海外での楽曲制作から得た新たなインスピレーション。これまで以上のエッジとこれまでとは異なる温かみ、新作に在るのはどちらも彼のベーシックで……

そのときの衝動に従って

 昨年8月にリリースされたEP『存在証明』は、タイトル通り、ReN自身のアイデンティティーをくっきりと刻み込んだ作品だった。アコースティック・ギターと歌を軸にしながら、電子音楽やヒップホップのテイストを採り入れた音楽性、そして、みずからの経験や感情を色濃く映し出しつつ、心地良いグルーヴを伴った歌へと帰着するソングライティング。「クォリティーを上げること、新しいことにトライすることはもちろん、とにかくいまの自分を切り取った作品にしたかった」という『存在証明』は、エド・シーランやコールドプレイといったUKのポップ・ミュージックに影響を受けて音楽活動を始めた彼が、確固たる独創性を掴み取った作品だったと言っていいだろう。

 約5年に渡る活動のなかで、ReNはループ・ステーションを使ったライヴ・パフォーマンスを土台に、表現の幅をさらに拡大し続けてきた。今年4月にはLAで制作した楽曲“HURRICANE”をリリース。春に行ったワンマン・ツアーでは大阪BIG CAT、新木場STUDIO COASTと自身にとって最大規模の公演を成功させるなど、大きな飛躍を遂げた。そして、今回届いた新作EP『Fallin'』には、この1年のなかでトライした新たな制作スタイルや、活動の規模の広がりと共に生じたモチベーションの変化などが強く反映されている。

ReN Fallin' ワーナー(2019)

 「『存在証明』と比べると、かなりテイストが変わっている曲が多いかもしれないですね。“HURRICANE”“Hot and Cold”はアメリカで制作したんですが、自分のメロディーラインやサウンドのクォリティーも、環境を変えることでさらに追求できたんじゃないかなと」。

 タイトル・トラックの“Fallin'”は、去年のクリスマスの時期に書いたというラヴソング。オールディーズを想起させるノスタルジックなメロディーと、〈大切な人と時を重ねていきたい〉という思いをストレートに描いた歌詞がひとつになったこの曲は、聴く者を選ばないスタンダード・ナンバーの風合いを帯びている。

 「“Shake Your Body”(『存在証明』に収録)や“HURRICANE”みたいに音圧とビートが強くて、エッジーな世界観もReNのひとつのチャンネルなんですが、“Fallin'”のような温かい雰囲気の曲も好きなんですよね。ギター一本で歌うスタイルも自分の持ち味だし、ちょっとレトロでオールディーズを彷彿とさせる曲だけど、いまやると逆にオシャレかなって。去年のクリスマスのちょっと前に出来た曲だから、歌詞にはそのときに見えていた風景がそのまま入ってます。いろんな時期に聴ける曲にすることもできたんだけど、あえてそのときの衝動に従ってみたいなと」。

 海外の古き良きポップスもまた、ReNのルーツ。“Fallin'”のバックグラウンドには、幼少期の音楽体験も影響しているという。

 「〈この曲のインスピレーションのもとはなんだろう?〉と考えたんですけど、そのとき思い出したのが小さいときに好きだった映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だったんです。1955年の世界で、主人公のマーティ(マイケル・J・フォックス)がプロムで演奏するシーンがあって、その曲が“Earth Angel”というバラードなんですよ。あの曲の雰囲気と自分のテイストが混ざったものが、“Fallin'”なのかなと。同じシーンで演奏される“Johnny B. Goode”も大好きだったし、音楽とか車とか、男の子のロマンが詰まった映画だなと思いますね」。

 

新たなインスピレーション

 2曲目の“HURRICANE”は、ナッシュビルで制作された楽曲。ReNのベーシックなスタイルである〈アコギと歌〉を軸にしながら、現地のプロデューサー/トップライナー/トラックメイカーを交えたセッションによって、ロックとEDMが混ざり合ったハイブリッドなサウンドが実現している。初めての海外におけるコライトは当然、ReN自身の創造性を大いに刺激したようだ。

 「これまでは自分のなかに流れている音と言葉を曲にして、それをブラッシュアップしてきたんです。そのやり方は自分の真骨頂だと思ってます。ただ、今回はもっと音楽的な引き出しを増やしたかったし、今のメインストリームで流れている音楽を肌で感じてみたくて。そのヒントを探るためにも、今回はアメリカで制作してみたかったんですよね。もともとはUKの音楽が好きなんですが、いまのメインストリームでヒット曲を生み出している街のひとつはLAだし、現地の音楽人たちと一緒に音を奏でることで、新しいインスピレーションが生まれるんじゃないかと。3人でスタジオに入ってセッションしたんですが、すごくおもしろかったですね。“HURRICANE”は〈この前、悲しいことがあったんだけどさ、聞いてよ〉という話から入って。そこから言葉を紡ぎ出して、ギターのフレーズを決めて、〈こういうサウンドはどう?〉といろんなアイデアを出し合って。それを俯瞰で眺めたりしながら、歌とギターに景色を付けていくという感じでしたね。その場で生きた言葉やメロディーを出すことでお互いにフィールできると実感したし、音楽の〈楽〉の部分を利用してネガティヴな感情をポジティヴに変えるサウンドが作り上げられたと思います」。

 

リスナーとの一体感

 また、歌詞においても新たなトライアルが。3曲目の“Love You”はレゲエ風のリズム、穏やかで切ないメロディーと共に〈大切な人に対する思い〉を素直に綴ったナンバー。その根底には、〈リスナーと一緒に温かい雰囲気を作りたい〉という願望もあるという。

 「ラヴソングに聴こえるように書いたんですけど、大切な仲間に対する気持ちだったり、友情を確かめ合える歌でもあるなと思っていて。年齢と共に状況は変わっていくけど、絶対に変わらないものもあるという。ライヴで身体を揺らして、ニコニコしながら歌える曲にしたかったんですよね、“Love You”は。いままでは自分のつらい思い出だったり、ネガティヴをポジティヴに変えようとする歌が多かったんですが、自分の音楽を聴いてくれる人が増えてきて、リスナーに寄り添えるような歌だったり、ライヴで一体感を生み出せる曲も作りたいと思うようになったんですよね」。

 そして、“Hot and Cold”は、恋愛中の繊細な感情の変化を描いた楽曲。フォーキーな旋律とEDM系のトラックが融合したこの曲で、ReNは初めての全編英語詞に挑戦している。

 「いままでは英語と日本語を混ぜることが多かったんですが、LAで制作したときに、〈無理に日本語を入れることはないな〉と感じて。“Hot and Cold”は、〈お互いに好きでも、気持ちが熱くなることもあれば、クールになることもあるよね〉という内容だったから、日本語で歌うと意味が強く出すぎちゃうかなと思ったんですよね。英語詞にすることによって、涼しげなムードのなかで、生々しいことを表現できたかなと」。

 11月末からは、EP『Fallin'』を携えた全国ツアーがスタート。「一人の世界観を見せつつ、お客さんとも一体になれるツアーをめざして、ストイックに追求したいです」と語るReNは、2020年以降も表現の幅を広げていくことになりそうだ。

 「音楽を本格的に始めて5年。海外での制作にももっとトライしたいし、そのトライの結果もすごく楽しみです。自分の歩いてきた道を忘れずに、大きな気持ちでより良い音楽を作っていきたいですね」。

 

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