〈Save The Beach、Save The Ocean〉(全国で急速に減少しているビーチを守りたい)をコンセプトに据えて、毎年5月に開催される音楽とアートのカルチャー・フェスティヴァル〈GREENROOM FESTIVAL〉。サーフ・カルチャーに影響を受けた音楽、映画、アートを中心にさまざまなラインナップが一堂に会するこのフェスは、2005年の初開催から回を追うごとに規模を拡大。当初1,000人規模だった来場者も現在では5万人を超え、日本でも屈指の人気フェスのひとつになっている。
12回目となる今年は、5月21(土)と22日(日)の2日間、お馴染みの横浜・赤レンガ倉庫を舞台に開催。そしてMikikiでは、GREENROOM代表でオーガナイザーの釜萢直起(かまやちなおき)氏に、今年の観どころ、そして海から広がるカルチャーの楽しさをぎゅっと凝縮したこのフェスならではの魅力などを語ってもらった。それを前・後編の2回に分けてお届けしたい。
★〈GREENROOM FESTIVAL '16〉1日目のラインナップを紹介した記事はこちら
新ステージ〈PORT STAGE〉
念願のロドリーゴ・イ・ガブリエーラ出演
――今年の話を始める前に、まずは昨年の〈GREENROOM FESTIVAL〉を振り返って、釜萢さんはどんなことが印象に残っていますか?
「去年はウェイラーズをヘッドライナーに迎えられたというのが一番ですね。僕らはいろいろな国でサーフ・トリップへ行くたびにボブ・マーリーを聴いてきたので、それを再現できたというのが何より嬉しかったんです。一方で、ここ2~3年はずっとですが、来場者の方が増えて会場が窮屈になってきている部分もあったんです。僕らはみんなにいい環境でゆったり音楽を聴いてもらいたいと思っているので、それを今年は改善したいと思っていますね」
――〈GREENROOM〉の人気が高まっているからこその課題ですね。
「そうですね。それは本当に嬉しいことなんですが……昔は会場がすごく空いていて、もっとみんな思い思いの格好で楽しんでいたんです。なので、今年はそのあたりをホスピタリティーとして上げていきたいと思っていますね。窮屈な場所にぎゅうぎゅう詰めにされるのは、やっぱりフェスではないと思うので。そこで今年は、これまでの〈Good Wave〉や〈Blue Sky〉〈Hummingbird〉〈Gallery Stage〉〈Paradise Ship〉に加えて、新しく〈Port Stage〉が出来ます」
――〈PORT STAGE〉はどんなステージなんですか?
「赤レンガ倉庫ではなく、近隣のMARINE & WALK YOKOHAMAを使ったステージなんですが、ここからはヨコハマ グランド インターコンチネンタルホテル側の風景が見えるので、いつもの〈GREENROOM〉とはまた違う景色になると思います。港の近くで、いい音楽を聴いて、いいお酒を呑んでという形ですね。今年初めての試みなので、僕ら自身も楽しみです。芝生で寝転んだり、海を見ながらチルアウトしたりという場所を増やすためにも、エリアはどんどん増やしていきたいですね。あとは〈SXSW〉のように、横浜のみなとみらいに根差していく、みなとみらいの街フェスのようなものにしていきたいと考えているので、将来的には海沿いのパシフィコ横浜や大桟橋ホールが繋がっていくととても嬉しいです」
――なるほど。
「それから、基本的に海やビーチは誰にでも開かれているものだと思うので、そうした意味で僕らも全面的に開いていくというか、ジャンルなどに囚われないようにしたいと思っています。やっぱり海が好きな人やサーファーも、ロックからレゲエ、スカ、ハウスまで本当にさまざまな音楽を聴くので、海にジャンルはないのかなと思うんですよね」
――今年の出演アーティストのラインナップには、それが大きく反映されているように思えますね。それではまずは1日目のアクトについてお訊きしたいのですが……何と言っても今年は、ロドリーゴ・イ・ガブリエーラが出演しますね。
「これは嬉しかったですね。決まった時は飛び上がって喜びました。日本にも〈フジロック〉などで何度か来日していますが、昨年〈Byron Bay Bluefest※〉で間近で観ることができて、どうしても(〈GREENROOM〉出演を)実現させたいと思っていたんです。8年ぐらいオファーをし続けて、やっと実現したので、まさに念願でした。僕自身“Tamacun”をはじめいろいろな曲が好きですが、やっぱり2人だけでやっている時のあのリズムが独特というか、究極の形というか。本当にカッコイイと思います」
※オーストラリアのバイロン・ベイで開催されるフェス
――弦の振動まで伝わってきそうな雰囲気のパフォーマンスをしますよね。
「ライヴを間近で観ていると空気が揺れる感じがするというか、パッションが迸っているような。あれは惚れちゃいますよね」
――一方、ナタリー・ライズやブラックトップ・プロジェクトはお馴染みの面々ですね。
「そうですね。ナタリーとはすごく古い付き合いで、2006年に、ブルー・キング・ブラウンで出てもらいました。当時はまだEP『Water』(2005年)しか出ていなかった頃だったんですが、〈GREENROOM〉のヘッドライナーとして抜擢して、初来日をすることになって。その時からなのでもう11年の付き合いです。僕はオーストラリアに留学していたんですが、その頃にいろいろとフェスを回っていて、ジョン・バトラーのようなオーストラリアの音楽を知って……そのなかで出会ったのが彼女たちだったんです。あのビート感がすごく好きで、(その演奏から)ナタリーが持つパワーを感じられますよね。一方、トミー(・ゲレロ)やレイ(・バービー)は僕らのヒーロー。中学の時にスケートボードを習っていたのですが、映画『ボーンズ・ブリゲード』がみんな大好きで、僕自身も何度も観ていたんですよ」
日本人アクトの観どころ
〈GREENROOM〉の持つファミリー感
――〈GREENROOM〉は一度出たアーティストがふたたび出演することも多く、〈ファミリー感〉がある印象なのですが、そのあたりは意識しているのでしょうか?
「僕らからすると〈これが絶対盛り上がるだろうな〉という方々を呼んでいるだけなんです(笑)。ただ、11年間同じ人間がブッキングをしているので、ずっと同じスタイルにはなるのかなと。あと、オーガナイザーは〈顔が見える仲でやっていこう〉と考えているので、出てくれるミュージシャンやぺインター、スタッフたちも、年々活動を共にしていきたい、カルチャーとしてずっと繋がっていたいと思っているので、そうなるのかなと思います」
――ほかにはジャマイカからリッチー・スティーヴンスもやってきます。これは貴重なライヴになりそうですね。
「レゲエに対してはずっとリスペクトをしていて、ジミー・クリフやウェイラーズのようにジャマイカで生まれた本物の音楽を、毎年必ず1人は迎えるようにしているんです。それが今年はリッチー・スティーヴンスで。彼はレジェンドですし、音楽のジャンルのひとつを築いてきた人なので、歳を取ったいまも間近でそのパワーを感じられるのは嬉しいことですよね」
――日本のアーティストも今年はますます豪華な印象です。
「サニーデイ・サービスさんは初出演なのですが、すごく嬉しいですね。横浜出身のSPECIAL OTHERSが10周年というタイミングで出るのも嬉しい。あとはやっぱり、UAさんかな。新作『JaPo』がリリースされた直後ということもあって、すごくいいステージになると思います。ほかにもGOMA & The Jungle Rhythm SectionやLIFE IS GROOVE(KenKen、ムッシュかまやつ、山岸竜之介によるグループ)、RIP SLYME、SOIL & “PIMP "SESSIONSさんなど……土曜日は本当にアツいと思いますね。自分で言うのも恥ずかしいですが(笑)」
――ハハハ(笑)。最初のお話にもありましたが、今年はサーフ・カルチャーの枠を越えて、例年以上に幅広い音楽性のアーティストが揃っていますよね。SuchmosやYogee New Waves、never young beach、SANABAGUN.のようないま勢いのある若手バンドの出演はそれを象徴しているように思えます。
「そうですね。そこはレジェンドとアップカマーの掛け合わせというか。彼らのなかには横浜や湘南出身の子たちもいるし、何よりすごくカッコイイ音楽を作っているのでオファーさせてもらいました。ブッキングに関してはやり方を変えたわけではないんですが、フェスが10周年を迎えたあたりから、いろんな事務所の方やレーベルさんが〈GREENROOM〉を受け入れてくれることが増えてきているというのもひとつありますね。それに、僕らはビーチ・カルチャーをもともと知っている人だけではなく、普段は〈ビーチ〉や〈海〉から遠い人にもその魅力が伝わるきっかけになってほしいと思っているんです」
――MUROさんやDJ HASEBEさん、DJ Mitsu the Beatsさんといった方々は、船を使ったステージ〈PARADISE SHIP〉での出演になりますか?
「そうですね。それと、今年から新たに追加される〈PORT STAGE〉。この2つでDJが楽しめる形になると思います」
――1日目のタイムテーブルやステージ割りはどうなっているのでしょうか?
「1日目は、RIP SLYMEにSPECIAL OTHERS、そしてヘッドライナーでロドリーゴ・イ・ガブリエーラが出てくるというのが終盤の流れですね。いつも何百回とシミュレーションをして、音源を聴き直してはまた……と延々とやるんですが、今年の1日目はロドリーゴのヘッドライナーから考えていきました。何度も何度も(シミュレーションを)やっていると、スッと飲み込めるような順番があるんです。順番もオーガナイザーとしてのメッセージではありますが、何かを狙っているということも特にないので、〈これがGREENROOMを楽しむうえではベスト〉と思うものを選んでいますね」
――それが赤レンガ倉庫を中心とした、素晴らしい環境のなかで観られるわけですね。あの場所でやるということも、大切な要素のひとつだと思いますか。
「やっぱりあの場所以外では考えていなくて、〈GREENROOM〉にとってはベストだと思っています。赤レンガ倉庫は築150年以上という歴史的な建造物で、目の前には横浜ベイブリッジがあって、観覧車越しに夜景が見えて、近くの中華街でご飯も食べられると。ホテルも充実しているし、さらに海には大きな客船も泊まっている……横浜といって考え得るものが全部揃っているのがあの場所だと思います」
――あの会場の雰囲気も含めて〈GREENROOM FESTIVAL〉という感じですよね。
「そうですね。会場にはこだわっています。〈場所のパワー〉じゃないですが、赤レンガに行くだけで、テンションが上がりますからね(笑)」
※2日目出演のラインナップや、釜萢氏とビーチ・カルチャーとの出会いにも迫った後編は近日公開予定!