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「4年続いたメンデルスゾーンの旅はいったん、終わります」~初来日したカルテット・アロド~

 フランスの演奏団体とか、国際音楽コンクールの結果とかに興味がなければ、日本の音楽ファンの多くはカルテット・アロドを見逃していたはずだ。筆者も2017年10月に彼らの日本デビュー盤『メンデルスゾーン』(ERATO/ワーナー)を大して気にもとめず受け取ったが、しばらくして開封・再生した瞬間に己の不明を恥じた。なんと鮮烈で熱く、美しい音楽! めったに1位を出さない全ドイツ放送網(ARD)のコンクール(通称ミュンヘン国際音楽コンクール)で優勝した力量はもちろん、国際的に加速するメンデルスゾーン再評価の先端を担う意識の高さに圧倒された。

QUARTET AROD メンデルスゾーン Erato/ワーナー(2018)

 11月の初来日ツアーでも、後半をメンデルスゾーンの《弦楽四重奏曲第2番作品13》とした。しかし「そもそも13年にカルテットを結成したきっかけの曲。すべてのコンクールを制覇した“勝負曲”ながら4年も弾き続けており、そろそろ封印、次の一歩を踏み出したい」。セカンドアルバムでは一転、「シェーンベルクとツェムリンスキー、それぞれの《弦楽四重奏曲第2番》にウェーベルンを組み合わせる予定」という。「シェーンベルクは調性音楽から無調への移行期の作品。ウェーベルンは、その先に位置する。作曲当時、ツェムリンスキーの妹マティルデがシェーンベルクの妻だった。アルバム自体が1つのストーリーを語るように仕上げた」。難解とされた第2次ウィーン楽派の作品も初演後100年以上が経過、アロドの手にかかれば美しい古典に変貌することだろう。

 弦楽四重奏の愛好者は世界的にみて高齢者が多く、往年の名カルテット優位の市場とも思えるが、アロドは意に介さない。「弦楽四重奏は非常に壊れやすいアンサンブルだから4人が絶えず行動をともにし、古典と近現代の作品を並行して手がけ、4声それぞれの音楽性と技量を磨かなければならない。これは往年の団体でも私たちでも、変わらない。だが私たちはニコラウス・アーノンクールらが18世紀音楽の新しい地平を切り開いた後の世代に属し、旧世代とは様式観が決定的に異なる。“誰にも真実はわからない”という謙虚な気持ちで、白紙の状態から解釈を究める」と自負する。ツアーでは89年トゥールーズ生まれの若い作曲家、バンジャマン・アタイールへの委嘱作《弦楽四重奏のための「アスル」》の日本初演も成功させた。「カルテットの歴史に敬意を払って調性、フーガを採用しつつ、バンジャマンのアイデアも生かした」佳作だった。「古典と同時代の新作を両輪とすることは、現代の弦楽四重奏団の大切な使命。私たちも1~2年に1作のペースで委嘱を続ける」として、再現芸術のみならず創造芸術への積極的コミットを意識している。