北欧の伝統音楽に吹く、新しくてカラフルな風
北欧のルーツ/ワールド系のグループの世代交代が進んでいる。いやベテランたちの活躍も続いているのだが、それに加えて20代のメンバーによるグループが次々に登場して、北欧の音楽に新たな色彩感をもたらしつつある。この2グループは昨年末に来日してさわやかなライヴも披露済みだ。
カーリー・ストリングスはエストニアの出身の4人組で、紅一点エーヴァを中心とするフィドル、マンドリン、ギター、ベースのアコースティック・バンド。伝統音楽の要素もあるが、それ以上にアメリカのブルーグラスの影響を受けた演奏を聞かせる。フィドルを弾くエーヴァの歌声はポップス寄りで、オリジナル曲の歌詞にはオルタナ系のアーティストが普通に作りそうなテーマも。マンドリン奏者はブルーグラスを別次元に引き上げたパンチ・ブラザーズが好きだそうで、“トゥリアのマズルカ”のような曲を聴くと、なるほどねという感じ。透明感のある泥くささとでも言うべき音響がこのグループの特徴だ。
フィンランドのカルデミンミットは女性4人組。歌はコーラス中心で、演奏は伝統楽器カンテレのみ。カンテレは指で弾くツィターや筝の仲間の撥弦楽器。音が小さくて繊細だが、大型のカンテレの低音にはベースなみの響きがある。ビブラートの少ない声による清楚なコーラスとカンテレの組み合わせもよく考えられている。大先輩グループ、ヴァルティナに通じるところもあるが、演奏がヴァルティナとちがってエレクトリックではないぶん、はるかに優しく、落ち着いて聴こえる。伝承詞とオリジナル詞の曲があり、新曲も民謡を意識した作りだ。とはいえ“追い風”“ガラスの雹”“ライラック・ロード”をはじめ、複雑なコーラスの構成や、カンテレの音響空間の作り方には明らかに新世代らしさが顔を出す。
ブルーグラスへの接近とカンテレ・アンサンブルの深化。2枚を聞きくらべると、北欧の音楽で起こっている変化の方法論や次元のちがいがよくわかる。