ギターを手にアメリカを45日間にわたり放浪した経験が生み出したサード・アルバム
ガエル・ビュスウェルは、フランス人のロッカーである。すらりと長身、なかなか見栄えの良い彼女はパリ郊外の小さな街で生まれた。
「私の両親がブルースや70年代ロックの熱心な愛好者だったんです。家には沢山のヴァイナルがあって、それを聴いて育ちましたね」
まずは、親の渋いコレクションがあり。そして、彼女は様々な音楽に出会っていく。
「最初は、ジョー・コッカーに惹かれました。そして、ボニー・レイットやジョニー・ラングが大好きになった。彼女たちをはじめとして、ルーツ・ミュージックを聴き、私はインスピレーションを受けてきました」
そうした彼女の趣味は、何よりそのアルバムを聴けば了解できるだろう。アーシーなR&Rからしっとり目のスロウまで、それは本当に質と妙味を抱える。その様は、このまま成熟すると〈フランス版ボニー・レイット〉のような存在になれると思わせるものだ。
「その言葉は、本当に嬉しい。彼女はパーフェクト。私もギターを弾きますが、彼女のようにスライド・ギターはやりません。でも、私のバンドのギタリストはスライドもやり、マンドリンやドブロも弾きます」
彼女は曲も作るが、それらには英語の歌詞をつけている。
「英語で歌っているのは、私がずっと70年代のアメリカン・ミュージックを聴いていて、それが自然だったからです。そんなにフランスの曲は聴こうとしなかったけど、エディット・ピアフ、ジャック・ブレル、セルジュ・ゲンズブールらは好きですね」
この秋にリリースされた『New Day’s Wating』は、彼女にとって3作目となるリーダー作だ。
「フランスで録音していますが、一部は米国でも録音しています。過去、何度も米国には行っていますが、録音をしたのは初めて。きっかけは2年前に、45日間車で米国を回ったことがあったんです。その時オースティンにも行き、そこでホームレスのストリート・ミュージシャンのデイヴィッド・クックとジャム・セッションを持ったのですが、彼が素晴らしすぎたので、一緒に録音したかった。この新作には出会った人々や風景など、米国での経験が多々生きています」
メロディ性に富んだファンキー曲から滋味溢れるバラードやクライしているブルース・ロック曲まで、新作には〈生な〉手作り曲が並ぶ。そして、その中央にはビュスウェルのまっすぐな歌声が輝く。そのヴォーカルは音楽に対する純真や竹を割ったような潔さを山ほど抱えていて、それこそが彼女の表現の生命線であるのを伝えてくれる。