こんな時代だからこそ、多文化交流。多様性の世界に目を向ける学びの扉。

 旅に出られない時は、昔の旅のアルバムを開く。学生時代、リュック背負って巡った世界遺産。ギザのピラミッド、アテネのアクロポリス、イスタンブールのアヤ・ソフィア、ローマのコロッセオ、フィレンツェ歴史地区……インドのタージ・マハルでは親子記念撮影。自由に旅行できた時間が奇跡のように感じる。

 奈良・紀伊山地の世界遺産地では、バックパッカーの外国人旅行者と一期一会の旅談義。ユネスコ資料によると、1993年、日本初の世界遺産登録地は〈法隆寺地域の仏教建造物群〉〈姫路城〉〈白神山地〉〈屋久島〉の4箇所。2021年4月の段階で、日本国内23件。世界中の世界遺産総数は、1,121件が登録されている。

『はじめて学ぶ世界遺産50 世界遺産検定4級公式テキスト〈第3版〉』 NPO法人 世界遺産アカデミー(2021)

『きほんを学ぶ世界遺産100 世界遺産検定3級公式テキスト〈第3版〉』 NPO法人 世界遺産アカデミー(2021)

『くわしく学ぶ世界遺産300 世界遺産検定2級公式テキスト〈第4版〉』 NPO法人 世界遺産アカデミー(2021)

 さて、ここでご紹介する本は、NPO世界遺産アカデミーによる世界遺産検定公式テキストだ。一見、世界史と日本史と地理の参考書のような編集で、英語解説つき。「はじめて学ぶ世界遺産50」には、「こんな時代だからこそ、多文化交流をして世界に目を向けることが重要」と記されている。世界遺産検定試験に挑戦する人にも、歴史好き旅好きな人にも読み応えのある編集だ。

 そもそも世界遺産とはいつ出来たのか? きっかけは60年のエジプトのナイル川で始まったアスワン・ハイ・ダム建設。古代エジプト文明遺産であるヌビア地方の〈アブ・シンベル神殿〉や〈フィラエのイシス神殿〉がダム完成によって水没する難題が浮上。解決策としてユネスコは遺跡移築救済キャンペーンを世界に呼びかけた。

 〈観光〉と書いて〈光を観る〉。光があるなら陰もある。自然災害、観光被害、戦争・紛争による破壊の〈危機遺産〉もある。〈負の遺産〉も忘れてはならない。〈アウシュビッツ・ビルケナウ:ナチスドイツ強制収容所〉や〈広島平和記念碑(原爆ドーム)〉は、戦争という悲惨な過ちを繰り返さぬように平和希求への願いを込めて世界遺産に登録された。人種差別にまつわる〈負の遺産〉もある。奴隷貿易が行われたセネガル〈ゴレ島〉、人種差別反対のネルソン・マンデラも幽閉された南アフリカ〈ロベン島〉は、反人道的な行いの反省を込めて世界遺産登録された。

 悲しいかな、今も、ジェノサイドは深刻な問題だ。ユネスコ平和憲章〈戦争は人の心に生まれるものだから、人の心の中にこそ、平和のとりでを築かなければならない〉の言葉を心に留める。願わくば、ユネスコに加盟していない声の小さな民族や地域にも世界遺産登録チャンスを! そして、旅の自由を!

 2021年の世界遺産委員会では〈奄美大島、徳之島、沖縄北部及び西表島〉と〈北海道・北東北の縄文遺跡群〉も審議予定とのこと。吉報を待つ。