(C)Astrid Ackermann

合唱芸術の最高峰、スウェーデン放送合唱団による“人声の鐘”の響き

 北欧は、ハイレベルな合唱団が割拠する地域として知られている。スウェーデン放送合唱団は、その中でも横綱級の実力と歴史を誇るスーパー合唱団である。今回の来日公演のメインプログラムは、20世紀後半の合唱作品の至宝ともいえる、シュニトケ『合唱のための協奏曲』。ロシアの合唱曲に限って言えば、20世紀前半を代表する作品がラフマニノフ『徹夜祷』だとすると、20世紀後半を代表するのが、シュニトケのこの作品であると、私は断言する。

 『合唱のための協奏曲』と銘打っているものの、実際は、ショパンのピアノ協奏曲などの器楽作品とは全く別のジャンルの音楽であり、「合唱コンチェルト」と呼ばれるロシア正教の伝統的な無伴奏合唱のスタイルを下敷きとして作曲されている(ロシア正教の音楽では楽器の使用が禁じられている)。8声部の書法を基本とし、場合によっては16声部以上に分かれることによって、オーケストラを彷彿とさせる分厚い響きが人声だけで実現される。4楽章に分かれ、40分を要する堂々たる音楽は、むしろ「合唱シンフォニー」と改題すべきかもしれない。精緻なアンサンブル能力はもちろん、合唱団員一人一人の高い技術も求められる難曲であり、スウェーデン放送合唱団のような世界最高峰の合唱団でこの作品を聴けることは、この名作の真髄を味わう、格好のチャンスと言えるだろう。

Photo Kristian Pohl

 シュニトケは、古典、前衛、軽音楽など様々な作曲スタイルをコラージュのように混ぜ合わせた「多様式」の作風で知られる。こうした傾向の後退した時期に作曲された『合唱のための協奏曲』では、基本的に調性感のはっきりとしたハーモニーが支配的だ。しかし、その音楽の運びは独特きわまりない。一聴して耳につくのが、短いメロディの呪術的な繰り返しだ。もちろん、単純に繰り返すだけではない。転調や音域操作で響きを変化させる伝統的な手法はもちろん、「人力エコー」のようにメロディを重ね合わせたり、一音一音を引き延ばしたりすることで、調性的なメロディをトーンクラスター風の響きへ変容させる20世紀的な手法まで、新旧様々なアイデアが投入されている。こうして生まれた変幻自在の音響はシュニトケならではのものと言えるだろう。

 第3楽章までの哀切をきわめる音楽に対し、終曲の第4楽章では一転して天国的な響きが空間を満たす。折り重なるように歌われる、最後の「アミン(=アーメン)」の長三和音は、まさに人声による鐘。タケミツ メモリアルの美しい残響の中で、この「声の鐘」がどう鳴り響くのか、今から楽しみだ。

 


LIVE INFORMATION

スウェーデン放送合唱団
○9/14(木) 19:00開演
会場:東京オペラシティ  コンサートホール:タケミツ メモリアル
出演:ペーター・ダイクストラ(首席指揮者)スウェーデン放送合唱団
曲目:ペルト:勝利の後(1996/98)/スヴェン=ダヴィッド・サンドストレム:新しい天と新しい地(1980)/ペンデレツキ:ベネディクトゥス(1993)/ペンデレツキ:アニュス・デイ(1981)/ヴィカンデル:すずらんの王様/シュニトケ:無伴奏合唱のための協奏曲(1984~85)

www.operacity.jp