キャッチーな歌心と享楽的サウンドで世界各地のフェスを最高のパーティー空間に変えてきた2人が、もうすぐ日本にやって来る! 今年の夏は、アルゼンチンの〈浮かれた〉奴らから絶対に目を離してはいけませんよ!!

一夜にして生まれた世界のスター

 たった一日が、そのアーティストのキャリアを永遠に変えてしまう――音楽の世界ではたまにある話だけど、アルゼンチン出身のデュオ、カトリエル&パコ・アモロソ(以下カトパコ)にとってのそれは、2024年10月5日だった。

 USワシントンに位置する公共放送NPRの社屋で、アーティストが生演奏を披露する名物企画〈Tiny Disk Concert〉。そこにラテン月間の一環として招かれた彼らは、サポート・メンバーに加えてブラス・セクション、パーカッション、女性ヴォーカルを従えた大所帯バンドで登場。17分にわたって披露したパフォーマンスは、玄人好みな同番組のファンにとっても衝撃的な体験となった。

 髪をカラフルに染め、モード系とストリート系を絶妙にミックスしたファッションに身を包んだヒップスター風でもあり、チャラ男風でもあるカトパコが、ラップと歌を織り交ぜて物語るリリックはユーモア満載。たとえば“EL ÚNICO”では、〈ちょっと待った、俺たち同じ子と×××してたじゃん!〉と、1人の女性に遊ばれていたことに気付く二人のやりとりが描かれる。だが、そんな爆笑必至のリリックに反して、サウンドはメジャー7thの効いたメロウでグルーヴィーなジャズ・ファンクだったのだ。

 まるでアンダーソン・パークが悪ガキ時代のビースティ・ボーイズをプロデュースしたかのような映像は、瞬く間に話題となり、2025年7月中旬時点で3,900万回超の再生回数を記録。アルゼンチンの音楽で世界にアピールできるのは、音響系やコンテンポラリー・フォルクローレだけという常識を打ち破り、カトパコは一夜にして世界的なスターの仲間入りを果たした。今年は北米最大級のフェス〈コーチェラ〉に出演、7月には〈フジロック〉に参戦する。

CA7RIEL & PACO AMOROSO 『PAPOTA』 5020/ソニー(2025)

 そんな彼らが今年3月に発表した最新EP『PAPOTA』が、日本盤としてCD化された。アルゼンチンのスラングで〈強い男〉を意味する同作は、突然の成功とそのプレッシャーを、泣きベソをかきながら笑い飛ばすかのような“IMPOSTOR”をはじめ、〈Tiny Disk Concert〉でのライヴ音源、デビュー・アルバムに収録されていた名刺代わり的なナンバー“DUMBAI”もボーナス・トラックとして収録するなど、まさにカトパコ入門編にうってつけの一枚。だが、リリックもサウンドもあまりにも多彩な要素が詰め込まれているため、聴き返すほどに〈こいつら、何者?〉との疑問がむしろ強まっていくかもしれない。無理もない。実はカトパコのキャリアは意外に長く、しかも複雑なのだ。