生の要素を活かしたスタイル

――本作でプレイしている曲を具体的に見ていきますと、まずイントロがあって、その後のショウテック“Booyah”で幕を開けます。この曲はラガっぽいニュアンスがあって、アッパーかつキラーなトラックだと思います。

「ダンスホール・レゲエのノリはもともと好きなんですよ。で、ここ数年はレゲエもヒップホップも4つ打ちの要素が強くなってきて、ジャンルの境い目がなくなりつつあるじゃないですか。その流れもあってレゲエの人と交流する機会も増えていて、MUNEHIROのプロデュースをやらせてもらったりしています。EDMとレゲエの要素を組み合わせるのが楽しいんですよね。このミックスに入れている自分の“BRING DAT”のリミックスもそういうアプローチです。最近はメロディアスってことを気にせずに作っているので、そうするといろいろなスタイルのサウンドが出てくるというのもありますね」

DAISHI DANCEがプロデュースしたMUNEHIROの2014年作『Re:1st』収録曲“ANKORA”

――ご自身の新曲“TRIBAL ZUNDOKO”はトライバルなビートを全面に押し出したトラックですね。このトライバル感も先述のラガ感も、昨年リリースされたDAISHI DANCEさんのオリジナル作『NEW PARTY!』に窺える要素です。

「90年代のトライバル・ハウスをEDM的な音圧にアップデートした曲ですね。トライバル・ハウスは昔からずっと好きで、連綿とあるものなんですよね。いろんなジャンルのダンス・ミュージックと混ぜることができて使いやすい。いまのEDMって似たフォーマットのものが多いので、トライバルなトラックってアクセントとしてすごく効果的に機能するんです」

――その“TRIBAL ZUNDOKO”を経てハウシーな展開に入っていきますね。デイヴ・オードの“Hustlin (Slideback Remix)”はクリスタル・ウォーターズのハウス・クラシック“Gypsy Woman”をネタにしたナンバーです。

「もともとルーツがどハウスですし、いまも朝方にクラシックなハウスをかけたりするんですよ。だからオールド・スクールなスタイルでいまのテイストに則したトラックがあると多用しますね。あと、僕はずっとハウス・ミキサーの名器とされているUreiを使っているんです。これでEDMをミックスする人はいないと思うんですけど(笑)。今回もグイグイ前に出るような音質にしたくてUreiのロータリー・ミキサーでミックスしています」

DAISHI DANCE“TRIBAL ZUNDOKO”のライヴ映像

――オールド・スクールなハウスもトライバルものと同じで、ご自身のルーツを今様の形でアウトプットするという感じでしょうか。

「そうですね。好きなものってそんなに変わらないですし。90年代はクラブとディスコの両方でDJをやっていて、ディスコではジュリアナっぽいセットもやっていたんですよ。あの勢いも好きで、ジュリアナ的な要素もいまの感覚で制作に活かしていますね。だから、90年代にスタートして20年になるDJのキャリアで培ったものはいろんな形で反映されていると思いますし、大きな財産だと思っています。そうやって、いろんなものを見てきたうえでいまEDMと向き合っていることが、自分の個性になっているんじゃないかと」

 ――メロディアスなヴォーカルものを挿みつつ、テクノに近いようなドープなインストも随所に混ぜ込まれています。

「もともとディープ・ハウスからテクノから、いろんなものを混ぜ込んでいくタイプなので、最近テクノっぽい曲を使うようになってきたわけではなくて、これが自分の定番スタイルなんですよ。やっぱりEDMは似ているフォーマットの曲が多いじゃないですか。もちろん、アイコン的なサウンドを共有することでここまで広がった側面もあるので、そのことを否定するわけではないです。ただ、そういうなかで、自分のジェットコースター的な選曲の特徴は武器になる。攻撃的なテクノから一気にキャッチーな歌ものに持っていったりすると、その波が爆発的な盛り上がりを引き起こしたりするんです」

――確かにEDMというと派手なシンセが鳴っていて、メロディアスで……みたいな固定されたイメージがあると思うんです。そういう状況で〈EDM〉を掲げながらこういうヴァラエティーに富んだミックスを提示されているのがおもしろいし、リスナーにとってもいろんな発見がある作品になるんじゃないかなと思いました。

「EDMのアルバムって〈ヒット曲満載!〉を売り物にしているものが多いじゃないですか。そういうものではなくて、しっかり現場と連動したクラブらしいミックスになったと思うし、そういう意味でのクォリティーは保証しているつもりです」

――ミックスの最後を飾るのは自身のユニット・Limited Express“WIND LINER nexus”の未発表リミックスですね。

「自分の曲をオリジナル・アルバムのヴァージョンのまま入れてもつまらないので、ミックスCDごとに常にリミックスをしてるんですよ。“A.T.W!”も前のミックスにも入っているので今回はかなり手を入れたリミックスにしていますね。Limited Expressの“WIND LINER nexus”に関しては、この曲をラストに想定してわけではなくて、ラストっぽいのがこの曲だったってことですかね。僕の場合、毎回いきあたりばったりというか(笑)、いつもセットは決めずにプレイしているんですよ。その方が現場感のあるサプライズを生むってこともありますし。そういう生の要素を活かしたスタイルをミックスCDにも反映させているということですね」