奥行きのある音像、エスニックな香りも漂う洋楽的なメロウネス、心地良いグルーヴ、そして繊細にして力強い日本語の響き——『LIFE SAVER』はきっと誰かの力になる

 R&B~ソウル、ヒップホップなどのエッセンスをナチュラルに内包したトラックのなかで、濃密なグルーヴを備えた心地良い歌とギター、そして、日常のなかで生まれる繊細な感情、未来に対する希望を描き出したリリックが広がる。23歳のシンガー・ソングライター、ReNのセカンド・アルバム『LIFE SAVER』は、自身が「これがReNというアーティストです、ということが初めて表現できた」と語る充実作となった。ちょうど1年前に発表したファースト・アルバム『Lights』以降も全国各地でループ・ステーションを駆使したライヴを展開。ONE OK ROCKのツアー〈Ambitions Japan Tour〉への参加、さらに、3月に先行配信した“Life Saver”が好セールスを記録するなど、アーティストとしての経験を着実に重ねてきたReN。さまざまな出会いから生まれた新たな表現は、今回の新作にも強く反映されているようだ。

ReN LIFE SAVER Booost music(2017)

 

聴いてくれた人の〈Life Saver〉に

──セカンド・アルバム『LIFE SAVER』が完成しました。前作『Lights』はどこか内省的な雰囲気のある作品でしたが、今回のアルバムはサウンド、リリック、歌を含めて、開放的な広がりを感じさせる作品という印象を受けます。

「『Lights』はそれまでに書いてきた楽曲を集めて、フォト・アルバムを作るような感覚で作り上げたアルバムだったんです。ギターと歌だけで成立している曲も多かったし、自分自身の実体験、スポーツをやっていた時の感情を曲に落とし込んでいく感覚もあったから、確かに一人の世界だったかもしれないです。今回はそうじゃなくて、まず〈シンガー・ソングライターとして、どういう作品を出すべきか〉をすごく考えたんです。前作のリリース以降、ライヴを重ねるなかで、いろんな人や音楽と出会って、自分の考え方も自然と変わってきて。〈前作と違うことをやろう〉と狙っていたわけではなく、音楽に没頭して、ひたすら向き合った結果なんです」

──確かに新しい出会いは多かったですよね。ONE OK ROCKのツアーに参加したり、エド・シーランとTVの特番で対談したり。

「ビックリですよね(笑)。エド・シーランは音楽を始めるきっかけをもらったアーティストだし、〈音楽にはこんなに人を動かす力があるんだ〉と教えてもらった人なんです。いつか本人にそのことを伝えたいと思っていたから、それが叶ったことはすごく嬉しくて。ONE OK ROCKのTakaさんとの出会いもすごく大きかったです。中学の頃から大好きなバンドだったんですけど、ONE OK ROCKのライヴには観客に元気を与える力がすごくあるし、〈エネルギーを放出することが大事なんだ〉ということを改めて実感できて。自分のライヴもそういうものでありたいんです」

──タイトル曲の“Life Saver”からも〈聴く人の力になるような音楽を作りたい〉という意志が感じられました。

「“Life Saver”は最後のほうに出来た曲なんです。前の『Lights』は、〈アスリートの夢を諦めたけど、音楽の世界で光を感じることができた〉という感情から生まれたタイトルだったんですけど、そこから1年経って、改めて〈何で音楽をやってるんだろう?〉と考えたことがあって。そこで感じたのは〈いろんな音楽から力を与えてもらってるんだな〉ということだったんです。エド・シーランとかコールドプレイとか、そういう人たちの音楽が自分にとっての〈Life Saver〉だったんだなって思ったし、今度は自分の作る曲が聴いてくれた人の〈Life Saver〉になってくれたら嬉しいなって。そういう思いで作りはじめたのが『LIFE SAVER』なんですが、エド・シーランから教えてもらったことも活かされてるんです。〈曲作りに行き詰まったら、ギターを持たないで作るのもいいよ〉って。まずiPadで音を積み重ねて、ループ・ステーションでリズムを組んで」

──トラックを先行させたわけですね。

「はい。その音を聴きながら〈夜の景色……高速道路かな。隣に女の人が乗ってるな〉とかイメージを膨らませて。そうやって作ってるうちに〈新しい世界への扉が見つからずにもがいている人を救い出す〉というテーマの曲になっていったんです。この曲に限らず、今回のアルバムに入っている曲を並べてみると、すべてがそういうテーマになっていたんです。最初から決めていたわけではなくて、手探りで進んでいるうちに全部が繋がったというか」

 

自分が想像していた以上のサウンド

──R&Bやソウルのテイストが感じられる1曲目“What I'm Feeling”も印象的でした。本作における音楽的な変化を象徴する楽曲だと思います。

「こういうテイストの曲はもともと大好きなんですけど、いままでは上手く表現できなかったんです。“What I'm Feeling”はギター一本で作りはじめたんです。最初からフォークな感じではなくて、R&Bとかソウル・ミュージックの感じでやりたいなと思って。形にするまでに時間がかかりましたけど、最後は自分が想像していた以上のサウンドになりました。海外の音楽のテイストもあるし、ゴスペルみたいな雰囲気もあって。今回の全体的にアルバムはリズムを重視しているし、身体が自然と揺れるような感じになればいいなと思っていたんです。もちろん歌詞もしっかりこだわってます」

──“What I'm Feeling”もそうですが、リズムを強調してたり、洋楽的なメロディーであっても、しっかり日本語の歌が聴こえてきて。それもReNさんの特徴ですよね。

「僕はずっと海外の音楽を聴いてきたし、自分のなかの音楽のイメージは基本的に洋楽なんです。でも、やっぱり日本人だし、日本語を大事にしたいんです。意味だけではなくて響きも重要だし、人間らしいメッセージもちゃんと伝えたい。それを洋楽っぽいメロディーと共存させたいんです。それが出来たら自分らしい音楽になるんじゃないかなって。ギターもめちゃくちゃ練習してるんです。それは上手くなりたいというよりも、リズム、グルーヴを含めて、気持ち良く歌いたいからなんです。ギターって、弾いてる人の人間性が出るじゃないですか。すごく温かい楽器だし、自分が表現したいことにはいちばん合ってるんです」

──ソングライティング、サウンドメイク、ギターと歌。どこを切ってもReNさんの個性が込められたアルバムになりましたね。

「そうですね。この一年、目に見えるもの、掴めるものは全部自分のなかに採り入れて。その結果、〈これが僕です〉と自信を持って言えるアルバムが作れたんじゃないかなって思います」

 

ReNの2016年作『Lights』(Booost music)