人生のなかで生まれる葛藤や絶望、決して消えることのない希望を、リアルな言葉で紡ぎ出す歌。そして、アコギと声を軸にしながら、エレクトロ、アンビエント、ポスト・ロック的なアプローチを施したサウンドメイク。シンガー・ソングライターとしての真っ当な姿勢と斬新な音像への意欲を共存させた、新しいスタイルを持つニューカマーの登場だ。ファースト・アルバム『Lights』でデビューを飾った22歳のアーティスト、ReN。彼が本格的に音楽活動をスタートさせたのは2年前。そのきっかけは、10代のすべてを懸けてめざしていた夢を諦めたことだったという。
「ずっとスポーツ(カーレース)をやってたんですけど、ケガをしたこともあり、続けられなくなったんですね。その時期は絶望しかなくて〈いまの俺は何なんだ?〉ってすごく考え込んでしまったんですが、そのときに自然と手にしたのがギターだったんです。ギターは小学校2年のときから弾いていたんですけど――きっかけは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観て、〈音楽ってすげえ! ギターってカッコいい!〉と思ったことだったんですよ――久々に弾いてみたら、自然と言葉がワーッと出てきて。人に聴かせるなんて考えてなかったし、曲になるかどうかもわからなかったけど、とにかく自分の気持ちを吐き出すことが必要だったんですよね。そのなかで出来上がったのが“生きる”という曲。これは自分にとってのパワーソングなんです。歌うことで自分が強くなれる曲を、自分で作らなくちゃいけないと思ったんですよね」。
10代の頃、レーシング・ドライヴァーになる夢を叶えるために単身で暮らしたイギリスでの思い出を綴った“Sheffield”、高校時代の切ない恋愛をテーマにした(本人いわく「初恋が甘酸っぱいなんてウソじゃないか!という歌(笑)」)“時間切れ”。その後もReNはみずからの人生を振り返りながら、そこにあった光景や想いを歌にしていった。その最初の到達点と言うべき楽曲が、アルバムのタイトル・チューン“Lights”だ。〈僕が光になればいい 君が光になればいい〉というフレーズは、挫折を乗り越え、シンガー・ソングライターとして生きていくことを決意した彼自身の希望の在り方を示している。
「去年、年間100本のライヴに挑戦したんですが、そのなかで〈もっともっとパワーを放出できる人間にならなくちゃいけない。まだまだ足りない〉と実感したんですね。この先もキツいこと、苦しいことがあるだろうけど、ステージの上で自分だけの輝きを放っていきたい。そういった自分自身へのテーマを形にしたのが“Lights”という曲なんです」。
アコースティックな手触りと壮大かつ幻想的なサウンドスケープを融合させた“Illumination”、アコギの弾き語りを煌びやかなエレクトロニックな意匠で包み込む“Stars”など、楽曲の世界観を増幅させるようなアレンジメントもReN自身の手によるもの。そこにはコールドプレイやエド・シーランなど彼の音楽的ルーツの影響も感じられる。
「僕にとってコールドプレイは耳を通して景色を見せてくれたバンドで、自分の音楽にもそういう要素を採り入れたい思っているんです。ライヴではループステーションという機材を使っているんですが、それはエド・シーランの影響。ギター1本で聴かせることも大事だけど、プラスαの音が欲しいんですよね。サウンドのイメージは曲を作っている時点ですでに存在しているんですが、そこから自分でアレンジを作り上げて、ライヴで歌いながらさらに音を足したり引いたりして完成に近づけていくのが僕のスタイル。アルバムに関しては、すべての音に自分の意志を込めたいと思って作りました」。
強い説得力に溢れた歌唱をイマジネーションに溢れたサウンドメイクと共に描き出すReN。アルバム『Lights』で示したアーティストとしてのポテンシャルが今後、さらに大きく花開くことを期待したい。
ReN
94年生まれ、東京出身のシンガー・ソングライター。家族の影響で幼少期から自然と音楽に親しんで育つ。小学2年生からギターを始めるものの、12歳で始めたレーシング・カートをきっかけに、モータースポーツの道へ。16歳から英国に移住してレース活動を続けていたが、2014年の事故をきっかけにレーサーの道を断念する。2015年から音楽活動をスタートし、5月に初音源集『Ikiru』を発表。アコースティック・ギターとループステーションを駆使するスタイルで年間100本以上のライヴを行い、〈FUJI ROCK FESTIVAL〉や〈MINAMI WHEEL〉などのフェス/イヴェントにも出演。このたび初の全国流通盤となるファースト・アルバム『Lights』(booost music)をリリース。