海やサーフィンをはじめとするビーチ・カルチャーに影響を受け、その魅力を横浜・みなとみらいエリアから発信する音楽とアートのカルチャー・フェスティヴァル〈GREENROOM FESTIVAL〉。前編では1日目のラインナップや新たなステージの追加などについて、GREENROOM代表でオーガナイザーの釜萢直起(かまやちなおき)氏に語ってもらった本インタヴュー。その後編では、2日目の注目ポイントやビーチ・カルチャーとしての側面、今年で12回を数える〈GREENROOM〉にまつわる思い出をたっぷりと訊いた。
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ヴェテランからニューカマーまで
オーディエンスに〈再発見〉してほしい
――それでは2日目のラインナップのお話を訊かせてください。今年はヘッドライナーとしてチャカ・カーンが出演しますね。
「彼女の出演が決まった時は嬉しかったですね。学生の頃、ボビー・ブラウンやニュー・エディション、ベル・ビヴ・デヴォーといったニュー・ジャック・スウィングが好きだったんですが、その頃クラブへ行くと、セットの終わりによくチャカ・カーンがかかっていたんです。当時ダンスやヒップホップ的なものに初めて触れて、ボビー・ブラウンやジョニー・ギルの歌に魅せられていたところにチャカ・カーンの歌声を聴いて、そのヴォーカルのすごさにヤラれたという感じでしたね。それで僕としても、いつか出演してもらいたいと思っていたんです。赤レンガとチャカ・カーンはすごく合うと思うし、彼女の歌声は〈本物〉なので、みんなでゆっくりと聴きたいですね」
――今回〈GREENROOM〉に来た若いオーディエンスがチャカ・カーンを再発見する、ということがあるかもしれません。
「再発見してほしいですよね。実際、過去にウェイラーズやジミー・クリフが出た時にもそういった感想を聞いていたので、〈若い人たちに刺さっているんだな〉というのは実感としてもあるんです。一方でハイエイタス・カイヨーテは、いま一番格好良いバンドですね。一昨年のヴィンテージ・トラブルもそうですが、〈GREENROOM〉としては旬のアーティストも掴まえていきたいと思っているので、今年はハイエイタスかなと。彼らの出身地であるオーストラリアのメルボルンは歌心を大切にした本当に素晴らしい街で、(1日目に出演するナタリー・ライズ擁する)ブルー・キング・ブラウンも同郷です。ハイエイタスを見ていると、メルボルンの街が育てたんだなと思いますね。すごくクリエイティヴなバンドが多い土地なんですよ」
――メルボルンの音楽シーンは近年大きな話題になっていますね。
「良いものが生まれる土壌がオーストラリアにはあるのかもしれないですね。海があるので僕もフェスでよく行くのですが、本当にいいところですよ」
―― また、オマーもソウルや歌心を感じさせるアーティストです。
「最近はネオ・ソウルに寄ってきていますよね。今回〈Gallery Stage〉を、より〈聴かせる〉ステージにするためにPAを改善して音響を良くしたので、オマーを迎え入れる準備は万端ですし、今回は久々の来日になるのでぜひ観てほしいです」
――日本勢では、クレイジーケンバンドも楽しみですね。
「これも決まった時はすごく嬉しかったですね。(横山)剣さんは地元・横浜の代表だと思っていますし、今回が初出演なので、あのライヴを赤レンガで観られるのが楽しみです。クレイジーケンバンドは横浜のカルチャーをリスペクトしている代表的な方々だし、音楽もずっと続けられていますよね。6~7年間ずっとオファーをし続けていて、今回ついに出ていただくことになりました」
――1日目のロドリーゴ・イ・ガブリエーラや2日目のチャカ・カーン、そしてクレイジーケンバンドなど、今年は長らくオファーし続けていたアーティストの出演が多数決まったと。
「そうですね。〈キタな〉という感覚はありました。好きなアーティストには何年もずっとオファーし続けているんですけど、昔はウチのステージが小さすぎてバンドが乗らないという問題もあって。でもここ最近はステージのスペックが高まっているので、僕らもいろいろなアーティストを迎える準備が出来てきました。回を重ねて、アーティスト側ともお互いに良い関係が築けるようになってきたのかな、とも思います」
――ほかに日本のアーティストで言うと、どのあたりに注目しておけばいいでしょうか?
「ハナレグミさんが出てくれるのは嬉しいですね。4年前にも一度登場してもらいましたが、赤レンガのステージであの歌声を聴くと、グッとくるものがあります。今年はメイン・ステージでチャカ・カーンの前に出演するので、ハイボール片手にみんなで観られたら最高だと思います(笑)。クラムボンも初めて出演していただくんですが、本当に嬉しいですね。かりゆし58も出ますし、DUBFORCEのステージには元ちとせさんが加わります。もちろん、2日目にはお馴染みのDef TechやPUSHIMもいますよ」
――加えて、2日目にはシシドカフカさんやNakamuraEmiさんも出演します。
「シシドカフカさんの場合は〈Gallery Stage〉にすごく大きなVJを入れるので、1日目の金子ノブアキくんと同様に、ドラム・セットでどんなことができるかという新しい挑戦です。NakamuraEmiさんは厚木出身で、国道246号線や圏央道の話など、歌詞を聴いているとすごく共感できるんですよね。楽曲を聴いてすぐにオファーをしました」
――THE King ALL STARSは、以前加山雄三さんが出演した際も話題になりました。
「そうですね。前回すごく反響があって、今年も最後にドンと盛り上げてくださるということで、湘南の大将に期待しています」
――そうしたなかで、D.A.N.の登場に新鮮さを感じました。
「そうですね。1日目のSuchmosやYogee New Wavesと同じで、フェスはレジェンドとアップカマーの兼ね合いが大切だと思っていて。そういう意味ではnever young beachも含め、若い力で盛り上げてくれるんじゃないかなと思っています」
――改めて、今年のラインナップは初登場のアーティストと常連の面々が、絶妙なバランスで共存しているのが印象的ですね。
「例えばレストランでも、あまりにメニューが変わりすぎると行かなくなっちゃうと思うんですよ。だから、僕らは丸ごと入れ替えようとしたことは一度もないんです」
シドニーで出会ったビーチ・カルチャー
アットホームなフェスでありたい
――せっかくなのでお訊きしたいのですが、そもそも釜萢さんがビーチ・カルチャーの魅力を知ったきっかけはどんなものだったのでしょう?
「シドニーへ留学のために行った時に、向こうではビーチ・カルチャーとの接し方が全然違ったんです。そこで初めて、ビーチにカルチャーがあるということを知りました。日本ではなかなか感じることがなかったんですが、向こうではサーフ・カルチャーが生活の一部になっている。これを日本でも紹介したいなとずっと思っていて。そうこうしているうちに、〈GREENROOM〉を始めるきっかけとなった〈MOONSHINE FESTIVAL※〉に辿り着いたんです」
※カリフォルニアはラグーナ・ビーチで開催されているカルチャー・フェスティヴァル
――海に音楽やアートが加わってひとつになっている雰囲気に、釜萢さんがカルチャーを感じられたということですね。〈GREENROOM〉もさまざまなカルチャーがただ一緒にあるだけではなく、とても密接に繋がっているような印象です。
「そうですね。海からインスピレーションを受けて、音楽や映画、アートが出来たりしているので、ビーチに対するリスペクトがあるんだと思います。また、実際にフェスを始めてみると世界中のペインターやフォトグラファーと出会う機会が多く、彼らと共に何かをするにはアート・ギャラリーが必要だったり、映像作家と知り合えば映画の配給会社が必要になってきたり。そうやって、フェスが全部を繋げてくれたんです」
――なるほど。アート・ギャラリーでの今年の注目は?
「ヨナス・クリーソンにはぜひ注目してほしいです。ヒョウやクマなどの動物がサーフィンをしている絵を描くアーティストなのですが、すごくカッコイイんです。今回の〈GREENROOM〉では無料エリアのブースになるので、ぜひ直に作品を見たり彼とコミュニケーションを取ってみてほしい。それでサインなどもらえたらラッキーですし、もしそこでアートの魅力を知った子供が将来アーティストになってくれたら、本当に嬉しいです」
――映画ではインド初の女性サーファーとして知られるイシタ・マラヴィヤらが出演した「ビヨンド・ザ・サーフェイス」の上映が決まっています。今回の上映作品はどんな基準で選んだのでしょうか?
「今年は全部で8本上映するんですが、毎回旬なものや問題作を扱おうと思っています。アフリカやインドに行くと、まだサーフィンやビーチ・カルチャーというのは根付いていないんですね。そういったこの先根付いていくだろう国を取り上げた作品を観ていただくことで、いろいろな国のビーチ・カルチャーがあるということを知ってもらえたら嬉しいですね。アラブやインドでは女性が水着になるということですらハードルが高いので、そのなかで彼女たちがいかにしてビーチ・カルチャーに触れていったかを観てほしいです」
――〈GREENROOM〉で上映される映画は、毎年出演アーティストにちなんだものが多いと思います。今年もそういったものは用意されるのでしょうか?
「例えば今年は、ドッグタウンのメンバーだったジェフ・ホーが登場するので、それならば『ロード・オブ・ドッグタウン』を上映しようと考えたりしています。映画にはカルチャーも音楽もすべてが詰まっていると思うので、そういったものを掛け合わせることで、何かが伝わったらいいなと思っています」
――これまで11回開催されてきたなかで、特に印象に残っていることは何ですか?
「現在は5月開催ですが、第1回は2月の開催だったんです。その時はヒョウが降ったりして極寒だったのですが、会場の中は常夏ムードで温かくて、お客さんも笑顔で……その体験が、諦めずに11年間続けるモチヴェーションになっているのかなと思いますね。そこから1年ごとに少しずつ大きくなって、ミュージシャンもペインターも含めて仲間みんなで11年間歩んできたという印象です。いい11年だったと思いますね」
――最後に、今年〈GREENROOM〉に来場する人々に向けて、どんなことを期待して良いか教えてください。
「〈GREENROOM FESTIVAL〉は、メガフェスというよりも100~200人でのパーティーの延長線上にあるものにしたいと思っています。フードには〈かねよ食堂〉や〈THUMBS UP〉(共に横浜にある飲食店)など、来てくれた方がスタッフの顔を見るだけでホッとするような店舗が揃っているし、また最新の水着を買うことも、キッズ・エリアで1日中遊ぶこともできます。会場はできるだけ壁を設けずに、ひとつのステージから別の会場が見えたり、ライヴの音が漏れてきたりと、みんなが近くにいられるようなものにしているので、それを五感全部で感じてほしいですね。また、無料エリアを設けているのは、ビーチと同じようにどんどん開いていきたいからです。チケットを買うとより楽しいことが待っていますけどね! 世界的に見てもこれだけの規模のビーチ・フェスはなかなかないので、ぜひ一度来てみてほしいと思います」