ミュシャ《スラヴ叙事詩》とスメタナ《わが祖国》…通底するチェコの自然、伝説、歴史への讃歌
国立新美術館で開催中の「ミュシャ展」に合わせ2枚のCDが発売された。ミュシャは19世紀末~20世紀初頭のパリで活躍したアール・ヌーヴォーの画家だが、出身はチェコで、現地の発音では「ムハ」となる。彼が50歳の時に故郷に戻り、16年の歳月を費やして完成したのが、今回、チェコ国外では初めて全20点まとめて公開される《スラヴ叙事詩》である。そしてこの連作絵画を描くきっかけが、彼が演奏会で聴いたスメタナの連作交響詩《わが祖国》と言われている。この2作の共通点、それは祖国チェコの独立を願って、チェコの美しい風土や数々の伝説、そして苦難の歴史を連作の芸術作品に描いたことだ。ワーナーは 《わが祖国》全曲を発売し、キングは《わが祖国》の6曲の中で最も有名な《モルダウ》を中心に、周辺のチェコ音楽を1枚に収めている。
ワーナーの《わが祖国》は、同じスラヴ系のフィンランドの指揮者ベルグルンドが1978年に東独のドレスデン国立歌劇場管と録音した音源を用いている。当時は東西冷戦の只中で、チェコは再び苦難の時代を迎えていた。当然、作品の背景を知った上で演奏しているだけに、その迫真力は凄まじく、同時にチェコの悲しみへの優しい眼差しも実感できる。解説書は《わが祖国》のわかりやすい楽曲解説に加え、《スラヴ叙事詩》全20点が小さいながらもカラー印刷されていて、大変気が利いている。
キングの《モルダウ》はペシェック指揮チェコ・フィルというオール・チェコ人の演奏。端正な造形の内側から湧き上がる情熱が素晴らしい。因みに《モルダウ》はドイツ語名で、チェコ語では《ヴルタヴァ》となる。この名曲が《モルダウ》と呼ばれること自体、チェコの苦難の歴史を物語っているのだ。日本在住のチェコ文化紹介者、ペトル・ホリー氏の解説が実に行き届いているのも魅力である。
EXHIBITION INFORMATION
国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業『ミュシャ展』
○3/8(水)~6/5(月)
開館時間:10:00~18:00 ※毎週金曜日、4/29(土)-5/7(日)は午後8時まで ※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜日(ただし、5/2(火)は開館)
会場:国立新美術館(東京・六本木)企画展示室2E
www.mucha2017.jp/