「気持ち良い音楽だったら何でも聴いていましたよ。小学生の時はハワイで出会ったオーシャン・カオウィリにハマって、中学生になってからはモロにヒップホップにハマりました。ミスティカルとかイヴとかね。でもヒップホップがスゲエ好きな時期でも、エンヤを聴いたり、イーグルスビートルズを聴いていたり……」。

 幼い頃から空手やサーフィンに親しむ傍ら、さまざまな音楽に触れてきたというシンガー・ソングライターのWATARUネリーショーン・ポールなどに影響されて10代半ばよりリリックを書きはじめ、後にラッパーとしてヴォーカリストとユニットを組んだものの解散。「ヤンチャでどうしようもなかった」という足元の定まらぬ日々のなか、千葉の九十九里に移住し、一時はプロサーファーを志したこともあったそうだ。しかし、気付けば23歳に。そんな彼の目を改めて音楽に向けさせたのは、子どもの頃から何度となく行き来し、付き合ってきたハワイの仲間だった。それは1年以上に渡る共同生活でのこと。

 「その時のルームメイトが小学生の時に初めてサーフィンを教えてくれた日系のお兄ちゃんで、お互い無職同士で語り合ったんですよ、〈これからどうする?〉って。そこで一緒に夜空を見上げながら、〈ちゃんと夢に向かって走ろう〉って話したのが始まりでした」。

WATARU おしえて神様 Oceans(2016)

 そして、自身初のリリースとなる『おしえて神様』へ続いていく。ここ2~3年で書き溜めた5曲から成る本作は、「ハワイや千葉の自然のなかで感じたこととか、テンション、そこで聴いていた音」がベースにあるという、いまの彼の音楽を等身大で表現したミニ・アルバムだ。ギター一本の曲作りから生まれた楽曲群は、打ち込みのビートにあってもアコギの音色が印象的で、朗らかかつ和やか。レゲエやヒップホップの要素も強いメロディアスなヴォーカル・スタイルを全編で披露している。

 「もともと相方とやっていた時から、メロディーもあって、ラップっぽいところもあるスタイルを確立したかったんですけど、うまくできなくて。今度はそれを一人でやろうと思った。そこで経験したことをストレートに表現したかったし、夏や海を感じる楽曲になれば良いなと思って作りました」。

 レゲエ調の晴れ晴れとしたトラックで〈辛い時も悲しい時も2人でいたいのに〉と歌うタイトル・トラックや、ヒューマンなバンド・サウンドを背に主役のヴォーカルが深みを増す“わからねえよ”のような失った愛を噛み締めるナンバー、都会の喧騒から海沿いの街へと向かう心情を映し出した“波に乗ろう”――本人いわく「心の叫び、誰にも言わないこと、その時その時の人生体験の1ページを書いた」曲の数々は、ポジティヴな側面に隠れがちな負の部分もさらけ出す。

 「“Hawaii”はいまの心境と俺らがハワイでやっていることを歌詞に入れたかったんですけど、その他の曲は女に振られてとことん落ち込んでいたり、悲しさから出来ているもののほうが多い。でも悲しい歌をアップテンポな音に乗せることによって、楽しくなるところも、涙が出そうになりながら歌う部分も、良いバランスで出せればなって。そこでプラマイゼロみたいな曲が完成するんです」。

 とはいえ、WATARUがめざすのはあくまでも「気持ち良いなと思える音楽」。本作も、「何も考えずに聴いてもらえれば」と彼は続ける。

 「ラフな感じでどこかに出掛ける時とか、ドライヴ中に聴いたり、あとは晴れの日に流してほしいです。詞を聴いてくれる人には、〈こういうこともあったな〉って思い出しながら共感してもらえたら嬉しいですね」。

 


WATARU
89年生まれ、東京出身のシンガー・ソングライター。父親の薦めで5歳より空手を習い、15歳でユースの日本代表に選ばれる。並行して小学校3年の時にサーフィンを始め、現在は国内有数のサーフ・スポットである千葉県の太東に在住。ヒップホップやレゲエに影響を受け、数年前から楽曲制作を本格的にスタートする。2015年頃よりコンスタントにMVをYouTubeへアップし、〈sports of heart〉や〈渋フェス〉にも出演。また、bayfmのラジオDJとしても活躍する。今年に入り、フル・バンドを率いてのライヴ活動を開始。6月に配信した先行シングル“おしえて神様”が話題を集めるなか、このたびファースト・ミニ・アルバム『おしえて神様』(Oceans)をリリースしたばかり。