い、いまとは違った人生を歩む自分を夢想しながら、前を向いて生きていく――息苦しい世の中に希望の光を見い出す〈酸欠少女〉の新しい歌たち!

 〈酸欠〉した世界に対し、アコギを掻き鳴らしながら独自の解釈で光や影を歌う、19歳の〈2.5次元パラレル・シンガー・ソングライター〉ことさユり。昨夏にシングル“ミカヅキ”でメジャー・デビューした彼女が、それに続くセカンド・シングル“それは小さな光のような”をリリースした。表題曲はTVアニメ「僕だけがいない街」のエンディング・テーマ。何か〈悪いこと〉が起こった時にその直前まで時間が巻き戻る〈リバイバル〉という現象に苦悩する主人公が、タイムリープによって過去の事件を未然に防ごうとするサスペンス・ストーリーだ。今回の楽曲は、このアニメの劇伴を担当し、Kalafinaなどのアーティストもプロデュースする音楽家の梶浦由記が作詞/作曲している。

さユり それは小さな光のような ARIOLA JAPAN(2016)

 「この曲で書かれている〈君を守りたい〉という思いは、“ミカヅキ”で歌った〈自分は強いわけではないけれど前に進まなきゃ〉という思いと重なっていて。自分の中にあることでもあり、でも自分だけでは言葉にできなかったことが詰まっている歌詞なので、刺激になる部分がたくさんありました」。

 8分の6拍子のリズムに、ストリングスとバンド・サウンドが融合したこの楽曲をアレンジしたのは、前作“ミカヅキ”に続き江口亮。さユりの芯の強い歌声が入ることで、時空の歪みと冬の北海道を舞台としたアニメの世界観に合う、吹雪の激しさと粉雪の繊細さを連想させる楽曲に仕上がった。また、MVでは彼女の多面性の象徴でもあるふたりの2次元キャラクターのうち、後悔を抱えた黒髪セーラー服の14歳の少女〈さゆり〉をフィーチャー。もともと原作の漫画を愛読しており、主人公の抱える過去への後悔に共感していたというさユり自身が、アニメの登場人物とも多分にリンクしている。

 「音楽を始めた14歳で止まっている原点の自分がいるおかげで、私がいまこうやって前を向いて歌えている部分もあるんです。でも、そこには当時の自分を救いたいという気持ちもありますね」。

 そして2曲目の“来世で会おう”はさユりの作詞/作曲で、編曲はこちらも江口亮が担当。“ミカヅキ”が完成した後に生まれた楽曲で、音楽家としての道を歩む自身の葛藤と決意を歌ったものである。“それは小さな光のような”の世界観と対のような内容ということで収録された。〈過去は変えられない〉という歌い出しはインパクト大。

 「(音楽家という)いまの選択をしなかった自分が実際夢に出てきたりするんですよ。その私に対して現実の自分はどうして生きていこう? どうやったら前を向いていけるだろう? ……と考えながらこの曲を書きました」。

 煌びやかなプログラミングが導入されたパワフルなバンド・サウンドを乗りこなすエモーショナルな歌声と、ジェットコースターのようにメリハリの利いたアップダウンを描くメロディーの力も相まって、彼女自身だけではなく聴き手のことも肯定してくれるような仕上がりだ。ところで〈来世で会おう〉という言葉の真意は?

 「いまの自分とは違う選択をした自分はパラレル・ワールドでがんばって生きていると思うんです。夢に出てくる自分はいつも幸せそうなので、私もこの現実世界で自分のことを好きになれるように一生懸命生き抜いたら、この先――来世で思いが巡り会えるんじゃないかなと思って。だからもうひとりの自分は私にとって〈戦友〉かな」。

 “ミカヅキ”以降、着実にリスナーを増やしているさユり。多くの人と出会うことで心境に少しずつ変化も生まれているよう。若干19歳。技術的にも精神的にも伸び盛りだ。

 「生きていると苦しいから、戻れるなら戻りたいと思うこともあるけれど、苦しいなかで生まれた曲を〈作ってくれてありがとう〉と言ってもらえて〈あ、間違いじゃなかったんだ〉と思えたんです。がんばっていまの人生を生きていきたいですね」。