ロック・バンドのTHREE LIGHTS DOWN KINGS(通称サンエル)が4月4日(水)に新作『FiVE EXTENDER』をドロップする。これはバンドにとって初となる5曲入りのEPだ。

THREE LIGHTS DOWN KINGSは2007年に名古屋で活動を開始し、2013年にメジャーデビュー。それからも数々のフェスに出演するなど、シーンの中で着々と存在感を示してきた。2016年には新ヴォーカルのHiromuを迎えた新体制で、フルアルバム『始まりは終わりじゃないと確かめる為だけに僕らは…』を発表。自主レーベルの立ち上げも行い、勢力的な活動を続けている。既にロック・ファンの間では人気を獲得してきている彼らだが、今回のEPでは更なる新境地へ向かうという。〈5つのエクステンダー〉というタイトルに表されている通り、収録されている5曲はこれまでのバンドを前提にしたサウンドではなく、EDMやトラップ、ヒップホップなど現行のクラブ・ミュージックを意識したものになっているのだ。

昨年の米国では、ロック・ミュージックの売上がヒップホップのそれに抜かれた、という鮮烈なニュースがあった。それを示す様に、海外ではひと昔前に比べてロック・バンドによるヒット曲が少なくなったのは紛れもない事実である。そんな逆風に対し、サンエルのu-ya(ギター、プログラミング、スクリーミング)が語った〈昔の伝統を貫くだけじゃ勝ち目がない〉、〈今作は、今のロックの形はこうじゃない?という提案なんですよ〉という言葉は、希望ではなかろうか。ロック・バンドという枠組みを拡張しながら、自己更新を果たした背後にある彼らの想いに迫る。

THREE LIGHTS DOWN KINGS FiVE XTENDER santoeru Records(2018)

 

〈いわゆるロック〉のその先へ

――今作『FiVE EXTENDER』は、前作からまた一歩踏み出した感じのサウンドになりましたが、もともとやりたかったのはこういう音楽だったんですか?

u-ya(ギター、プログラミング、スクリーミング)「前作までは割とロックを意識していたんです。でも今作はロックとかジャンルを気にせず、THREE LIGHTS DOWN KINGSでやれること、やりたいことを中心にして作っていきました。EPというものも作ってみたかったですしね。もちろん前作もフルアルバムということで曲数も多くて、ロックを軸に展開しつつも振り幅は大きかったんです。でも今回は曲数も少ないし、軸を据えて展開するというよりかは1曲1曲際立つようにしたくて。ジャンルを一旦取り払ってやってみました」

Hiromu(ヴォーカル)「確かに、前作も振り幅が広くて。でも前作以上に振り幅は広く、前作よりも自分らしく歌えたんじゃないかなと個人的には思います。僕も加入して1年以上経ちますし、自分のバックボーンにあるロックだったり、ハードコア、R&Bという要素も少しずつ取り入れられたので、濃密になったかなと」

前作『始まりは終わりじゃないと確かめる為だけに僕らは…』収録曲“はじまりの歌”
 

NORI(ドラムス)「そう、僕も“HOPE”や“EDEN”といった曲では、良い意味で楽曲ごとの差を提示することができたと思います」

JUNE M(ベース)「あと“JUMP NOW!!”は会場限定シングルのために録った曲なんですけど、この曲や前作の収録曲でラップが入ったものもあったりして。良いなと思ったものに新しく挑戦することができているなと感じています」

――新しい挑戦という意味では、バンドでありながら音の質感がバンド・サウンドから離れた感じもあります。

u-ya「まさにそうです。僕が曲を作っているんですけど、昔から聴いているフォール・アウト・ボーイみたいに〈ロックなんだけどサウンドはロックじゃない〉というものをやりたいなと。今日本で言う〈ロック〉はいわゆるギター・ロックで、バンドがバッと音を鳴らす、みたいな感じですよね。そういう〈いわゆるロック〉の先に行きたくて。

バンドがバッっと音を鳴らさなくても、〈鳴らす音色はたとえエレクトロでもロックなんだ〉と感じられるような。もしかしたら〈バンドの音全然聴こえないじゃん〉って言われるかもしれません。でも、それはあえて意識して聴こえないようにしていたり、奥に引っ込めてあったりしています。前作の時も〈しっかりバンドを提示〉しつつ〈新しい要素を組み込む〉という2つのテーマがあったんですよ。でもそれがどうも上手くいってなかったことに気付いて、やりたいことを改めて考えていった結果がこうなりましたね」

フォール・アウト・ボーイの2017年作“HOLD ME TIGHT OR DON'T”
 

――なるほど。ただ〈バンドで音を鳴らす〉んじゃないロックとなると、例えばドラマーからしたら〈もっとロックのドラムっぽく叩かせろ!〉みたいな気持ちにはなりませんでしたか?

NORI「いや、楽曲ごとに合わせて音作りをしっかりしていったので、そういう気持ちはなかったですね。ロック色の強い曲は生音っぽくしたり、反対にそうでない曲は打ち込みっぽくしたり、そういう工夫が多くなって」

u-ya「〈こういうサウンド格好良いよね〉とか、〈○○みたいな音で〉とか、普段聴いている音楽を共有しあってすり合わせていってるからですかね」

NORI「ロックと打ち込みの融合みたいなところで言うと、最近はルーク・ホーランドというドラマーが好きで。外国人ドラマーのSNSとかを見ていると、昔と比べてビートが変わったなというのは感じます。特にやっぱりバスドラの入れ方が違うんですよね。あと説明するのは難しいですけど、単純な8ビートだけどパラディドル(叩くパターンの組み合わせ)などのルーディメンツ(基礎的な奏法)でビートを作って、そのまま曲にしたりして。ちょっと複雑なビートなんですけど、日本人も負けてられないので頑張りたいですね。いつか海外にも行ってみたいし」

ジェイソン・リチャードソンとルーク・ホーランドによる楽曲“OMNI”
 

――ベースはいかがですか?

JUNE M「ロックのベースだろうがシンセ・ベースだろうが、気持ち良ければいいと思ってます。シンセのベースはu-yaが打ち込んだものを鳴らしていて、僕が弾いている部分はあくまでロックの感覚で演奏していて。でもレコーディングではベースがシンセになっているところも、ライヴでは重ねて弾きます。そういう面ではやっぱり普通にバンドをやる時とは違う難しさもありますね」

u-ya「デジタルなサウンドなんだけど、ライヴ感も失いたくないので(笑)」

JUNE M「ステージだとドラムの音も打ち込みの音と一緒にバシバシ来てるしね」

NORI「やっぱりライヴでは音源を越えた良い演奏をしたいですからね」

――ライヴでは同期するトラックをPCから出していて。

u-ya「そうですね、必ずステージ上にPCを置いていて。本格的に一緒に鳴らし始めたのは2010年前後くらいですね」

――もしかしたら、オーディエンスの人はバンド以外の音が鳴っていることに気付いていなかったり、不思議に思っている人もいるんじゃないかなと思う時があるんですけど。

u-ya「僕自身も普通のバンドセットなのに、どこからともなくストリングスの音が聴こえてくるのは嫌なんです(笑)。観客から見える位置にPCや機材がないと成り立たない様な気がして。だからステージにPCを置くというのは個人的なルールです」

Hiromu「でも、音源を鳴らすからこそ得られるサウンドもあって」

JUNE M「そう、音源と同期するとは言っても、僕たちは別にエアバンドでも口パクをやっているわけではないですからね(笑)。そこに必要な音があるから鳴らしているだけで」

u-ya「あと、バンド・ミーツ・EDMみたいなジャンルはバンドがEDMの要素を勝手に取り入れていく感じですから、バンドの楽曲だけじゃなく最新のEDMもチェックしないと駄目なんです。打ち込みを使うようになってから、そういうことは意識するようにはなりました。音の作り方や手法が変わっていくので」

――なるほど。EDM以外はどうですか? 例えばトレンドの音楽でいうとR&Bとか。

u-ya「聴く分には好きですよ。ヒップホップの現場を観に行ったりとか、クラブに遊びに行ったりとかはないですけど」

Hiromu僕のルーツにヒップホップはないんですけど、前回のアルバムで人生で初めてラップをすることになって。今回も“JUMP NOW!!”と“HOPE”ではラップぽく歌っています。最近は〈やるからには聴かないとな〉と思って、海外のアーティストを聴いたり、『フリースタイルダンジョン』を観て勉強したり。でもロックとEDM、そこにラップの融合だなんて、日本だとみんな手をつけないジャンルだと思うんです。だからこそうまく出来たら面白いと思っていて。その挑戦が今回の作品に現れているんじゃないかと思います」

 

全く別のバンドじゃないかってくらい曲調が違う5曲

――リード曲の“HOPE”は本当に新しいサンエルを提示している楽曲に仕上がっていて。それこそデジタルと融合したようなMVも印象的ですが、この曲をリードに持ってきた理由は何かありますか?

u-ya「もともとリード曲にしようと思って制作したというのもあるし、僕らのベースにあるバンド・サウンドをトラップやフューチャーベースと組み合わせてうまく昇華させているので、リスナーにとっても分かりやすいかなと思ったのも理由ですね。タイトルはいつも最後に決めるんですけど、“HOPE”は制作当初からこの名前に決めていました。

MVについては、基本僕が制作の人たちとやりとりして進めていって、とにかく格好良くしてもらえたのが嬉しくて。先にアーティスト写真があってテーマカラーが赤と青だったので、そのイメージをうまく汲んでもらえました。撮影チーム(THINGS)の皆さんとは前から一緒にやりたいと思っていたので、こちらから声をかけたんです。そしたらMVに期待通りの外国人が出てきて、やっぱりわかってるなって思いました(笑)」

――他にも収録曲にまつわるエピソードなどあれば教えてください。

JUNE M「“RIDE or DIE”でシンガロングするところがあって、そこはお客さんと一緒に歌いたいんですけど、フレーズが難しくてなかなかできないという(笑)」

u-ya「そうそう、お客さんから〈あんなの覚えられないよ!〉ってクレームが来ました(笑)。YouTubeにシンガロングのレクチャー動画を上げようかな……」

JUNE M「でも“RIDE or DIE”はライヴでやっていて楽しくって、好きな曲ですね」

Hiromu「あと収録されてる5曲とも、全く別のバンドじゃないかというくらい曲調が違うんです。“HOPE”だけでも1曲の中でいろいろな声質を使い分けたりできて、自分の持っているスキルを全部込められたんじゃないかな。“Eden”は裏リード的な、今までの曲をさらにレベルアップさせたようなキャッチーさがあります。だから、この曲はストレートに歌いました。どれも気に入っています」

 

ヴィジュアル系バンドから学ぶこと

――先ほど最新の流行はチェックしているというお話もありましたが、今注目していることは何ですか?

u-ya「音楽じゃないんですけど、ヨーヨーですね(笑)。0.1gの誤算というヴィジュアル系バンドと〈異業種交流会〉という合同企画をやった時に、0.1gの誤算のメンバーがヨーヨーを持って来ていて。そこから小学校時代を思い出して、今もハマってます(笑)」

――まさかヨーヨーとは(笑)。でもヴィジュアル系バンドと一緒に企画をするのは意外な感じもします。

u-ya「もしかしたら10年前だったら〈ヴィジュアル系なんて〉という気持ちもあったかもしれないですね。でも今は、ヴィジュアル系のバンドの運営の仕方が本当にすごいんですよ! バンドなんだけど、昔ながらの伝統的なバンドの在り方に固執していなくて、常に新しいやり方を試みていて、とても興味深いなと思います」

Hiromu「そう、アイドルとかもそうですけど、バンドマンは見習うべきところがあると思うんですよ。ヴィジュアル系は世界観も出来上がっているし、衣装にもこだわっているし。90年代の日本でもヴィジュアル系のロックが強かったじゃないですか。僕もそういうところを通って来たので、取り入れられるところはどんどん取り入れていかないと」

NORIもうジャンルは関係ないですよね。格好良い音楽をやっていれば何でも好きになるし、何でも取り入れていく」

JUNE M「それにヴィジュアル系は何よりライヴが面白いんですよね。さっきの話じゃないですけど、ヴォーカルの歌声も全部入ってる音源を流しながら、ヴォーカリストがガンガン煽ってたりしていて。ロックの概念で言うと口パクがどうこう言う人もいると思うんですけど、それでお客さんも喜んでいたし、ライヴが成立していたんです。今までそういうものを見てこなかったので、新鮮で面白くて。まあ我々は歌声までは流さないですけど(笑)」

0.1gの誤算の楽曲“アストライアの入滅”
 

――そういう意味では、ジャンルだけでなく音楽の聴き方も変わってきていますし、プレイヤーだけでなくリスナーの意識も変わってきていますよね。

u-ya「確かにYouTubeもありますし、サブスクもあるし、ジャンルに関係なく色々な音楽に触れやすい時代に変化してきましたね。そういう環境が、僕らが今回新たな一歩を踏み出そうとする後押しをしてくれたところはあるかもしれません」

JUNE M「僕はCDもモノとして好きなので、CDを買いますけど(笑)」

 

〈今のロックの形はこうじゃない?〉という提案

――先ほどNORIさんが海外にも行ってみたいとおっしゃっていましたが、海外の活動も視野に入れてますか?

u-ya「積極的に考えているわけではありませんが、世界中の人たちにも聴いてもらいたいという気持ちはあります」

Hiromu「そうですね。ただ海外で活動するにしても日本語にはこだわりたいですね。僕たちは日本人だし、ネイティヴではないので、英語で歌っても勝てないし。だから日本語で歌った方が海外でも通用するんじゃないかと。例えば大先輩のラウドネスは、海外でのライヴ用に同じ曲で日本語版と英語版の二つの歌詞を用意しているそうですが、英語圏の国でも〈日本語で歌って!〉と言われたそうなんですよ。それが印象的で。

あとは海外のアーティストで言うと、僕は洋楽で一番影響受けたのがリンキン・パークなんです。セカンド・アルバムまではいわゆるミクスチャーみたいな感じなのに、3作目からは違う雰囲気の曲も入ってきて。最新作は時代に合わせてR&Bとかも取り入れていて、時代に合わせて音楽を深化させているんです。ファンからしたら批判もあるかもしれないけど、ああいうバンドになれたらいいなと思っています」

u-ya「たしかに日本で活動するにしても、海外でやるにしても、時代や音楽の移り変わりに合わせて自分が格好良いと思うことをやりたいっていうのはありますね。新しい挑戦をすることで今まで聴いてくれていたファンの方が離れてしまうということもあるとは思いますが、まずは自分たちから進化したっていうことを提示していきたいですね」

――いわゆる〈ロック・ミュージック〉から離れる寂しさみたいなものがあったりはしないですか?

u-ya「でもロックも常に進化しているから、必ずしもヴォーカル、ギター、ベース、ドラムスという形態だけがロックではないと思いますし。だから今回の作品も〈今のロックの形はこうじゃない?〉っていう我々からの提案なんですよ」

――たしかにギターの売り上げが減っている、なんてニュースもありましたし、ロックの形もどんどん変わっていくのかもしれないですね。

u-ya「悲しい面もありますけど、そうなってしまうのも仕方がないよなという気持ちもあるのが正直なところです。もちろん伝統を守る格好良さはありますけど、昔の伝統を貫くだけじゃ勝ち目がないというのも感じますし」

JUNE M「ただ時代が変わってロックというものの概念が変わっても、気持ち良いモノ、格好良いモノというのは変わらないと思うんです。だからそういう本質的なところを我々は大切にしていきたいんですよね」

――では最後にリスナーにメッセージをお願いします。

u-ya「4月26日からはツアーもあるので、ぜひそちらもチェックしてください。ロック・バンドが好きな人だけじゃなく、クラブ・ミュージックが好きな人も絶対楽しめるライヴになっているはずです。あらゆるジャンルの垣根を取っ払って、ごちゃ混ぜにしたくて、そういうイヴェントもやってきましたし。今はとにかく楽しい時間や場所をどんどん増やしていきたいですね」