アイドル・シーンは百花繚乱、なんて状況はずっと続いている昨今ですが、いったいその魅力とは……?と思っている人もいたりいなかったり。Mikikiではあえていま、そんな素朴かつ初歩的な疑問に向き合うべく、タワーレコード代表取締役社長・嶺脇育夫にひたすら好きなアイドルについて語ってもらう(不定期)連載を始めます。これを読めば、なぜそこまでアイドルにのめり込むのかが妙に納得できると思いますのでご期待ください! また、社長が選ぶオススメのアイドル盤も紹介しますよ!
今回は連載初回ということで、社長がもっとも愛するアイドルのひとつ、さくら学院をフィーチャー! 頭の中はさくら学院のことでいっぱいなのではないかと思うほど、社長を虜にする彼女たちの魅力とはいったい何なのかを、実に冷静な目線で迫ってみました。正直、いろいろ話を聞いていたら、本気で好きになりそうになっているMikikiアイドル学部員です。
――初回ということで、今日は社長にさくら学院のことを一から訊きたいと思って来ました! 本当に初歩的な話なのですが、ざっくり……さくら学院とは何ですか?
「さくら学院というのは、〈学校とクラブ活動〉をテーマにした運営をしているグループ。さくら学院には3大イヴェントというのがあるんですが、義務教育課程修了と共にグループからも卒業するというコンセプトなのでまず〈卒業式〉というのがある。ただそれだとメンバーがどんどん減っていく一方なので、入れ替わりに新しいメンバー(転入生)が加入して〈転入式〉というのを毎年ゴールデン・ウィークにやっています。ちょうどこの間、5月6日に恵比寿ガーデンホールで2015年度の転入式がありました。それから秋に開催される〈学院祭〉を含めた3つが3大イヴェントで」
――本当に学校っぽいスタイルなんですね。
「この3月に、さくら学院から菊地最愛ちゃんと水野由結ちゃん(BABYMETALでも活動するMOAMETALとYUIMETAL)に加えて、田口華ちゃんと野津友那乃ちゃんの4人が卒業しちゃったんですよ。10人体制だったのが6人に減ってしまったので、今年はどういうメンバーが転入してくるんだろうと、人気メンバーが抜けたこともあってその注目度がいつも以上に高かったんですが、そこでなんと6人も入ったんです! つまり在校生と同じ人数の子たちが入ってきたわけです」
――その転入生たちはどこからやってくるんですか?
「アミューズキッズ※です」
※サザンオールスターズや福山雅治、Perfumeらが所属するプロダクション、アミューズの一部門で、主にローティーンのメンバーを抱える
――あ~、なるほど。
「アミューズキッズに所属している子たちから成るんですが、小学館発行の少女漫画雑誌『ちゃお』が毎年主催している〈ちゃおガールオーディション〉というのがあって、そこで〈ちゃおガール〉に選ばれた人がメンバーになってることが多い。ある意味『ちゃお』がなかったらさくら学院はなかったかもね。だから〈ちゃおガール〉になった子が、ゆくゆくはさくら学院に入るかも?みたいな」
――ある意味、登竜門的なオーディションなんですか。
「でも〈ちゃおガール〉全員がメンバーになるわけじゃなくて、そこからさくら学院のメンバーになりたい子がオーディションを受けるという流れで、今年も何人かいますね」
――〈ちゃおガール〉からもまた狭き門なんですね。※
※転入生は〈ちゃおガール〉からだけではない
「転入してくるのは在校生と合わせて偶数になる人数っていうのはわかってるんですね。なぜなら対になる振り付けが多いので、メンバーの人数は必ず偶数というのがまずあって。過去の全メンバー数でもっとも少なかったのが8人だったので、今年の場合だと(在校生が6人なので)最低でも2人は入ると。卒業生の抜けた穴を埋めるとなると4人かな……などいろいろ予想していて。さくら学院のファンのことを〈父兄〉って呼ぶんだけど、その父兄の皆さんがアミューズのウェブサイトにあるアミューズキッズ一覧を見て、誰が入るんだろうとチェックするんです」
――(一覧を見ながら)アミューズキッズって、すごくいっぱいいるんですね!
「アミューズは層が厚いんですよ。そこには各々の生年月日が書いてあって、さくら学院はだいたい小5から中1ぐらいまでの子がこれまでに入ってきてるから、その年代の子をチェックして。実は、以前は全員の体重も書いてあったんだけど、去年入った2人は体重が消えていたの。なぜかというと、さくら学院の子たちは体重を公表してないんですよ。だからあるヲタの父兄さんが、〈入るのはこの2人だ〉って予想したら本当にそうだった。それで、体重の表示が消えた子をみんな日々チェックしてたんですよ、僕も含めて(笑)」
―――えぇぇぇ! この人数からですか!?
「でも、体重の表示が消えた子がメンバーになる、という噂がネット上で流れたので、転入式の前にアミューズキッズ全員の体重表示が消されちゃった……ということもあって。アミューズさんとしては、今期は6人も入るということもひとつのサプライズとして演出したかったようなので、なるべくバレないようにしていたみたい」
――攻防戦ですね。
「そんなこんなで、誰が転入するのかということが例年以上に盛り上がったわけです。今年入った子たちは、小学生が4人も入った。これまでは中1までしか入れてなかったんだけど、今回初めて中2の黒澤美澪奈ちゃんという子も入って。この子は〈ちゃおガール〉としても、『大!天才てれびくん』ですごく有名だったので、結構サプライズだった。それから、藤平華乃ちゃんと吉田爽葉香ちゃんの2人が小5なんですよ。小5が入ったってことは、少なくとも2020年までは残ってるってことでしょ」
――そうなりますね……。
「オリンピックの年の3月まではいるってことだよね。もうね、安泰ですよ(笑)」
――ハハハハハ、安泰!
「あと5年は応援できるんだ、ってちょっとホッとした」
――父兄としては(笑)。
「父兄としてね。初代生徒会長だった武藤彩未ちゃんや、中元すず香ちゃん(BABYMETALのSU-METAL)、あとこの間卒業した菊地最愛ちゃんに水野由結ちゃんといった人気メンバーを含め、2010年に開校して最初のメンバー(〈TOKYO IDOL FESTIVAL〉で初めてライヴをやった時の面々)がこれで全員いなくなったんですよ。だから今年は本当の意味で〈新生さくら学院〉なんだよね」
――なるほど。それはいろいろ感慨深いものがあるんですね。
「磯野莉音ちゃんっていう2011年に入った子が今年、生徒会長になったんですよ。彼女がいちばん年上(中3)になったっていうのもまた感慨深くてね……」
――莉音ちゃんは、2011年からだいぶ身長も伸びてますね、約20cmも!
「いやいや、最愛ちゃんは22cmも伸びてますよ」
――アハハ……ちなみに、現体制でいちばん注目しているのはどの子なんですか?
「これまではずっと菊地最愛ちゃんと言ってきたんだけど……でもみんなカワイイからね。中3の白井沙樹ちゃんから箱推し(グループ全体を応援すること)を勧められたので、今年はグループ全体を応援します!」
――確かに、みんなヴィジュアルのクォリティーが高いですよね。個人的には新しく入ったメガネっ子(吉田爽葉香)が可愛すぎて……というのはともかく、そもそもの質問なのですが、数多いるアイドルのなかで嶺脇さんがさくら学院を推しているのはなぜですか?
「いちばんは、さくら学院のデビュー時に出演した〈TIF〉のステージを観てるんですよ。その時は〈うわ、小っちゃい!〉っていう感想で。小っちゃい子たちがいるグループを応援するというのはリスクが高いんだけど(笑)、でもその前から僕は中元すず香ちゃんが好きだった。すぅちゃんは可憐Girl'sっていう武藤彩未ちゃんと島ゆいかちゃんと3人で組んでいたグループを小学生の時にやってて、それが大好きだったからさくら学院に注目してたのね。すぅちゃんや彩未ちゃんがいるから応援しようと彼女たちを見続けてるうちに、さくら学院のバトン部(クラブ活動、詳しくは後述)の曲にCymbalsの沖井(礼二)さんが作った“Dear Mr. Socrates”という、沖井さんらしくてめちゃくちゃカッコイイのがあって。そのPVを見た時に出会ってしまったんですよ、菊地最愛ちゃんに。〈カワイイ子がいる!〉と思って。やっぱりアイドルを応援してて、箱推しと言いながらも誰かお気に入りの子ができると夢中になれるんですよ」
――それはゼッタイにありますね。
「感情移入できる子が1人でも出来ると、〈好き度〉が上がってもっと好きになるんですよね。それでかなりハマりました。あと、アイドルの握手会全盛の時代にさくら学院は握手会を1回もやったことがない。一方で、卒業した時とかに〈お渡し会〉というのがあるんだけどね。2010年の12月だったかな、MONO COMME CAとコラボ※して作った制服を売ったんだよ、5万円で。キケンですよ、強者しか買わないからね」
※2010年のデビュー・シングル『夢に向かって/Hello! IVY』の“Hello! IVY”がコラボ・ソングとして起用された
――ハハハ……。
「抽選だったんだけど、そこで当たった人が〈お渡し会〉で直接手渡ししてもらったりとか。だから、彼女たちと実際に接することがまずないし、近くで見ることもない。〈いま会える〉とか〈会いに行ける〉といったアイドルが全盛の時代に、あえて会えない、接触もできないというのがおもしろかった」
――オールド・スクールなアイドルっぽいスタイルですよね。手の届かない存在というか。
「それと卒業制度がある。必ず中3の3月に卒業するっていう儚さ……。武藤彩未ちゃんが卒業した2012年の3月に、さくら学院での彼女はもう見れないんだ……と卒業式の頃に気付いて。その時に、どうしてもっとライヴを観に行かなかったんだろうって、ちょっと反省したんだ。終わりがあるとわかっているのに、なんでもっと必死に応援しなかったんだろうと、父兄として反省したんですよ。それで、2012年度の中元すず香ちゃんの代では、1年後にはもう卒業するんだと思って全力でライヴを観まくった。BABYMETALも並行してやっていたんで、夏ぐらいからはほとんど毎週観に行っていて。あらかじめ決められた終わり、みたいな感じが儚いしアイドルらしいと思う。しかもCDを買えば握手できるわけでもない。そういうところが他と違っていて。あと、清楚なイメージを作っているじゃないですか」
――そうですね。
「あと、ライヴだけじゃなくて、学校なので授業もある。〈公開授業〉という。そこでは物理や生物といった授業を一流の先生を呼んでやるんですよ。それをわれわれはただ、観る。父兄参観みたいな。それを観に行くと、メンバーの人となりがわかったりするんだよね。特に好きな授業が、もう3年連続で年度末に〈歌の考古学〉という授業があって、メンバーが自分の生まれる前の曲を1曲選んで、その曲の意味や時代背景を調べてプレゼンするの。ひとり5分ずつ」
――へぇ~! それは普通に興味深いですね!
「プレゼンした後に、その曲をアカペラで歌う。由結ちゃんはシンディ・ローパーの“True Colors”を歌ってた。最愛ちゃんはKiroroの“未来へ”、山出愛子ちゃんはX Japanの“Forever Love”とか」
――ほほー。そのお題になる曲はみんな自分で選ぶんですか?
「自分で選ぶ」
――どの曲をチョイスするかというところの個性も楽しめるんですね。
「親の影響も大きいみたいだね、お母さんが今井美樹を聴いていて……とか。僕は行けなかった回なんだけど、すぅちゃんがTHE BOOMの“島唄”を取り上げた時がいちばん凄かったみたい、“島唄”は沖縄戦をテーマに書かれていて※、それを彼女が生まれ育った広島の原爆も絡めてプレゼンして、最後にこの曲を歌ったら、みんな心に響いて泣いちゃったらしい。だから父兄もためになる授業が多いんだよ」
※THE BOOMの宮沢和史がひめゆり学徒隊の一員だったおばあさんと出会い、聞いた話にインスパイアされて“島唄”が出来たという
――父兄としては、彼女たちを観るだけじゃなくて授業それ自体もおもしろそうですね!
「そうなんだよ。いまのアイドルのなかにあっては遠い存在に思えるけど、こういう企画で彼女たちの素の部分が見えるようにはしているので、感情移入しやすいっていうのはあるよね。さらに〈学院祭〉もあるからクラブ活動※も観られるし」
※さくら学院には、バトン部やクッキング部、帰宅部といったクラブ活動=派生ユニットがある。バトン部は〈Twinklestars〉というユニット名で先述の“Dear Mr. Socrates”を含むシングルを2枚リリースしており、2010年の活動開始時には武藤に加えて菊地最愛や水野由結らが在籍。ちなみに、BABYMETALはもともと重音部というクラブとして存在し、後に課外活動としてBABYMETALとなった