カリフォルニアのエモ・シーンで鳴らしたピアノマンが、憧れのNYへ足を踏み入れた。そこに渦巻く欲望、夢、行き交う人生、光、影、甘い諦念、狂乱――眠らない街はストレンジャーの目にどう映ったのだろう……

 

NYの活気やエネルギー

 サムシング・コーポレイトやジャックス・マネキンのフロントマンとしてエモ・シーンで活躍していた頃も含め、〈カリフォルニア男子〉というイメージの強いアンドリュー・マクマホン。彼がNYに降り立ったらどんな音を鳴らすのだろう……。それを形にしたのが、2年半ぶりに発表されたこの2枚目のソロ・アルバム『Zombies On Broadway』だ。前作『Andrew McMahon In The Wilderness』のツアー中にNYを訪れた際、休日を利用して一気に書き上げたという楽曲で構成された本作は、湧き出るインスピレーションとアイデアをそのままパッケージしたかのような衝動とエネルギー、そして珠玉のポップセンスで溢れている。

ANDREW McMAHON IN THE WILDERNESS Zombies On Broadway Vanguard/ユニバーサル(2017)

 「NYの活気やエネルギーを感じながら作ったんだ」とアンドリュー。〈ブロードウェイのゾンビたち〉なるタイトルは、タイムズスクエアに詰め掛ける観光客たちの姿を見て思いついたそうだが、もちろん〈ゾンビたち〉と呼んだところで悪気があるわけじゃない。さまざまな人種を呑み込む摩天楼で、ユニークな人々と実際に出会い、あるいは物語を想像し、このアルバムを創造したとか。

 リード・シングルの“Fire Escape”もまさしくそんな一曲だ。MVには彼のパフォーマンスする姿と共に、タイムズスクエアや地下鉄、アパートの非常階段(=Fire Escape)や、そこから眺めた夜景など、NYらしい映像が次々と登場する。

 「NY滞在中は、現地に住むいろんな友達と夜の街へ繰り出したんだ。まるで映画のワンシーンのようにクレイジーな夜だったよ。そんな出来事を泊まっていたホテルの部屋でノートに書き出し、歌詞は完成した。そして翌日スタジオに入ったんだ」。

 ホテルの部屋で書かれてはいるものの、いかにもNYにありそうな、グラグラのアパートの非常階段に佇みながら愛や人生について語っている情景が、まざまざと浮かんでくる。低層住宅の並ぶブルックリンを歌った“Brooklyn, You're Killing Me”では、南カリフォルニア育ちの彼らしい、ブルックリンに対する複雑な愛情も綴られていて印象深い。

 

新しい地点に立っていたい

 バンド時代からのアンドリューを知る人には、NYが舞台というだけでも驚きのはずだが、本作に関わっている人たちの顔ぶれがこれまたサプライズだらけ。前回は共同プロデューサーのマイク・ヴァイオラ(元キャンディ・ブッチャーズ)とジェイムズ・フラニガン(スティフ・ディランズ)を筆頭に、こじんまりと仲間内だけで作業していた。ところが一転して、この新作では多数の共作者を起用。ONE OK ROCKやパニック!アット・ザ・ディスコ作品で腕を振るうCJバラン、同じくP!ATDやフォール・アウト・ボーイに楽曲を提供してきたジェイク・シンクレア、マルーン5やリクストンを顧客に抱えるロボポップことダニエル・オメリオ、ビヨンセやウィーザー仕事で有名なジョニー・コファーら、ヒット街道の真ん中で活躍する強者ソングライターたちが曲ごとにサポートしているのだ。さらにアルバム全体のプロデュースには、グレッグ・ワッテンバーグとデレク・ファーマンの2人が迎えられた。両者はグー・グー・ドールズやフィリップ・フィリップスのイメチェンに一役買ったコンビ。デジタルな音使いやプログラミング、エレクトロ・ハウス的なニュアンスが挿まれているのは、この2人のお手柄だろうか。〈ピアノ・ロック〉という概念に囚われない、機知に富んだ多彩なアレンジが施されている。もちろん、アンドリュー自身の選んだ方向性であることが大前提なようで……。

 「ジャンルに縛られないよう努めたからね。僕が創造するのはポップ・ミュージック。メロディーと現代主義が好きなんだ。子どもの頃から聴いてきた定番曲はもちろん、僕がいま受けている影響も反映させたアルバムを作りたかった。クラブ・ミュージックだったり、ロックや悲しいバラードだったり、その時々の気分に左右されるんだ」。

 コールドプレイを思わせるドラマティックな展開もあれば、ファンのように会場全体が大合唱に揺れそうな曲もある。アルバム全体を通じて昂揚感が圧倒的だ。ピアノの前に立ちはだかり、鍵盤を叩きながら熱唱している――そんなパフォーマンスの似合うアンセムが並んでいる。

 日本盤に表記されたアーティスト名はアンドリュー・マクマホン。でも、海外では前作のアルバム・タイトルと同じアンドリュー・マクマホン・イン・ザ・ウィルダネス名義で活動している。〈荒野のアンドリュー・マクマホン〉とでもいった意味合いだろうか。グループ活動を一旦精算し、LA郊外にあるトパンガ渓谷の小屋にこもって作った前作にはピッタリのネーミングだ。とはいえ、引き続きこの名前を使っているのは、NYも彼にとって荒野というわけか……なんて思ったりして。

 「このプロジェクトの使命を表しているんだよ。僕が曲作りをする時にめざしているのは、常に発見と冒険、そして不安な状態であること。つまり、いつでも新しい地点に立っていたいんだ」。

 顔が真っ二つに分かれたジャケット写真にも深い意味がありそうだ。

 「僕は時々こう考えるんだ。自分の人格がまったく異なる2面性を持っているんじゃないかってね。一方は地に根を張って平静を保っている感じ。もう一方は宇宙にいる感じ。その2つのパーソナリティーからこのアートワークを思いついた。その両方が調和し、一致しようとして生まれたのが、このアルバムだと思うんだよ」。 

 

アンドリュー・マクマホンが参加した作品。

 

アンドリューはどんな音をヒントにNYの街を表現したのか?

 出発点のサムシング・コーポレイトから見れば、〈ずいぶん遠くまで来たな~〉といった印象を受ける『Zombies On Broadway』。だけど、アルバム収録曲“Dead Man's Dollar”での大袈裟なほど分厚いコーラスを乗せたアンセミックな陽性ギター・ポップはファンの、“Island Radio”でのソング・オリエンテッドな爽やかEDMはアウル・シティの作品と直結するもので、そう考えるとアンドリューの軸はさほど変わっていないように思えたりして。というのも、ファンの前身であるフォーマットはかつてジミー・イート・ワールドのレーベルに在籍したグループだし、アウル・シティことアダム・ヤングはウィンザー・エアリフトの一員としてキャリアをスタートし、ピアノ・エモ・バンドのメイなどと縁の深い人物だから。アティテュードではなく、トレンディーな素材として2000年代初頭にパンク/エモを咀嚼してきた彼らとアンドリューが現在わりと近い地点にいるのは、むしろ凄くしっくりくることなのかもしれません。そして、本文の発言にもある通り「いま受けている影響も反映させた」音作りを素直に実践した結果が、DJスネイク的な浮遊ポップも、DNCEと並べて聴きたいパーティー・ファンクもアリの『Zombies On Broadway』というわけです。

 余談ですが、6~7月にビリー・ジョエルのスタジアム・ツアーでオープニング・アクトを務めるなど、USではさらなる飛躍が期待されているアンドリュー。何でも、彼が最初に観たコンサートはそのビリーのものだったらしく、今年の夏はアンドリューにとって忘れられない季節になりそうです。新作の日本盤ボーナス・トラックで聴ける弾き語り曲は、御大の影響をダイレクトに感じられるもの。現行シーンではア・グレート・ビッグ・ワールドの一人勝ち状態だった正統派ピアノマンの流れに、強力な人材が現れた気もします。

 

パンクなサウンドとノスタルジックなピアノの融合――アンドリューの偉大な発明を振り返ろう!

SOMETHING CORPORATE Leaving Through The Window Drive-Thru/MCA(2002)

〈ピアノが鳴るポップ・パンク〉を生み出した歴史的な初アルバム。アンドリューの作る曲が当時10代とは思えない大人びた風情を漂わせている一方で、これをパンクたらしめるのが、他でもないアンドリューから迸るエモーションやガムシャラ感というところもおもしろい。

 

SOMETHING CORPORATE North Drive-Thru/Geffen(2003)

前作を大幅に上回るチャート・アクションを見せたにもかかわらず、前作の“Punk Rock Princess”みたいなキラー・チューンに恵まれなかったせいか、いまひとつ存在感の薄い2作目。しかし、マイナー調の歌メロや、それを盛り立てる少しダークな音飾、激しいリズムなど、聴けば聴くほど味わいの増す一枚だ。

 

JACK'S MANNEQUIN Everything In Transit Maverick(2005)

当初はソロ・プロジェクトとして始動させたジャックス・マネキンのお披露目盤。エモい歌詞と鍵盤の美旋律を押し出した楽曲群がウケて、アンドリューは前バンド以上の成功を収めると同時に、ピアノ・エモ人気の火付け役に。ビター・スウィートな歌声も、アコーディオンやストリングスの音色も洒落ている。

 

JACK'S MANNEQUIN The Glass Passenger Sire(2008)

そもそもは発表するつもりのなかった前作が予想外にヒットしたため、ヘンなプレッシャーと闘いながら完成させたとか。“The Resolution”や“Swim”をはじめ、白血病を克服した体験もモチーフになっているせいか、生を謳歌するように声を張り上げていて、そのタフ&ラフな歌唱スタイルが感動的。

 

JACK'S MANNEQUIN People And Things Sire(2011)

ライヴを意識したバンド・サウンドとストレートなメロディーがウェルメイドな作風に実ったこのサード・アルバムでは、“Amy, I”ほか3曲をリライアントKのマシュー・ティエッセンと共作。〈エモ〉の枠組みを飛び出し、〈ネクスト・ベン・フォールズ〉な雰囲気がここでいっそう強まることに。

 

ANDREW McMAHON IN THE WILDERNESS Andrew McMahon In The Wilderness Vanguard/ユニバーサル(2014)

30代に突入し、新たな一歩を踏み出したアンドリュー。自伝的な歌詞こそメランコリックなものも目立つが、生ピアノからシンセに比重を高め、鳴らされるのはキラキラしたエレポップだ。影響源としてパッション・ピットらの名前を挙げている。