マリはワスルの至宝、世界で最も知られるアフリカン・シンガーのひとりウム・サンガレの最新作はかなり実験的。今まで通りベースはワスルの音楽。深みのある塩辛い歌声も絶品。乾いた独特な音色の弦楽器カマレ・ンゴーニも登場する。しかしウムとコーラスの隙間で蠢き痙攣するNo Wave的ノイジーなギター、随所で用いられるヴォーカルやコーラスの残響処理、シンセ等どれもにこれまでの作品にはなかった音響を意識した試みがみられる。チリー・ゴンザレス作品もリリースするNo Formatへの移籍とはいえこんなサウンド出来上がるとは思ってなかったがロック方面から入った者としてはかなり刺激的である。

 


マリの国民的シンガーによる5年ぶりのニュー・アルバムは、ゴンザレスのピアノ作品などを送り出してきたフランスの優良レーベルから。西アフリカの伝統音楽とモダンなアンビエント・テイストとの融合が無理なく実践されていて、これまでは泥臭く庶民的なイメージが先行していた主役のヴォーカルの、しなやかで洗練された美しさを堪能することができる。白眉はトニー・アレン客演のファンキーな“Yere Faga”。