現代最高のピアニストが待望のJ.S.バッハ録音を発表
今年は2度目の来日公演も
現代最高のピアニストの一人、ルドルフ・ブッフビンダー。今年は3月のリサイタルと、10月の協奏曲(共演はズービン・メータ指揮・ウィーン・フィル)で2度来日し、ファンも歓喜に沸いている。そんな彼の最新盤が、満を持して臨んだ初のJ.S.バッハ作品集だ。
「私は幼少の頃からJ.S.バッハの作品と共に人生を歩んできました。その結果、録音するなら"今だ"と思ったのです」
収録曲は、パルティータ第1&2番と、イギリス組曲第3番。そこには、モダン・ピアノによる最高峰のJ.S.バッハが記録されている。
「私は好きな作品しか録音しないので、今回もその方針に従って選曲しました。ですから、次回作のJ.S.バッハは未定です(笑)」
アルバム全体を通して印象的なのが、チェンバロやオルガンといった楽器奏法の援用。だが、ブッフビンダーはそれを「古楽的な解釈ではない」と語る。
「演奏家は、作曲家をバロック、古典派といった形に分類してはいけないというのが私の考えです。ですから、私はどんな作品を演奏する時でも、自筆譜の他に8~10種類の楽譜を読み比べ、作曲家の意図をひたすら追及しています。今回も、最良と判断した解釈が積み重なって、自ずとそうなっただけで。要するに、私は完璧主義者なんですよ(笑)」
各曲の聴きどころを尋ねると、以下のように説明してくれた。
「パルティータ第1番は、チェンバロ的なアーティキュレーションを採用することで、軽やかで煌びやかな音楽作りを目指しました。続く第2番は、冒頭の荘重なシンフォニアをオルガン風に演奏。また、第5曲のロンドーは明瞭かつ立体的に表現したかったので、あえてノンレガートで弾いてみました。そして、最後のイギリス組曲第3番。タイトルの由来(研究者フォルケルの"高貴なイギリス人のために作曲されたようだ"という評)通り、ひたすら幸せな気分で弾き込みました」
また、かねてから弾き振りも積極的に行っているブッフビンダー。今年3月には、シュターツカペレ・ドレスデンと共演したモーツァルトのピアノ協奏曲集(第20&21)の輸入盤がリリースされた。
「シュターツカペレ・ドレスデンとは長年、相思相愛の間柄です。2012年のベートーヴェンのソナタのライヴ録音を彼らの本拠地であるゼンパーオーパーで行ったことも、関係が深まる大きな要因になりました。今回も自然な流れで共演が実現し、理想的な協奏曲を作り上げることができたと思います」
第20番の第3楽章と第21番全体のカデンツァは、ブッフビンダーの自作であるのも大きな聴きどころだ。
「私はあらゆる協奏曲のカデンツァを自作で弾きます。ただ唯一の例外が、第20番の第1楽章。短い間奏のような箇所なので、ベートーヴェンの作を使いました。私は協奏曲を弾く際、オーケストラ・パートをすべてピアノで暗譜するんです。そうすれば作品の土台となっている主題や和声などがわかり、即興も自ずと頭に浮かんできますから。でも、そこで生まれる音楽は一期一会で毎回違う。ですから、当盤のカデンツァは私も再現不可能なんですよ(笑)」
J.S.バッハと共にモーツァルト&ベートーヴェンを敬愛するブッフビンダーは、彼らのソナタをライヴで度々演奏し、全曲録音の映像にもなっている。とりわけベートーヴェンへの思い入れは深く、このライヴ収録でも、彼の完璧主義者ぶりは徹底しているから凄い。
「ソナタに取り組む前に、まずはベートーヴェンのすべての変奏曲と小品を勉強し、録音することから始めました。彼がピアノのために書いたすべての演奏を知ることは、自分の演奏に変革と自由をもたらしてくれると思ったのです。また、この全曲演奏をライヴ収録にした理由をよく尋ねられるのですが、それは音楽の自然な流れと緊張感を求めたから。そのために、ライヴには付きものである幾つかの小さなミスという"代償"は喜んで払いました(笑)」
LIVE INFO
ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2016
○10/7(金)19:00開演
会場:サントリーホール
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 他
ルドルフ・ブッフビンダー(p)
ズービン・メータ(指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20161007_M_3.html