自分の名において自分の意思によって、“もう一度、作る”ということ

 新垣隆の新作交響曲が名門デッカからリリースされる。ゴーストライター騒動から2年半、まさに「事実は小説よりも奇なり」とも言うべき展開だ。

 「東広島交響楽団という市民オーケストラの方より、結成10周年の記念演奏会のために、あらためて広島をテーマにした交響曲を書いてほしいというお話をいただきました。というのも、彼らは2013年に(佐村河内守名義で発表された交響曲)《HIROSHIMA》を演奏してくださっていたんですね。ゴーストライターの作品だと発覚した後に、こうして私に声をかけてくださったことが何よりもありがたく、嬉しかったです」

 それから1年半後の2016年8月15日、交響曲《連祷 -Litany- 》が東広島交響楽団によって広島で世界初演された。今回リリースされたCDは、その1ヶ月後の9月15日に福島で行なわれた東京室内管弦楽団による演奏会のライヴ録音である。

 「広島をテーマにした曲を書くにあたって、同時に5年前の福島で起こった原発事故のことも、私たち自身の問題として作品の中に取り込みたいと思いました」

新垣隆,東京室内管弦楽団 新垣隆:交響曲 《連祷》-Litany- Decca/ユニバーサル(2016)

 新垣自身の名で発表する新作交響曲。それならば無調の現代音楽であろうと予想した方も多いことだろう。ところが驚くべきことに、《HIROSHIMA》と同じく《連祷》もまた、ドラマティックな展開を見せる調性音楽である。

 「つまり“もう一度、作る”ということなんです。大きな規模のオーケストラ作品を作るという意味においては、《HIROSHIMA》も《連祷》も同じ、私の中では連続したものです。ですから、今回も同じスタイルで《連祷》を書きました。《HIROSHIMA》と違うのは、自分の名において、自分の意志によって、すべてを自分で引き受ける覚悟で作るということ。スタイルのうえでは何も変わりはありません」

 それにしても、なぜ。モダニストである新垣が、みずから調性音楽を書いたのだろう?

 「2年半前に“THE END”だった自分を、本当に多くの方々が助けてくださいました。《HIROSHIMA》は一時間もあるクラシックの交響曲など聴いたことのない方々に向けて書いた作品ですが、そういった方々にもう一度、オーケストラ作品を届けたいと思ったのです。ですから今作も、ストーリーを追うことができる“音によるドラマ”として構想しました」

 しかし新垣が今作で描いたドラマは、さまざまな暗示と暗号を孕んでいる。広島と福島、静止した時間と謎の描写、希望のテーマと不穏なベース音――その先にあるのは、果たして光か闇か。答えは聴き手に委ねられている。

 


LIVE INFORMATION

交響曲《連祷》- Litany - 世界リリース記念
新垣隆展 サントリーホールコンサート

○2017年1/23(月)18:30開場/19:15開演
会場:サントリーホール
出演:新垣 隆(指揮、p)東京室内管弦楽団
www.takashi-niigaki.com/