氣志團もレファレンスのひとつ
――ということで、何度かの来日公演を経て、今回晴れて日本デビューということになりましたね。
G「海外で活動したいという気持ちはありつつも、そこまで現実味はなく、夢みたいな話だったんです。でもそれが実際に日本デビューが決まったりして、すごく楽しみですね。ファースト・アルバム(2013年作『The Golden Age』)をリリースしてから海外でライヴをする機会が増えて、バンド自身も自信がついてきたというか、自分たちがやっていることに対して確信が生まれるようになってきたので、いまは日本デビューが決まって不安というよりは、日本でたくさんライヴをして自分たちのいいところを見せていきたい気持ちです」
ホンギ「期待感」
一同:(ザワ……ザワザワ……)
ナジャム「ホンギが突然喋りはじめた(笑)」
ハッサン「今日何時間もインタヴューをやってきたけど(Mikikiの取材が最後だった)、自分から何かを喋ったのは初めてです(笑)」
――そうなんですか! 光栄な一言をいただきました(笑)。今回の日本デビューEP『オリエンタルディスコ特急』は、2010年の初EP『Groove Official』に2013年の初作『The Golden Age』、近年のシングル群のなかから満遍なくチョイスされていて、収録は6曲ですが、ファンク全開な楽曲はもちろん、バンドのファニーな一面も押さえられているし、しっかりミディアムで聴かせるナンバーも入っていて、さまざまなスルタンの表情が窺える作品になっていますね。
ナジャム「ありがとうございます。自分たちがこれまでに発表したEPやアルバムの、ちょっと惜しいなと思っていたところを除外しつつ、シングルの音源はフィジカルで出したことがなかったので……といったことを踏まえて選曲しました。このタイミングで、曲によっては録音自体をやり直したり、ミックスをし直したりしています」
――録音自体もやり直しているものもあるんですね!
ナジャム「“Caravan”は僕の歌のパートを録り直して、“Sunday Night Fever”はすべて録り直しました。“Sunday Night Fever”はダンス・グループ時代に作った曲(『Groove Official』収録)なので、スタジオ音源といまのライヴでのヴァージョンとの差が大きすぎるため、それを近付けるために現編成で録音し直しました。“Weh-eh-eh-eh-eh (feat. Black Nut)”と“Tang Tang Ball”(いずれも2014年のシングル)は当初のままですが、それ以外はミックスし直しています」
――なるほど。“Caravan”はスルタンの楽曲のなかでも唯一ホンギさんがリード・ヴォーカルを執っているほっこりミディアムで、これが収められているのはポイントだなと思いました。
ナジャム「この曲は初めからホンギの歌が合うんじゃないかと思って、任せてみました※。これから新しいアルバムを作っていくうえで、ホンギが歌う比重を増やしていきたいです」
※ホンギはスルタンとは別でレスカというルーツ・ロック/スカ・バンドを組んでおり(2015年に解散)、そこではヴォーカルを担当。スルタン加入前まではレゲエやスカにどっぷりな人だった
――そして、シック“Good Times”のオマージュを思わせる今回の表題曲“Oriental Disco Express”は初の日本語詞曲として収録されています。この日本語詞を付けたのが綾小路 翔さんというのにも驚きましたが、ナジャムさんご自身以外の人が書いた詞で歌うということ自体も初めてだったのでは?
ナジャム「自分の書いた歌詞を歌うよりも良かったですよ。いまはちょっと考え方が変わってきているんですが、もともと僕は歌詞に重点を置く人間ではなかったんです。洋楽のポップを意味もわからず聴くのが常だったから、まずは聴くにあたって気持ちのいい歌詞というのが、詞そのものの内容よりも重要で。そういう意味で、今回の翔さんの歌詞はすごく耳馴染みが良かったし、自分も歌いやすかったです。初めて聴いた時から自分に合う感じがしました」
――翔さんの詞の付け方もまさにそういうやり方だったそうですね。原曲の詞を耳で聴いて日本語を当てていったと聞きました。なので、歌詞の意味は……。
ナジャム「意味がなさそうで、実はあるんじゃないかと思わせる感じがありますよね。言葉遊び的というか。〈人間50年~♪〉、ハハハハ(笑)」
――その歌詞がお気に入りなんですね(笑)。翔さんと直接会ってお話されたりは?
G「まだ会ったことはないんですが、韓国ではDJ OZMAで有名です。DJ DOC※の曲(“Run To You”)をリメイクしていたので(アゲ♂アゲ♂Every☆騎士)」
※94年に韓国でデビューした3人組ヒップホップ・ユニット。DJ OZMAがカヴァーした“Run To You”は2000年作『The Life... Doc Blues 5%』に収録された彼らの代表曲
――あ、そうか! そうですよね!
ナジャム「氣志團はダンス・グループ時代のレファレンスのひとつでもあったんです。サングラスに制服という衣装とか」
――あ~、なるほど! ここにきてようやく繋がったと。
ハッサン「翔さんには僕らがお金を積んでやってもらったわけではなくて、スルタンのコンセプトや曲を気に入ったうえで今回引き受けてくれたと理解しているので、氣志團ファンの人たちにも翔さんのオススメのバンドだと思って聴いてもらえると嬉しいです」
――そうですね。『オリエンタルディスコ特急』は日本語詞の新録曲があるとはいえ、スルタン自慢のライヴの定番曲を日本でお披露目……という形になりますが、来年にはオリジナル・アルバムの計画もあると聞きました。ちょうど1年前に取材させてもらった時は、新作はブラックスプロイテーション映画のサントラなどを意識したものをイメージしているとおっしゃっていましたが、それはいまも変わらず?
ナジャム「ちょっと変わりました(笑)。そういう考えも以前はあったんだけど、サントラの場合は映画があってこそ成立するインスト曲ですが、そこに歌を乗せることを考えると、ちょっとイメージ的に違うものになっちゃうから、いろいろしっくりこないものがあって。ブラックスプロイテーション映画のムード、ジャズのテンションといったところは活かしたいけど、リズムやヴォーカルは超現代的なサウンドでやってみたいです」
――超現代的……?
ナジャム「最新の音楽のなかでも未来を向いているような……編曲に関しては過去のスタイルを持ってきつつ、音色の部分ではいまっぽいところを出していきたいですね。なかでもギターのアレンジには、これまでの枠をはみ出るような、もっと大きな変化を加えられたらいいなと――とはいえ、それもまだ計画なので、やってみないとどうなるかわかりませんが(笑)。とにかくレトロなことだけをやるのには関心がないです」
――今回のEPには収められていませんが、スルタンの現時点での最新シングル“Neon Light”(2015年)ではバンドの変化をすごく感じました。これまでにないアーバンなスロウで、音色の部分でも一周回っていまっぽい感じがあるし、すごくいいですよね。
ナジャム「ありがとうございます。でも韓国ではあまり反応がなかったんですよ……。アレンジはとても上手くいったと思っているんですが、一方でメロディーはちょっと粗雑だったというか、散漫だったかなという反省点もある曲です。それに歌唱もちょっと……」
ハッサン「もうやめとけ」