フォレスト・スウォーズことマシュー・バーンズは、2010年に発表された最初のEP『Dagger Paths』でFACT誌のアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得。同時期にブレイクしたジェイムズ・ブレイクやマウント・キンビーと共に、時代を背負うプロデューサーとして早くから注目されてきた。続く2013年の初フル作『Engravings』も、Pitchforkなど海外の主要メディアから〈2010年代を代表するエレクトロニック・ミュージックの金字塔〉と絶賛されている。そんな彼が、このたびニンジャ・チューンに移籍。先日発表された4年ぶりのニュー・アルバム『Compassion』で、異端の音楽性はネクスト・レヴェルに到達しているその類い稀なセンスを、まずは収録曲の“The Highest Flood”で確かめてみてほしい。

不穏に揺れ動くビート、時間軸を歪めるようなヴォイス・サンプル、幽玄に響くサックス――かつてのトリップ・ホップを彷彿とさせるヘヴィーな音像は、〈太古からやってきた新種のシネマティック・サウンド〉とでも形容できるだろうか。この衝撃作はどのようにして生まれたのか? インタヴューでの発言を交えつつ、制作背景を掘り下げていきたい。

FOREST SWORDS 『Compassion』 Ninja Tune/BEAT(2017)

 

〈暗黒の申し子〉だったデビュー当初 

「初めてのEP『Dagger Paths』が完成した時、自分の呼び名が必要だった。EPを聴き直しているうちに、音に合う言葉が2つ浮かんできたから、それをエイリアスにしたんだ」

デビュー前夜について、マシュー・バーンズはこう述懐している。確かに、同EPにおけるアンニュイで神秘的なムードや、朽ち果てた建築物を思わすテクスチャーは〈FOREST SWORDS〉という呼称がしっくりくる。出口のない〈森〉を彷徨うように、深く沈み込んでいくサウンドスケープは、すでにこの時期から彼のトレードマークとなっていた。

2010年のEP『Dagger Paths』収録曲“Miarches”

その後、『Dagger Paths』の成功を経て、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルとの共作曲“Cold Nites”などR&B/ヒップホップの楽曲も手掛けるようになったマシューは、2013年の『Engravings』で最初のピークに到達。同作のリリース元であるトライ・アングルは、当時の一大ムーヴメントであるチルウェイヴから派生した、ゴシック×インダストリアルな変種のビート・ミュージック=ウィッチ・ハウスを象徴するレーベルとして名を馳せており、そこからフォレスト・スウォーズも〈暗黒の申し子〉としてのパブリック・イメージを確立していった。

『Engravings』の混沌とした音響デザインや、トライバルで呪術的なビートは、同じく2013年にソロ作『Excavation』をトライ・アングルからリリースし、最近はビョークやゴールドフラップの最新作にも携わっているハクサン・クロークのほか、アンディ・ストットとデムダイク・ステア、地下レーベルのブラッケスト・エヴァー・ブラックなどが牽引したポスト・インダストリアルのシーンと共振する部分も多い。また、サイケやポスト・ロック、ドローンなど多彩な要素が溶け合うなかに、フォーキーな詩情をほんのり忍ばせているあたりは、UK・ウィラルの出身であるマシューの英国的なエッセンスを感じさせる。

2013年作『Engravings』収録曲“The Weight Of Gold”

ハクサン・クロークの2013年作『Excavation』収録曲“Miste”