
夢を諦めきれないオッサンの代表として歌う
――では、新作の曲ごとにコメントをもらいたいのですが、まず1曲目“Thank you for me”。アコースティック・ギターにパーカッションが絡む爽やかな曲ですね。
「最初は弾き語りでもいいかと思っていた曲で。なんで自分に感謝するかというと、20~30代の頃って本当に自分が嫌で。もっと楽しい時期かと思ってたのに、それは一部の人だけで自分は全然楽しくないし、何をやっても上手くいかないと感じていたんです。でも、いまこうして音楽を続けていられるのは、そういう時期があったからだろうなと思えるようになってきた」
――40代になると、20代の自分って他人みたいなものですよね。だから客観的に見られるようになる。
「そうですね。若い頃はひとりで曲を作って何日もかけてミックスして、でも何も結果が出ない、みたいなことの繰り返しだったんですけど、そうやって作り続けてきたからいまがあるというか。そういうふうに昔の自分を見ることができるようになってきたんです」
――続く“That's the way”も肯定的な曲ですね。〈夢を見るのもOK 諦めるのOK〉という。
「この曲は僕のなかでは(ジョン・レノンの)〈イマジン〉なんです。僕と同い年くらいで、夢や希望を持っている人もいれば、そんなものはないという人もいる。何が夢なのか、何に悩んでいるのかは人それぞれだと思うんですよ。いまだに夢を見たって、家族のことを考えて諦めるのだって、その人の自由であって誰からも強制されることじゃない。それについて〈いまさら夢だなんて〉とか、逆に〈もっと夢見ろよ!〉とか、そんなメッセージはどちらにしても窮屈なんです。犯罪がいいとは絶対的に言えないけど、彼らが何を思って罪を犯したのか、それは知りたいという気持ちがあるんです。ジョンの場合は宗教や人種といったスケールの大きな差別を歌っていたけど、僕はもっと身近な心の問題を歌ったんですね」
――そういうメッセージを、ファンキーでダンサブルなサウンドに乗せようと思ったのはどうしてですか?
「ロックで〈何をやってもいいんだぜ!〉みたいなことを歌うとパンクになると思うんですけど、僕はオフコースやあだち充が好きな少年だったので(笑)、パンクには行かないですよね。僕の美学としては、あえておちゃらけた感じにしてしまう。そのほうが切なさや虚しさが出ていいと思うんですよ」
――今回、アイドルの井出ちよの(3776)さんがコーラスに参加しているので、より虚しさが出ていますね。
「そうそう(笑)、おじさんが子どもに怒られているみたいな。3776のプロデューサーをやっている石田彰君が20代からの友達で、昔バンドをやっていた時にPAをしてくれたりしてたんですよ。その後、最近久しぶりにスカートのライヴでばったり会ったんですけど、そこに3776が出ていたんですよね。その時にこの曲を書いていて、最初は杉浦君に合いの手をやってもらおうと思っていたんですが、女性のほうがおもしろいかなとは思っていて。それも、若い子に説教されているような感じがおもしろいかもと。それでちよのさんに参加してもらおうと思ったんですよね」
――その演出が見事にハマって、アルバムのアクセントになる曲になっていますよね。3曲目“サーモスタット”は柴山さんらしいポップなサウンドです。
「これは杉浦君との共作で、最初にメロディーがあったのかな。メロディーを中心にコードを充てながら作った曲なんですが、やっぱりアルバムにポップな曲を何曲か入れたいと思っていて。それを意識して作った曲です」
――続く4曲目“uSOTSUKI”は、切ないメロディーが炸裂するバラードですね。
「僕のアルバムには、1曲はロッカ・バラードが入っていて、それがいいと言ってくれるファンの人もいるんですよ。だからそういう曲は入れたいと思っていて。そういうタイプの曲では『YELLING』の“一つの幸せ”を書いた時に手応えを感じたので、それと同じ8分の6拍子でこの曲を書いたんです。でも、出来上がった曲を聴くと、 “ラヴ・イズ・オーヴァー”とか“酒と泪と男と女”みたいな歌謡曲っぽい感じになっていて。そういうのはもともと好きなんですけど、ああいう感じに聴こえちゃうとマズいので、バンドのみんなにデカイ音を出してめちゃくちゃに演奏してもらったんです。そしたらこういう曲になったんですよね」
――なるほど、言われてみれば曲名もちょっと歌謡曲っぽいですね。5曲目“たとえばこんなレクイエム”では、父親との別れが歌われていますが、これは実体験を元にしているんですか?
「そうです。去年、親父が亡くなったんですけど、最後まで親父の気持ちがわからないままで。昭和の男というか、働いて稼ぐことがすべて、みたいな人でした。葬式で涙は出たんですけど、それが彼のための涙なのか、単なるセンチメンタルなのかわからなくて。だからこそ、父親との繋がりを何か形として残しておこうと思ったんです。葬式で、親父が好きだったフランク永井の歌を杉浦君がピアノで弾いてくれて、俺が歌ったんですけど、その時に〈これレクイエムだな〉と思って。それで、その時に描いていた曲を元にして作ったんです」
――別れの歌ですけどサウンドはポップですね。ロネッツの“Be My Baby”のリズムが使われていたりして。そういうところが柴山さんっぽいというか。
「どこか自分を客観的に見てるんでしょうね」
――6曲目“眠り姫”は?
「『シングル・マン』(76年)時代のRCサクセションのイメージですね。もやもやっとした音で、何が言いたいかももやもやしていて。『シングル・マン』は〈ジョンの魂〉と近いものを感じるんですよね。絶望感みたいなものとか」
――一転して7曲目“Now Is The Time”はガレージ・ロックっぽい曲です。
「バンド・メンバーからはGSみたいだと言われました(笑)。昔からこういう曲が出来ちゃうんですよね。ちょっとダサイな、と思ってこれまで封印してきたんですけど、もういいかなと」
――歌詞もスゴいですね。〈教えてやる 3つ数えろ 今頭を撃ち抜く時だぜ〉とか。
「セリフのところで笑っちゃうってみんな言うんですけど、僕は大真面目なんですよ(笑)」
――8曲目の“希望の橋”からアルバムの核心に入って行くような感じがします。ずしりと重みのある曲ですね。
「石本さん(『Fly Fly Fly』をリリースしたmao musicオーナー)と一緒にやろうという話を呑みながらしていた時に、〈若い連中のことなんて気にしなくていい。お前はオッサンの代表として歌えばいいんだ〉って言われたんですよ。それを聞いて、そうか、と思って。もしかしたら、夢を諦めきれなくて社会のなかで居心地が悪い40代のオヤジだちが、〈おまえらも仲間だからな〉と言われたら嬉しいんじゃないかと思ったんです」
――それが〈友よ濡れた背中にコートをかけてやる〉という歌詞になるんですね。
「はい。若い頃の夢って、○○になりたい、こういう物が欲しい、といったことだと思うんですが、40代だったら、マシな死に方したい、最後に暴れたい、とか、若い頃は夢や希望と言えないようなものを抱えて生きていたりする。そんな人たちに、一緒にそういう話をしようぜ、という曲なんです」
――そんな熱い想いとR&B風のサウンドが合っていますね。
「リズムの感じは細野(晴臣)さんの“恋は桃色”(73年作『HOSONO HOUSE』収録)なんですよ。ハネていてどっしりしてる。このメンツだったら、あのリズム感を出せると思ったんです」
大人のルールに反抗する〈ナチュラル・マン〉
――そんなアーシーな曲から、9曲目“Fly Fly Fly”では視線が一気に上昇して鳥の視線になる。凄くドラマティックな展開で、本作のクライマックスとも言える曲ですね。
「『YELLING』に“Headway”という曲があって、それは使われていない船がふたたび動き出すという歌詞で、自分のなかではいいストーリーが出来たと思ったんです。それで、今度そのストーリーを発展させるとしたら、同じ海原を行くよりはその上にある空をめざしたほうがいいんじゃないかと思ったんですね。それで主人公を何にしようかと考えた時に、空を飛ぶものといったら鳥だろうと。鳥も人間と同じ生き物だから、歳を取ればいつか空から落ちていく。人間も同じだなと思ったんです」
――というと?
「若い時は空を見て、あそこには凄いものがあるんだろうなと、不安ながらも空に憧れている。それでいつの間にか空を飛んでいて、空を見上げる余裕なんてなくて、常に羽ばたいて飛んでいなくちゃいけなくなっていた。そうなった時に、今度は落ちる場所を、終わり方を考えるようになるんですよね。それが鳥みたいだなと思って。楽曲は“Headway”みたいにソリッドでロックだけど、鳥だから浮遊感を出したいと思いました」
――ピアノの音色が羽ばたいている鳥のような飛翔感を感じさせますね。
「そういうイメージを杉浦君に伝えたんです。雲があって、雲の向こうに光がある。その光をめざして飛んでいる鳥のイメージでピアノのフレーズを作ってくれない?と言ったら、このピアノを弾いてくれたんです」
――その光というのは死の象徴なんでしょうか?
「死や無ですね」
――そんな光を抜けて辿り着いた最後の曲“Natural Man”は、自分自身に対するレクイエムみたいな曲ですね。自分の最期を静かに見つめているような美しいバラードです。
「“Natural Man”、つまり本来の自分ということですね。大人になると、社会のルールというより大人のルールが凄く気になるんですよね。その大人のルールに反抗する〈ナチュラル・マン〉というものを登場させて、最後に〈ナチュラル・マン〉と一緒に果てようと歌っている。つまり、46歳でこんなに尖って、何がやりたいのかよくわかんないんだけど、ひねくれて何かを訴えたがっている男のエピローグとしては、最後に大人のルールを無視する〈ナチュラル・マン〉と一緒に果てることが、このアルバムの一番最後としてはいいのかなと。それで、アルバムの冒頭に戻った時に“Thank you for me”で自分の肯定に繋がって、アルバムがループできるかなと思ったんです」
――大きなストーリー、流れのあるアルバムですよね。そこには、柴山さんのパーソナルな体験や想いが軸になっている。
「作っている1年くらいの間に、僕のなかでいろいろなことがあって、その都度感じたことを正直に曲にしてきたつもりです。昔は曖昧にしていたりごまかしたりしていたところもあったけど、やっぱり歳を取って開き直ってきたのかもしれないですね。いまさらカッコつけても仕方ないし、カッコつけてもカッコ良くならないし(笑)」
――柴山さんは自分のことをネガティヴだと言ったりしますけど、こうして精力的にアルバムも作っているし、イヴェントも精力的にやっている。ネガティヴでありながらポジティヴでもあるというか、ネガティヴさが音楽で反転して、ポジティヴで力強い曲が生まれているのがおもしろいですね。
「そう言っていただけると嬉しいですね。バランスは取れているのかもしれない」
――あと、歌声がますますソウルフルで艶やかになってきていますよね。それも魅力的で。
「〈柴山君、46歳になってよくそんな高い声が出るね〉と言われたりするんですけど、ずっと真面目に10代終わりぐらいからやっていた人は、この歳になったら喉を痛めていたり、だいぶ疲れてると思うんですよね。でも僕はずっと休んでいたので、まだ喉は大丈夫なんですよ。それに音楽活動を復活してからは月イチでライヴをしてるし、家でも練習しているので自然に喉が強くなってきていて」
――喉に関してはブランクがあったことが逆に良かった(笑)。
「おかげでまだ持つなって(笑)」
――最後にジャケットについてなんですが、今回、自画像にしようと思ったのは、自分自身と向き合って生まれたアルバムだという意識があったからでしょうか。
「そうかもしれない。楽曲が集まってきてアルバムの完成形が見えてきた時に、これまでの自分のアルバムのなかではいちばん〈ジョンの魂〉に近いというか、赤裸々な部分が多い気がして。そうすると、風景画とかだとアルバムに合わない気がしたんです。でも、写真はちょっと恥ずかしいし(笑)。だから、こういう感じがちょうどいいんじゃないかと」

――このアルバムは〈一幸の魂〉なんですね。
「どうだろう。これまでの作品のなかで、いちばん自分自身をさらけ出したアルバムなのは確かですね。でも、本当に僕の魂のすべてを描いたら、放送コードに引っ掛かりまくると思う(笑)。そういう意味では、ギリギリなところというか。見せたくないとこは見せてないし、かといって、綺麗事は言ってない。ちょうど良いところで収まったと思います」
『Fly Fly Fly』リリース・ツアー
日時:11月15日(火)
会場:名古屋・TOKUZO
開場/開演:18:00/19:00
出演:柴山一幸 (バンドセット)/malachite/そらしの
日時:11月19日(土)
会場:香川・高松RUFFHOUSE
開場/開演:18:30/19:00
出演:柴山一幸(ソロ)/扇田裕太郎
日時:11月20日(日)
会場:広島・KeMBY’S AM
開場/開演:18:30/19:00
出演:柴山一幸(ソロ)/扇田裕太郎
日時:11月21日(月)
会場:神戸・チキンジョージ
開場/開演:18:30/19:00
出演:柴山一幸with加藤ケンタ/扇田裕太郎
日時:11月25日(金)
会場:東京・月見ル君想フ
開場/開演:18:30/19:00
出演:柴山一幸(バンドセット)/ゲストあり