注目の演出家と作曲家が初タッグ!
小学生入門に贈る豪華音楽劇!!

 東京を世界的な芸術都市としてさらに飛躍させる、東京文化会館の〈Music Program Tokyo〉。その一環で〈創造性〉と〈参加性〉を柱とした音楽文化の活性化を目指す企画として注目を集めるのが〈シアター・デビュー・プログラム〉だ。これまでは児童向けのコンサートやワークショップを行ってきたが、開催当初からの参加者は近年、小学生や中学生へと成長。そこで新たなステップを踏み出す時期になった彼らに、一流の音楽家などを起用した青少年向けの舞台を贈ることを企図している。

 この企画は子供の成長段階に合わせて、小学生向けと中学・高校生向けの2種類を制作している。気鋭のオペラ演出家として活躍する久恒秀典を起用し、音楽監督および作編曲を人気作曲家の新垣隆が務める豪華布陣の音楽劇「シミグダリ氏または麦粉の殿」だ。今回は音楽担当の新垣が、劇の概要や公演に向けた意気込みを語ってくれた。

 まずは、「シミグダリ氏~」の原作やあらすじについて。

 「ギリシャの民話が原作で、『うるわしのセモリナ・セモリナス』という絵本にもなっています。ギリシャの美しい姫君が、数々の求婚を断って、自分で理想の恋人を作る。それが小麦と砂糖とアーモンドをこねて生まれた王子のシミグダリ氏でした。ところが、これを聞きつけた遠い国の悪い女王が王子をさらってしまい、姫は彼を取り戻すべく長い旅に出るというあらすじで、人間の欲望と苦難を乗り越えるハッピーエンドのファンタジーは子供から大人まで楽しめると思います」

 新垣と演出の久恒は今回が初共演だという。

 「フェニーチェ歌劇場などイタリアを中心に研鑽を積まれた素晴らしい演出家で、ご一緒できて本当に嬉しいです。久恒先生の舞台を拝見したことはないのですが、21年に藤原歌劇団で手がけられたプッチーニ『蝶々夫人』では、歌舞伎や新派を取り入れた“和”の斬新な演出が話題になったとのこと。今回の古代ギリシャを舞台にした作品にどんな創意を盛り込まれるか、とても楽しみです」

 出演陣には、3人の歌手とピアノ、ヴァイオリン、チェロが並ぶ。

 「イリヤ姫役はソプラノの梅津碧さんで、ウィーンで学んだ確かな実力派。幅広いレパートリーの持ち主でもあります。シミグダリ氏役はバリトンの菅原洋平さんで、兄でピアニストの達郎さんと菅原兄弟というユニットを組んでも人気だそうですね。金の女王役は元・宝塚の月影瞳さんなので、クラシックと宝塚の歌声がどんな化学反応を起こすか、ご注目ください。ヴァイオリンの岸本萌乃加さんとチェロの加藤文枝さんは、いずれも東京音楽コンクールで入賞した若き実力派。そこに私がピアノで加わったトリオで演奏をお届けします」

 では、新垣がどのような音楽を付けるのかを尋ねると次の答えが。

 「現段階で詳細は決まっていませんが、演出や演奏家に合わせながら、そこにふさわしい音楽を適宜。その多くは私の自作曲になると思いますが、クラシックなどの名曲を編曲して盛り込むことになるかもしれません。歌の部分ではオペレッタやミュージカルの要素も盛り込んでみたいですね。器楽の部分では、私が過去にピアノと弦楽器の共演で重ねた経験をいかせればと思います」

〈奇跡の音響〉と讃えられる東京文化会館・小ホールを舞台に、聴き手の小学生が鑑賞しやすいよう、約1時間の休憩なしで上演予定の本作品。新垣がそこに注ぐ情熱が並々ならないのは、自身の少年時代の音楽体験が影響しているという。

 「私が通っていた小学校の芸術鑑賞会で、オペラシアターこんにゃく座が公演を行ってくださって。ピアノと作編曲が林光さんで、小編成の器楽と物語の内容がよくわかる歌唱表現に衝撃を受けたのを今でもよく覚えているのです。私もこんにゃく座にはかなわないかもしれませんが、子供たちに喜んでもらえるよう、あの時の恩返しのようなつもりで頑張りたいです」

 


新垣隆(Takashi Niigaki)
1970年、東京生まれ。桐朋学園大学作曲科卒業。作曲を南聡、中川俊郎、三善晃の各氏に師事。2018年、桐朋学園大学講師に復職、2019年からは富山桐朋学園大学院大学特任教授を兼任、2020年、大阪音楽大学客員教授に就任、再び教育の分野において重責を担う。コンサートのための作品、催しやバレエ、映画、ゲームのための音楽など多数。近年では川谷絵音プロデュースによるポップスバンド〈ジェニーハイ〉にキーボードとして参加、幅広い層の聴衆を獲得。日本現代音楽協会、日本演奏連盟会員。

 


LIVE INFORMATION
Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム
音楽劇「シミグダリ氏または麦粉の殿」《新制作》

2023年8月6日(日)東京文化会館 小ホール
開場/開演:13:30/14:00
音楽監督・作編曲:新垣隆
脚本・演出:久恒秀典
曲目:クラシック音楽の様々な時代と作曲家の作品から選曲、一部新曲(予定)

■出演
イリヤ姫:梅津碧 シミグダリ氏:菅原洋平 金の女王:月影瞳
新垣隆(ピアノ)/岸本萌乃加(ヴァイオリン)/加藤文枝(チェロ)
https://www.t-bunka.jp/stage/18235/