(C)2017 NHK・えふぶんの壱

ヨーロッパの国々を独特の感性でめぐる鉄道旅

 駅を出ると、次の駅に着くまでひたすら大自然の中を進む列車。日本では絶えず家や工場が並び、車窓から街の切れ目を見つけることが難しいから、ヨーロッパの鉄道では、まずこの美しい景色の流れに心を奪われる。

関口知宏 関口知宏のヨーロッパ鉄道の旅 ハンガリー、クロアチア、スウェーデン、ポルトガル編 NHKエンタープライズ(2017)

 さて、鉄道の旅といえばこの人、関口知宏が行くヨーロッパ。今回はハンガリー編、クロアチア編、スウェーデン編、ポルトガル編がDVD化された。珍味を食したり現地の人々と一緒に踊るなど旅番組ならではの無茶振りも飄々とクリアしていく彼の姿には不思議な安定感がある。

 そして、その眼差しは美しい車窓の向こう側、人々とのふれあいから窺える国民性へと注がれていく。クロアチア編では農民たちが農閑期に描く伝統的な絵画から、彼らの繊細な感性を汲み取り、そして観光の影に隠れつつある1990年代の紛争の痕跡をたどる。ついには紛争で家族を亡くした親子へのインタヴューも敢行し、現在でも過去の争いが残した傷と向き合って暮らす人々の心を思いやるのだ。

 関口の魅力はそうした重たいテーマも、ほのぼのとした絵日記や自ら作る音楽で軽やかにアウトプットしてしまうところ。クロアチアでは「歩けば文化遺産と鉄砲弾痕に出くわす」とシンプルかつ的確に印象を記し、ハンガリーでは多民族国家の真髄を「自分を殺さない協調性」と表したうえで、現地で作ったエキゾチックなメロディの曲に「善き友を得たいならば、本当の自分でいなさい」と歌詞をのせる。スウェーデンの高福祉社会が実現した理由は「寒さへの備え」。「時代をやり終えてしまったよう」なポルトガルで感じる「大人さ」は昔の日本にもあったもの。と分析する深い洞察力も見逃せない。

 そして何より、見終えると旅に出たくなるのがいちばんのポイントだろう。リスボンで買ったポルトガルギターを手にホームに降り立ち、トコトコと歩いていく関口の姿にえもいわれぬ羨望を感じるのは私だけではないはずだ。